五月の話 ~あなたは犬派? それとも猫派?~ その1
「猫田さん、いい加減クシナさんにちょっかいかけるのやめてください!」
委員長をしているめがねの女の子、長野世織がたまらずどなりました。お昼休みに、治実がクシナを追いかけまわしていたのです。半泣きで逃げ回っていたクシナの前に、世織が立ちふさがります。
「けっ、委員長がいい子ぶっちゃって。お前だって気になるだろ、そいつがいったいどんな力を持っているのか」
「別に気にならないわよ。それに気になったとしても、猫田さんみたいに意地悪して力を引き出そうとするやり方は気に食わないわ。とにかくやめなさい。これ以上すると先生にいいつけるわよ」
世織がめがねを指で直しながら、きつい口調で注意します。治実は思わず笑ってしまいました。
「アハハ、おかしなこというな、委員長は。先生にいいつけたところで、あたしが止まるとでも思ってるのか? どうせあたしは不良生徒なんだし、先生なんて怖くもなんともないね」
「とにかくやめなさいよ! クラスメイトなのに、どうして仲良くしないのよ!」
「最初にやってきたのはそいつだぜ! あたしたちを変な泡につつんでさ。力を最初に使ったのはそいつだから、あたしが仕返しするのも当然の権利ってやつだ」
「だいたいあなたと吉備野君が暴れていたからいけないんでしょう? 二人が犬派か猫派かなんてばかばかしいことでケンカしていたのがいけないんじゃない」
「ばかばかしいとはどういうことだよ!」
治実だけでなく、背の低い色黒の男の子、吉備野桃太郎までもが、世織にどなりかかってきました。世織はうでを組んだまま、二人をじっとにらみつけます。
「だってそうじゃない。犬も猫もどっちもかわいいのに、なんでどっちがよりかわいいかなんて決める必要があるのよ。『どっちもかわいい』が正解でしょ」
さらりという世織に、治実と桃太郎は顔を見合わせました。
「そうか……。なるほど、そういう考えかたもあるか」
「さすがセオリーだぜ、やっぱ委員長してるだけあって頭いいな」
納得したようにうなずきあって、二人はそれぞれ席に戻っていきます。世織はあきれたようにため息をついて、それからクシナをふりかえりました。
「クシナさん、大丈夫だったかしら?」
「うぅ、ありがとうですぅ。クシナ、ネコミはとっても苦手ですぅ。どうにかならないですかぁ?」
「ネコミじゃなくて治実ね。まああの子は、強い力を持った子に対してライバル意識を持つからね。でも、今みたいにけっこう単純だから、うまくあしらっておけば大丈夫よ」
世織は小声でクシナに耳打ちしました。クシナはおびえたようにおどおどと、治実のほうを盗み見ました。
「ソフィーちゃんもどうにかいってほしいですよぉ。ネコミのとなりなんですからぁ」
花子と話していたソフィーに、クシナがうらみがましくいいました。ソフィーは困ったようにクシナに顔を向けました。
「もちろんわたしも、治実さんにはお願いしましたよ。だってクシナさんはわたしのお友達ですもん。わたしだけじゃなくて、花子さんや愛子さんからもお願いしたんですよ。クシナさんをいじめないようにって」
「でも、クシナいっつも追いかけられてるですよぉ」
ソフィーだけでなく、花子も申し訳なさそうに口をはさみました。
「うん。一応いったんだけどね。クシナちゃんに意地悪しないでって。でも、治実ちゃん聞いてくれないのよ。お前ら全然強そうじゃないから、そんなやつらのお願いなんて聞く必要がないってさ。それっきりよ」
「そんなぁ……」
たれ目がうるうるとうるんで、クシナはすがるようにソフィーと花子を見ました。
「でも、それこそクシナさんの力でどうにかなるんじゃないの? 猫田さんと吉備野君の体当たりを、完全に防いでいたじゃない」
世織にいわれて、クシナはムーッとくちびるを突き出しました。
「それができたら苦労しないですよぉ。クシナもあのとき、どうやったか全然わかんないんですぅ。気がついたら二人が光の泡の中に閉じこめられてて、それでクシナがやったってことになっててぇ……。本当にあれ、クシナがやったんですかぁ?」
「いや、そりゃそうでしょ。むしろクシナちゃんがやったんじゃなければ、誰のしわざなのよ」
花子がすかさずツッコみました。しかしクシナはまだ納得していないようで、ほおをふくらませています。花子はクシナの背中をぽんぽんっとたたいて、元気づけます。
「とにかく席は離れてるわけだし、休み時間とかも極力かかわらなければ大丈夫でしょ。それに、明日からゴールデンウィークなんだし、治実ちゃんとも離れられるじゃん」
「そうだ、ゴールデンウィークなんだけど、愛子ちゃんが、宿題がたくさん出るっていうんだよ。ホントかなぁ?」
愛子と話していたポン子が、会話に割って入ってきました。花子も不安げに愛子を見ます。
「えっ、愛子ちゃん、それホント? もうわたし算数ドリル解きたくないよ」
「あたしは漢字帳がいやだよ。なんで何回も漢字書き取りさせられないといけないのよ。漢字なんて読めればいいじゃないの」
「クシナはどっちもいやですよぉ。算数も国語も、理科も社会もきらいですぅ。ずーっと給食の時間だったらいいのにですぅ」
三人がそれぞれぐちをいうので、愛子とソフィーは思わず笑ってしまいました。世織は笑わず、じろりと三人をねめつけます。
「三人とも、ゴールデンウィークの宿題はちゃんとやってきてくださいね。宿題ちゃんとしてないと、委員長であるわたしが恥をかくんだから」
「そんなこといったって、いやなものはいやだもん。日美子先生いつも宿題多いのに、それがもっと多くなるなんて」
みぶるいするポン子に、花子もうんうんと首をたてにふります。
「しかも忘れたら居残りさせられるもんね。こないだなんか、わたし算数ドリルやってきたのに持ってくるの忘れちゃったの。で、ちゃんとやったって先生にいっても、証拠がないっていわれて同じ問題もう一度させられたんだよ」
「あたしなんて漢字帳出したのに、小テストさせられて、間違った漢字を二十回ずつまた書かされたんだよ。あのあと手が痛くなって大変だったんだから」
口々に文句をいう三人に、ソフィーがポンっと手をたたきました。
「そうだ、それじゃあゴールデンウィークは、みなさんで勉強会しましょうよ。出雲の湯でみなさんいっしょに宿題するの。そしたら楽しいんじゃないかしら」




