四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その12
――そうだったんだ、だからソフィーちゃん、最近やけにだれかの役に立とうって気張ってたんだ。よく考えたらあたしも、ソフィーちゃんのこと、かわいいかわいいとしかいってなくて、ソフィーちゃんのがんばりをきちんと見てあげてなかったかも――
気まずそうにソフィーを見るポン子でしたが、もちろんソフィーはなにも気づかずに、うれしそうに顔を輝かせています。
「でも、うれしいです。愛子さん、わたしのこと気にかけてくれたんですね。愛子さんだって、不思議なクラスメイトばかりで大変なのに」
「ううん、すごいわくわくしてます。そりゃあ、いきなりみんなが魔法みたいな力を使いだしたときは、びっくりしてどうしようかって思ったでしょ。でも、わたしずっとあこがれてたの。もし自分がそんなお話みたいな世界の主人公になれたらって。そしたらとっても素敵な毎日になるでしょ。だから、今はワクワクのほうが大きいです」
顔をほころばせる愛子を、みんなもほっとしたように見ています。愛子は胸に手を当てて、それから緊張したおももちで続けました。
「それで、クシナちゃんはヤマタノオロチの調査をしようと思ってるんでしょ。もしかしてそれ、みんなも?」
「うん、もうここまで話しちゃったし、今さら隠したっておんなじだから、全部話すよ。あたしたちは本当は、出雲のお山に住んでる妖怪なの。あ、クシナちゃんはちょっと違うんだけど」
「そうなんだ、じゃあやっぱり出雲のお山に妖怪が住んでるってうわさ、本当だったんだね」
愛子にいわれて、ポン子はあちゃーと頭を抱えました。
「そんなうわさ広がってたんだ。まぁでも、出雲のお山に人間が入ってくることはまず無理だけどね。妖怪専用の通り道があるんだ」
「じゃあ、ポン子ちゃんたちは今もお山に住んでるの?」
「ううん、今は出雲の湯って銭湯に住んでるんだよ。もともとソフィーちゃんと花子ちゃんは、そこの番頭さん見習いなんだ。今は番頭さんの仕事をウサミさんにまかせてるから、二人は夕方ごろにお手伝いする感じだけどね」
ポン子の言葉に、花子がほこらしげに胸をはりました。
「まだまだ見習いだけど、それでもけっこう慣れてきたんだよ。ね、ソフィーちゃん」
「うん。わたしまだドジばっかりだけど、花子さんとポン子さんがいつも助けてくれるから、なんとかやってます」
お互い顔を見合わせてから笑う二人に、愛子が身を乗り出しました。
「ねぇ、お願い、わたしも仲間に入れてほしいの! わたし、ただの普通の人間だけど、もっと妖怪の世界とか知りたいの、ね、いいでしょ?」
愛子の言葉に、みんなめんくらってしまいました。ソフィーと花子が、確認するようにポン子を見ます。
「そうね、もともとあたしたちが出雲小学校に入ったのも、人間たちのことをよく知るためだもん。でもうちのクラスメイトたちは、どう見ても普通の人間じゃなさそうだし。愛子ちゃんと友達になれば、普通の人間の暮らしのこともわかるかもしれないもんね」
ポン子にいわれて、愛子の顔がぱぁっと輝きました。ポン子の手を取り、まるで飛びはねそうな喜びようです。
「ありがとう! ホントはわたしも不安だったの、みんな不思議な力の持ち主だったでしょ。だからポン子ちゃんたちと仲良くなれて、すごいうれしい!」
「よかったですぅ、これでまたお友達が増えたですねぇ。これならヤマタノオロチの調査も、うまくいきそうですぅ」
クシナの言葉に、ポン子は目をむきました。
「ちょっと、あんたなにいってんのよ! それとこれとは話が別よ! ヤマタノオロチの調査は愛子ちゃんを巻きこめないわ」
「えっ、どうして?」
愛子に問いかけられて、ポン子は困ったように目をぱちくりさせました。
「どうしてって、だって、クシナちゃんの話じゃ、ヤマタノオロチはとんでもなく危険な化け物らしいのよ。むしろあたしたちだってどうなるかわかんないのに、普通の人間の愛子ちゃんを巻きこむのは、危険すぎるわ」
「でもわたし、ヤマタノオロチのことは本で読んだし、もし本のとおりだとしたら、弱点とかも知ってます」
みんないっせいに愛子に目をやりました。ポン子にいたっては、まん丸の目をこれでもかと丸くして、食い入るように愛子を見つめています。
「弱点とかあるんですかぁ? クシナはそんなの、女神さまから聞いてないですぅ」
「そりゃそうでしょ、あんたポンコツ……あ、ごめん、うそうそ、きっと女神さまがいい忘れてたのよ」
たれ目にいっぱい涙をためて、クシナににらみつけられたので、ポン子はあわててごまかしました。
「でも、弱点があるなら、あたしたちでもうまく封印できるかも」
「けどさ、ポン子ちゃん、封印する前にまずは調査しなくちゃいけなかったんじゃないの? クシナちゃんの話じゃ、まだ目覚めてるかどうかあいまいな状態なんでしょ」
花子が冷静な口調でツッコみます。
「そういえばそうだった。まずは調査しなくちゃだけど、でもどっちにしてもやっぱり愛子ちゃんを調査に巻きこむのはダメだわ。そんなの危険すぎるもの」
「でも、ポン子ちゃんたちも危険なんでしょ? それでも立ち向かおうとしてるんでしょ?」
愛子にいわれて、ポン子はうっと言葉につまりました。すかさず愛子がたたみかけます。
「それにわたし、ヤマタノオロチがどんな怪物かも知ってるから、きっと調査にも役に立つと思うわ。どんなところを調査すればいいかも、なんとなく想像できるでしょ。これでもダメ?」
「でもでも、危ないし、やっぱり」
「ポン子ちゃん、もうしかたないよ。愛子ちゃんきっといいっていうまでねばると思うよ。それならいっそのこと協力してもらおう」
「花子ちゃん、でもそれじゃあ」
花子はふふっと笑って愛子に向きなおりました。
「調査には協力してもいいけど、でも、危ないって思ったらすぐに逃げなくちゃダメだよ。わたしたちもすごい力があるわけじゃないし、それに封印じゃなくて調査が目的だもんね。だから、わたしたちも無茶はしないわ。……それでいいなら、いっしょに調査しよう」
花子の言葉に、愛子はうんうんと何度も首をたてにふりました。
「もうっ、勝手に決めちゃって。……まあでも、花子ちゃんのいうとおり、あたしたちは調査が目的だから、危なくなったらすぐ逃げるよ。みんなもそれでいいね?」
「はーい」
どうやら全員一致で賛成だったようです。やれやれと肩をあげるポン子に、愛子がふふっと笑って声をかけました。
「ありがとうね、ポン子ちゃん」
「お礼なんていいよ。だってあたしたち友達だもん」
さらっというポン子を、愛子は切れ長の目を大きく見開いて見つめていましたが、にっこりしてからうなずきました。




