五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その9
クシナの言葉に、治実はもちろん、他のみんなもぽかんとしていました。ですが、すぐにポン子は笑いだしてしまいました。
「アハハ、治実ちゃんが怖いって、そんなことないじゃんか。クシナちゃんったら」
他のみんなからもふふっと笑われるので、クシナはムーッとふくれっつらになりました。
「だって、ネコミはいつもクシナのこといじめるんですよぉ! きっと猫で油断させて、クシナを殴ろうと思ってるんですぅ」
「誰がそんなこと考えるかよ。あんまり適当なこといってるとぶっ飛ばすぞ!」
「ほらぁ、やっぱり殴ろうと思ってたんじゃないですかぁ! ポン子ちゃんたちも、どうしてネコミと仲良くしているんですぅ?」
「だって、こんなかわいい子猫たちのお世話をしてるんだよ。治実ちゃんはそんな悪い人じゃないでしょ」
愛子にいわれて、クシナはさらにほおをふくらませました。手足をばたばたさせて、じだんだをふみます。
「違うですぅ、絶対違うですぅ! だっていつもクシナのこといじめるんですよぉ! クシナにはわかるんですぅ、ネコミは極悪人ですよぉ」
「誰が極悪人だよ。もういいよ、お前はそこでじっとしてろ。絶対猫をさわらせないからな」
「猫をさわるなんて、こっちから願い下げだよ!」
いきなり男の子の声がしたので、みんなびっくりして公園の外へ目を向けました。治実の顔が険しくなります。
「……桃太郎!」
そこにいたのは、治実とケンカしていた男の子、桃太郎でした。桃太郎のそばには、がっしりした大型の柴犬が、鋭い目つきで治実をにらみつけています。
「なんでお前がここにいるんだ?」
「おいらだって好きでここに来たわけじゃねぇ。ただ、お供の犬の散歩してたら、ここに来ちまったってだけだ。それより治実、お前まさか猫の世話してるんじゃないだろうな」
「だったらどうする?」
桃太郎はギリッと歯ぎしりしてから、治実をビッと指さしました。
「今すぐその猫どもをどこかにやるんだ! 二度と猫にさわるんじゃねぇ。お前も知ってるだろ、おいらが猫アレルギーだってことを! お前がそうやって猫にさわったりしてるから、おいらもからだじゅうがかゆくなるんだ。だからその猫どもをどこかにやれよ」
あまりに身勝手ないいぶんに、治実は能面のような無表情で、桃太郎に向きなおりました。こぶしをわなわなとふるわせ、ぼそりと一言つぶやきました。
「ぶっ飛ばされたいんだな?」
「上等だ、おいらとお前、どっちが強いかはっきりさせてやるよ! それでおいらが勝ったら、二度と猫のほうがいいなんていわせねぇからな。お前も犬派になってもらうぜ」
「ハッ、面白い、乗った! あたしが飼ったら、犬のいの字もいわせねぇからな。もちろんお前も猫派になるんだぞ」
じりじりと間合いをつめる二人でしたが、そこに間の抜けた声が聞こえてきました。
「見つけたにゃよー、まっすぐだったぼうが、くいって横を向いたにゃ! にゃあのほうが早かったにゃよ」
「いいや、あたいのほうが先に見つけてたから、あたいの勝ちだ!」
ミイコとウルフィーが、二人同時に公園へ戻ってきたのです。二人は肩を並べて愛子の前へかけこんできました。
「ほら、にゃあのほうが先に愛子ちゃんにタッチしたにゃ!」
「あたいのほうが先にさわってたぜ! そうだろ、愛子!」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ、そんなのわかんなかったよ。二人同時だったと思うわ」
「そんなのだめにゃ! ちゃんと白黒つけるにゃよ!」
「あたいが先だったよな、な、な!」
二人がぐいぐいせまってくるので、愛子はもうたじたじです。花子が愛子と二人の間に割りこみました。
「はいはい、ストップストップ! 愛子ちゃんが困ってるじゃんか。それに本当にダウジングできたかわかんないじゃん。まずは二人が見つけたところに案内してよ。勝敗はそれで決めなくっちゃ」
わいわいみんながやりだしたので、治実と桃太郎はぽかんとしていましたが、やがて桃太郎がミイコたちに声をかけました。
「なんだよ、お前ら。いったいなにをケンカしてんだ?」
「なんだにゃ、おみゃーは? なんかウルフィーみたいに生意気そうな顔にゃねぇ」
「そうか、あたいは結構いい面構えだと思うけどな」
桃太郎はじろりとミイコをにらみました。
「なんだよお前のそのしゃべりかたは? 猫みたいなしゃべりかたして、まさかお前も猫派なんじゃねぇだろうな?」
「もちろんそうにゃよ。にゃあは化け猫にゃから、猫派に決まってるにゃろ」
「おっ、なんだよ、わかってるやつもいるじゃんか。あたしも猫派だ。あたしは猫田治実、あんたはなんていうんだ?」
「にゃあはミイコだにゃ。治実にゃか、猫派仲間が増えてうれしいにゃ」
治実とミイコがにやりと笑いあいます。その様子を、桃太郎とウルフィーがしらけたような顔で見ています。
「けっ、なにが猫派仲間だよ。弱いやつらほど群れやがるぜ。犬ってのはもっと硬派なんだよ」
「ん? ってことはあんたは犬派なのか?」
ウルフィーに聞かれて、桃太郎は胸をはりました。
「当り前だろ! 猫みたいな弱っちいやつらの仲間なはずないだろ」
「へぇ、気に入った! あたいも犬派なんだよ。あたいは狼女のウルフィーっていうんだ。あんたは?」
「狼女か、どおりで骨のありそうなやつって思ったんだ。おいらは吉備野桃太郎っていうんだ。やっぱり犬派が一番だな」
ウルフィーと桃太郎ががっしり握手します。その様子を、治実とミイコがしかめっつらで見ています。
「おいおい、あんたさっき弱いやつらほど群れるとかいってたじゃないか。あんたらはどうなんだよ? 群れてるんじゃないのか?」
「ふん、やっぱり猫派にはわかんないみたいだな。群れてるんじゃない。おいらたちは硬い友情で結ばれているんだ。お前らみたいな安っぽいつながりとは違うんだ」
「にゃんだにゃんだ、弱い犬ほどよくほえるって本当だったんだにゃ。おみゃーらみたいに口先だけのやつらはにゃあがボコボコにしてやるにゃよ」
「それはあたいたちのセリフだよ! やっぱりこぶしで決着つけないといけないみたいだな。あたいらにボコられて泣きっ面を見せてもらうからな」
四人とも完全に戦闘態勢に入っています。他のみんなは、もはやどうにも止められずに、ただただおろおろするだけです。
「それじゃあ始めようか。犬猫大戦争、開戦だ!」
いつも読んでくださいまして、ありがとうございます。
明日からは毎日1話ずつ更新していきます(日曜日は2話更新する予定です)。
だいたい夕方か夜あたりを考えていますが、時間は日によってずれるかもしれません。
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