五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その2
「あら、いいんじゃないの? みんながちゃんと宿題してくれたら、わたしも委員長として胸をはれるもの」
ソフィーの提案に、世織も賛成します。すると、愛子がえんりょがちにソフィーを見てからたずねました。
「ねぇ、ソフィーちゃん。その勉強会って、わたしも参加してもいい?」
「もちろんですよ。みんなでしたほうが宿題もきっとすぐに終わりますから」
うれしそうにほほえむソフィーを見て、愛子の顔もゆるみました。しかし、世織は少しすまなそうに首をふりました。
「ごめんね、わたしはゴールデンウィーク中もソフトボール部の練習があるから、多分参加できないわ。でもみんなしっかり宿題終わらせるのよ」
世織にいわれて、ソフィーと愛子はすぐにうなずきましたが、ポン子たちはたまったもんじゃありません。ポン子、花子、クシナの三人はそろって首をふりました。
「やだやだ、やだよ! せっかくのゴールデンウィークなのに、どうして宿題しなくちゃいけないのよ」
「そんなこといったって、やらなかったらまた居残りさせられたりするのよ。綿貫さんたちはそれでもいいの?」
めがねを指で直しながら世織がいいます。ポン子はうっと顔をしかめました。しかし花子が食い下がります。
「でもでも、わたしたちはヤマタノオロチの調査っていうとっても大事な使命があるんだよ。だから宿題なんてしてるひまはないわ」
「そうですよぉ、四月は結局調査できなかったんですからぁ、このままだとクシナ、女神さまに怒られちゃうですよぉ」
「でも、宿題しなかったら日美子先生に怒られちゃうけど、クシナさんはそれでもいいのかしら?」
世織に痛いところをつかれて、クシナもうっと、苦虫をかみつぶしたような顔になります。
「けどさけどさ、どうせやるなら、最後にまとめてやったほうがいいんじゃないかしら。ゴールデンウィークの最終日にまとめて宿題やるって決めて、それ以外の日は調査と遊びにまわしてさ。そうすればほら、宿題もちゃんとできるし、調査もできるし、ゴールデンウィークを心置きなく楽しめるじゃん」
もっともらしいことをいう花子でしたが、世織はちゃんとお見通しでした。
「どうせそうやって最終日まで遊んで、いざ最終日になったら、『こんなたくさんの宿題できっこないよ』とかいってやってこないつもりでしょ。長谷川さんも、そんなふうにごまかそうとしてもダメよ」
「うう……」
もはや万策尽きたのか、三人はがっくりとうなだれてしまいました。ソフィーと愛子がそんな三人をはげまします。
「大丈夫よ、みんなでやればすぐに終わるし、わかんないところも聞いてくれたら教えるよ」
「そうですよ、ちゃんとがんばりましょう」
二人にいわれて、花子がハッと顔をあげました。
「そうだ、じゃあソフィーちゃんと愛子ちゃんに計算ドリル見せてもらったら」
「ダメです! ソフィーさんも多田野さんも、教えるのはいいけど見せたり写したりさせたらダメですからね」
「じゃあ、ソフィーちゃんと愛子ちゃんに代わりにやってもらうですぅ」
「……さすがにそれはダメでしょ、クシナちゃん」
ポン子があきれ顔でクシナにいいました。クシナがムーッとほおをふくらませました。
「じゃあ、ポン子ちゃんはどうするですかぁ? ちゃんと計算ドリルに漢字帳をやるんですかぁ?」
「それは、その……」
言葉をにごすポン子に、クシナはにやりと笑って続けました。
「ほらぁ、やっぱりポン子ちゃんもちゃんとしないつもりですぅ。ダメですよぉ」
「うるさいわね、あんたなんか万年宿題忘れで居残り常連のくせに!」
「ポン子ちゃんだっていつも居残りしてるですぅ! クシナと同じですぅ」
「わたしは二人と比べたらそんなに居残りしてないし、そういう意味ではしっかりものね」
「でも花子ちゃん、席が愛子ちゃんのとなりなのをいいことに、いつも宿題こっそり写してるじゃん! 宿題提出ぎりぎりに写して、さもやってきたみたいに出してるでしょ! 知ってんのよ!」
「そんなこといって、ポン子ちゃんだって出雲の湯で、ソフィーちゃんの宿題写してんじゃんか!」
「居残りさんたちがうるさいですよぉ、みにくい争いですねぇ」
「あんたにいわれたくないわよ!」
ぎゃーぎゃー三人でケンカしだしたので、世織が声をはりあげました。
「ほら、ケンカしないの! それに三人とも、やってこなかったらどうなるかわかってんでしょうね!」
怖い顔でいわれたので、三人はヒッと息を飲んで、コクコク首をたてにふりました。
「でも楽しみだわ。わたし出雲の湯って入ったことなかったから。ねぇ、もしよかったら、わたしも出雲の湯にお泊りしてもいいかな?」
愛子の言葉に、みんなの顔がぱぁっと明るくなります。
「うん、もちろんだよ! ああ、楽しみだなぁ。これであとは宿題さえなければ……」
「たぶん、ううん、絶対に宿題いっぱい出されると思うわよ。そんなむだな期待はしないほうがいいわよ」
ポン子たちの祈りに、世織が冷静にツッコみました。そしてもちろん帰りの会で――
「はい、それじゃあみんながゴールデンウィークで遊びほうけて、四月中のお勉強を全部忘れちゃわないように、いっぱいプリントを用意したわよ」
日美子先生が教科書一冊分くらいの厚さのプリントを持ってきたので、ポン子たちは言葉を、そして意識を失っていきました。




