五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その6
「ソフィーちゃん、もういい加減機嫌なおしてよ」
ポン子がソフィーの頭をなでながらいいました。いっしょのふとんに入っているのに、ソフィーはポン子に背を向けて、見向きもしてくれないのでした。
「愛子さん、それってタブレットかしら? リンコ先生が使ってるの見たことあるわ」
ポン子に背を向けたまま、ソフィーはとなりの愛子にたずねました。愛子はふとんに入ったまま、タブレットを起動していたのです。
「うん。パパのお古のやつ、もらったんだ。ヤマタノオロチのこと、いろいろ調べておこうかなって思って」
「ソフィーちゃん、ごめんってばぁ。ね、そんな無視しないで、機嫌なおしてよ」
「愛子さんそっちに行ってもいいですか? ちょっとこっちせまくって」
ポン子の言葉は全く無視して、ソフィーは愛子にたずねました。今日は愛子だけでなく、ミイコとウルフィーも泊まることになったので、ふとんが足りなかったのです。そこで四人分のふとんに、七人が入ることになったのでした。ソフィーはポン子といっしょのふとんに眠っていたのですが、愛子が寝ているふとんに逃げてしまいました。
「ソフィーちゃん……」
ポン子のすがるようなつぶやきに、くるりとソフィーがふりかえりました。むすっとした表情で、じろりとポン子をにらみつけます。
「どうせいっしょに寝てたら、またこちょこちょするんでしょ?」
「そんなぁ、そんなことしないよ。ホントだってば」
「どうだか。さっきは本当に苦しかったんですよ。やめてっていったのに、みんなで寄ってたかってくすぐって……。ポン子さんたちなんてもう知りません!」
再びそっぽを向かれたので、ポン子はがっくりと肩を落としました。
「残念だったにゃ、ポン子ちゃん。ソフィーちゃんはもう完全に怒ってるにゃよ」
ミイコがにゃししと笑いながら、からかうような口調でいいます。今度はポン子がふくれっつらになります。
「なによあんた、そんなこというなら明日連れて行かないわよ」
「にゃにゃ、ちょっと待ってにゃ。悪かったにゃよ。にゃあたちも連れて行ってほしいにゃ」
あわててミイコがとりつくろいます。ポン子はふんっと鼻を鳴らしてミイコを見ました。
「愛子さん、見ました? ポン子さんったら、ミイコさんのこといじめてますよ。わたしのこともくすぐってきたし、ひどいですよね」
「ちょっとソフィーちゃん、そうじゃないんだって。ねぇ、ホントにごめんってば。もう絶対くすぐらないから、ね」
「……じゃあ明日はずっと勉強会でいいですね」
「ダメッ!」
ポン子だけでなく、花子とクシナも声をあげました。ソフィーはジト目でポン子を見つめました。
「ならダメです。こちょこちょしたり、意地悪するポン子さんたちはきらいです」
「そんなぁ……」
面と向かってきらいといわれて、ポン子はがっくりと肩を落としてしまいました。まくらに顔をうずめるポン子は無視して、ソフィーは愛子にたずねました。
「愛子さん、そのタブレットって、いろんなことを検索したり、動画見たりできるんですよね? わたしもポン子さんのスマホでユーチューブ見せてもらったりしてたから、すごいあこがれてたんです」
「うん。動画も見れるし、いろんなことを検索できるから、本当に便利なの。ソフィーちゃんも見る? わたし、かわいい猫の動画がお気に入りなの」
「にゃにゃ、猫にゃか。愛子ちゃんはやっぱり猫派にゃね。犬なんかより、猫のほうがずーっといいにゃよ」
「なんだと? 聞き捨てならないね。猫なんかみたいな、気まぐれで生意気なやつらよりも、犬のほうが忠実でしかも勇敢だ。犬のほうがずーっといいものだよ」
ウルフィーが不満げにいいました。ミイコとウルフィーはいっしょのふとんで眠っていたので、お互い顔を見合わせにらみあいます。
「ふんだにゃ、おみゃーまだ犬のほうがいいなんて思ってるにゃか? 犬なんかより猫のほうがかわいいし、おりこうさんだにゃ」
「なんだと、いっとくが、猫より犬のほうが頭はいいんだぞ。それに飼い主にしっかりつくす、猫みたいにすぐ気が変わるやつらじゃないんだ」
「なにいってるんだにゃ、猫は自由な生き物なんだにゃ。だいたい飼い主につくすって、それっていいなりになるってことだにゃ。ま、ウルフィーはにゃあのいいなりにゃから、ちょうどいいにゃかね」
「なにぃ、だれがいいなりだ、こらっ!」
「飼い主につくすんにゃろ、ほら、にゃあが飼い主なんにゃから、つくすんにゃよ」
「こいつ、いわせておけば!」
「やる気にゃか!」
「うるさいっ、静かにしなさい! 寝れないでしょ!」
花子にどなられ、ミイコとウルフィーは口を閉ざしました。むすっとしたまま、二人はたがいに背中を向けて、眠りなおしました。
「でも、猫派か犬派かって、ずーっと昔から争われてきた、永遠のテーマだよね」
突然愛子がいいだしたので、みんな「えっ?」と聞き返しました。
「どっちが好きかで口論になって、それで別れたカップルもいるみたいよ」
「カップルって、恋人ってことですか? そんなことで別れる人たちもいるなんて、なんだか不思議ですね」
ソフィーが首をかしげて愛子を見ます。愛子は訳知り顔でうなずきました。
「うん。猫派か犬派かって、キノコかタケノコかと同じくらい争いの種になる話題だもんね」
「えっ、キノコとタケノコ? なにそれ?」
ポン子がぽかんとした顔で質問します。ソフィーがふんっと鼻を鳴らしました。
「ポン子さんは話に入ってこないでください」
「そんなぁ、ひどいよソフィーちゃん」
「まぁまぁ、ソフィーちゃんもそろそろ許してあげましょ。ポン子ちゃんたちも、もうソフィーちゃんをくすぐったらだめよ」
ソフィーはうぅっと顔をしかめていましたが、疑わしげにポン子に視線を向けます。
「……絶対ですよ」
「もちろん、もう絶対くすぐらないわ。約束するよ、ね、だから」
必死に頼みこむポン子を見て、ソフィーはふうっとため息をつきました。
「わかりました。でも、次くすぐったらもう知りませんからね。それと、ヤマタノオロチの調査はしてもいいですけど、ちゃんと宿題もしてもらいますからね」
ようやくソフィーがにこっと笑ったので、ポン子はほっと胸をなでおろしました。
「さ、それじゃあもう寝ましょう。明日は朝からしっかり調査しなくちゃいけないですからね」
ソフィーにいわれ、ポン子は何度も首をたてにふりました。ですが、愛子はちらりとソフィーを見てから、申し訳なさそうにいいました。
「ソフィーちゃん、みんなも先に寝てて。わたしもうちょっと調べものしてから寝るわ」
「愛子さん、大丈夫ですか? あんまり夜更かししたら明日大変ですよ」
「うん。もともとわたし、けっこう遅くまで起きてるほうだから。じゃあおやすみね」
愛子にいわれて、みんなも心配そうでしたが、すぐに眠りにつきました。愛子はしばらくタブレットをいじっていましたが、みんなが寝静まったのを確認してから、ぽつりとつぶやきました。
「さ、それじゃあ誤字チェックしてから、投稿しましょ」




