五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その4
「はぁー、ようやく終わった。全然ゴールデンウィークって気がしないよ」
お風呂の中で、ポン子がため息まじりにつぶやきました。結局勉強会は晩御飯の時間まで続けられて、ポン子たちはもうくたくたです。お風呂もずいぶん空いていたので、リンコ先生にいわれて先にお風呂に入ることになりました。
「でもまだまだよ。ポン子ちゃんたち、結局プリント二枚分しか終わらなかったじゃない。このままじゃ絶対ゴールデンウィーク中に終わらないから、明日からもガンガン宿題していくからね」
愛子にいわれて、ポン子たちはひぃっと悲鳴をあげました。ソフィーがくすくす笑います。
「でも、最後らへんはみなさんがんばってましたし、ちょっとずつ問題も解けるようになってきてますよ。なんとか終わらせましょう」
「ソフィーちゃんったら、無茶苦茶いうんだから……」
花子がお湯の中でのびをしながら、ソフィーをジト目で見つめます。と、そこにガラガラと脱衣所の入口が開いて、誰かが入ってきました。
「あれ、珍しいね。この時間ってあんまりお客さん来ないんだけど」
ポン子が入ってきた人影を見て、あっと声をあげました。
「あれ、ミイコじゃないの。今日はどうしたの?」
そこには化け猫のミイコがいたのです。人間に変化しているからでしょうか、猫耳もなくて、どう見ても人間の女の子です。ポン子に声をかけられて、ミイコはオレンジ色の目をくりくりさせました。
「あっ、ポン子ちゃんにゃ! ソフィーちゃんたちもいるにゃね。あと、その子は誰にゃ?」
ミイコが愛子の顔をじろじろ見つめます。
「この子は愛子ちゃん。人間のお友達なんだよ」
「にゃにゃ? 人間だったんにゃか。あ、もしかしてポン子ちゃんたちが通ってる、人間の学校のお友達にゃか?」
ミイコに聞かれて、愛子は首をこっくりしました。
「うん。ポン子ちゃんたちとはクラスメイトなの。初めまして。ところであなたも妖怪なの?」
「なんだ、知ってたのかにゃ。そうにゃ、にゃあは化け猫にゃ。ポン子ちゃんと同じで変化できる妖怪にゃ。それと今日は新入りを連れてきたにゃよ」
「新入り?」
ポン子がまん丸の目をさらに丸くさせました。ミイコはうなずいて、うしろにいた子を指さしました。
「この子にゃよ。狼男のウルフィーにゃ」
「えっ、男? きゃあっ!」
花子が悲鳴をあげました。愛子たちもあわててお湯にもぐって、からだを隠します。ポン子がミイコをにらみつけました。
「あんた、いくら子供でも、男の子は男湯に入らないといけないのよ! それなのに女湯に連れてくるなんて! このエッチ!」
「ちょっと待って、あたいは女よ! だいたいミイコが変ないいかたするからいけないんだ。あたいは狼男じゃなくて、狼女だよ!」
「えっ? 狼……女?」
ミイコの前に、灰色の長い髪をした、目つきのきつい女の子が進み出ました。確かに女の子でしたが、ポン子たちはぽかんとしています。
「でも、狼男なんじゃ」
「あたいは女だって! 狼男っていうのは、もともと狼に変身する人間たちのことを指していう言葉なんだ。あたいは狼に変身することができるけど、ちゃんと女だよ」
むすっとふくれっつらのまま、灰色の髪の女の子が早口で説明しました。しかしポン子はさらに質問しました。
「でも、出雲のお山に狼男、じゃなかった、狼女なんていなかったと思うけど」
「そうにゃよ。でもほら、呂樹が新しく創った妖怪たちが、新しく出雲のお山の住民になったにゃろ。ウルフィーもその一人なんにゃ。で、にゃあが面倒を見てあげてるってわけにゃ。にゃあの手下にゃ」
「誰が手下だよ! まったく、だからあたいは嫌だっていったんだ。なんであたいが、呂樹に創られたとはいえ狼の血を引くあたいが、猫なんかの世話にならないといけないんだよ!」
「なんだにゃ、そのいいかたは! にゃあがいないと夜にトイレもいけない怖がりのくせに、生意気にゃ」
「うるさい! 別にあたいは怖いわけじゃない! ただ月が出てたら変身しちゃうから、月が出てるかお前に確認してもらってるだけだ」
「なんにゃ、やる気にゃか!」
「お前がその気なら、いつでも相手になってやるぞ!」
「ちょっと、やめなさい!」
花子が銭湯中にひびきわたる大声を出したので、二人はびくっとからだを固くしました。
「まったく、ちゃんと銭湯の入浴ルール見なかったの? 銭湯では暴れるのは禁止なんだからね! 番頭さん見習いとして、銭湯で暴れる人は許しません」
花子のきぜんとした態度に、ミイコもウルフィーも小さな声で「はーい」とつぶやきました。おとなしくかけ湯し始めます。
「やっぱり花子さんはすごいわ。もうすっかり番頭さんね」
「そうかなぁ? でも、ソフィーちゃんも結構しっかりしてきたと思うよ。特にしゅくだ……ううん、なんでもない」
ソフィーから無言の圧力を感じて、花子はすんでのところで口を閉じました。ソフィーはなにもいわずに、ただふふっと笑うだけでした。
「ところでポン子ちゃんたち、ずいぶん疲れてる感じにゃね。学校ってそんなに大変なんにゃか?」
気を取り直したミイコが、お湯につかってポン子のとなりへ寄ってきました。ポン子はわざとらしくはぁっとため息をつきました。
「とんでもないところよ。まさかあんなにいっぱい漢字書かされるとは思わなかったわ」
「そうなんにゃか。にゃあたちも来年は、妖怪たちと人間との交流とかいうので、学校に通わされることになるらしいにゃ。でもポン子ちゃんの話を聞いてたら、ちょっと怖くなってきたにゃ……」
ミイコがぶるっとふるえます。
「とにかく宿題にだけは気をつけないと、とんでもないことになるわよ」
「そうですぅ、クシナももう宿題は見たくもないですぅ」
情けない声を上げるみんなを見て、ウルフィーはふんっと鼻を鳴らしました。
「へっ、お前らずいぶんヘタレだな。だいたいなんだよその宿題とかいうやつは。そんなやつ、あたいの狼の力で簡単にぶっ飛ばしてやるよ」
みんなぼうぜんとして、ウルフィーを見ていました。誰がツッコむかアイコンタクトをかわしてから、最終的にポン子がえんりょがちにいいました。
「ウルフィーちゃん、だよね。あのね、宿題って、別に人間とか妖怪とかじゃないんだよ……」
「あれっ、妖怪じゃなかったのか? ミイコから聞いたけど、お前らなんとかっていう妖怪が目覚めたかどうか、調査してるんじゃなかったのか? あたいはてっきり、そいつがその宿題ってやつかと思ったんだけど」




