四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その11
「とりあえずこの髪が真っ白な子がクシナちゃん、青い目をした、お人形みたいにかわいい子がソフィーちゃん、おかっぱのくりくりした目の子が花子ちゃんよ」
お昼休みに、ポン子たちは花壇のそばで愛子に自己紹介をしていました。教室だとみんなからいろいろ聞かれたりするかもしれないと考えたからです。これには愛子も賛成してくれました。
「クシナちゃんに、ソフィーちゃん、花子ちゃんにポン子ちゃんね」
「うん。よろしくね、愛子ちゃん」
花子たちと握手してから、愛子はほっとしたような笑みを浮かべました。
「でもよかった、みんなすごいその……なんていうか、濃い子たちばっかりだったでしょ。だから、ちょっと話しかけづらくて。でもポン子ちゃんたちは話しやすそうだし、ほっとしたわ」
「まぁ、見た目は普通じゃないけどね。特にクシナちゃんは」
ポン子にいわれて、クシナはムーッとふくれっつらをしました。
「それどういうことですかぁ? クシナはいたって普通の天女ですぅ」
「わっ、バカ!」
ポン子があわててクシナの口をふさぎましたが、愛子はふふっとおかしそうに笑って首をふりました。
「いいよ、クシナちゃんが不思議な力を持っているのは、さっきのでわかっちゃったでしょ」
「なんだ、やっぱりばれちゃってたのか」
頭をかくポン子でしたが、愛子は不安そうに目をふせました。
「たぶんだけど、ポン子ちゃんたちも不思議な力を持っているんでしょ。ポン子ちゃんはあの子たちと違うっていってたけど、同じお山小学校だし、きっと不思議な力を持ってるんでしょ?」
ポン子は困ったように、花子たちの顔を見ました。花子が軽く肩をすくめました。
「ポン子ちゃん、もうここまで来たら隠せないよ。それに今さら隠したところで、他の子も妖怪みたいな力を持ってるんだし。愛子ちゃんだけが普通の人みたいだから、愛子ちゃんを守るためにもわたしたちのことを教えたほうがいいよ」
「そうね、まぁしかたないか」
花子の言葉に、ポン子もこっくりしてから、改めて愛子に向かい合いました。
「そうよ、あなたが考えているとおり、あたしたちはみんな特殊な力を持っているの。まぁ、ソフィーちゃんと花子ちゃんはほとんど力を使えないけど、みんな人間じゃないことは確かよ」
「やっぱりそうなんだ」
しかし、言葉とはうらはらに、愛子の目はきらきら輝いていて、なんだかうれしそうに見えます。
「なんだか愛子ちゃん、わくわくしてるって顔してるけど」
「えっ? あ、うん。だってわたし、ファンタジーとかそういう物語ってすごい好きだったから。それで、不思議な力をみんなが使えるって知って、それに人間じゃない人たちと出会えるなんて、考えてみればすごいラッキーでしょ。……変かな?」
「ううん、変じゃないと思います。わたしも人間が書いた本とか読むの好きだから、愛子さんの気持ちわかります」
ソフィーが何度もうなずいたので、ポン子は意外そうな顔をしました。
――へぇ、ソフィーちゃんって本とか好きだったんだ。そういえば、入学式の日も、学校終わったあと出雲の湯に帰ってから、ソフィーちゃん熱心に教科書読んでたな。知らなかった――
ソフィーの新たな一面を知って、ポン子は思わず笑い顔になってしまいました。ソフィーが不安そうにポン子をのぞき見します。
「ポン子さん、わたしなにかおかしかったですか?」
ソフィーに聞かれて、ポン子はあわてて首をふります。
「ううん、違うの。ただ、あたしソフィーちゃんのこと、なんでもわかってるような気になってたけど、本当はいろいろ知らないことがあるんだなって思って、ちょっとうれしくなっちゃって」
「うれしく……ですか?」
首をかしげるソフィーに、ポン子はうなずきました。
「うん。だって知らないことがあるってことは、もっとソフィーちゃんのこと知ることができるってことだもん。あたしの知らないソフィーちゃんのことをもっと知って、もっと仲良くなれるなって思ってさ」
ソフィーの陶器のように白いほおが、うっすらと色づきました。恥ずかしそうにうつむいて、ソフィーはだまりこくってしまいます。花子が元気づけるようにぽんぽんっと背中をたたきました。
「ほらほら、それじゃああらためて自己紹介しましょ。まずわたしからだけど、わたしはもともとゆうれいだったの。ホントは正式なゆうれいじゃなくて、創られたゆうれいなんだけど、それはまたの機会にじっくり話すね」
「あたしは化けだぬきなの。あたしとクシナちゃんは、あたしが作った、くるりん葉って葉っぱを使って変化してるの。じゃあほら、クシナちゃんも自分のことちゃんと紹介してね」
「わかったですぅ、クシナは天女なんですよぉ。女神さまから選ばれた、デリート天女なんですぅ」
「……クシナちゃん、また間違ってるけど、デリートじゃなくてエリートだよ」
ポン子にツッコまれて、クシナはまたしてもフグのようにほおをふくらませました。
「ちょっといいまちがっただけですよぉ。とにかくクシナは、女神さまからヤマタノオロチの調査をするようにっていわれて、いろいろ調査してるんですぅ」
「ヤマタノオロチ? それって、日本の神話に登場する、八つの頭と八つの尾を持つっていう、あのヤマタノオロチ?」
「知ってるんですかぁ?」
驚くクシナに、愛子ははにかむように笑って首をたてにふりました。
「うん。神話とかも本でよく読んだから、知ってるよ。スサノオノミコトがクシナダヒメをくしに変えて、ヤマタノオロチをお酒で酔っ払わせてからお酒の入ったおけに顔を突っこませて、頭を剣で落としていったんでしょ。わたしが読んだ神話の本にはそう書いてたわ」
みんなへぇーと、感心したように声をもらしました。やはり恥ずかしかったのでしょう、愛子はソフィーと同じようにうつむいてしまいました。
「すごいですね、愛子さんは。神話の本とか読んだことないから、今度わたしにも読ませてください」
「うん。わたしが持ってるやつでよければ貸すよ。それか図書館にあるでしょ。……そういえば、ソフィーちゃんはどんな力を持っているの?」
「わたしは、別に力を持っているわけじゃないですけど、もともと人形だったんです。わたしも花子さんと同じように、ある人から創られた、呪いの人形だったんです。でも、リンコ先生……あの、妖怪のお医者さんなんですけど、リンコ先生にお薬をもらって、それを飲むことで人間になることができているんです」
「そうなんだ。でも、どことなくお人形さんみたいにかわいい感じがするなぁ」
ソフィーがわずかに目をふせたのを、愛子は見逃しませんでした。少しバツの悪そうな顔で、愛子はソフィーにあやまりました。
「……ごめん、もしかしてソフィーちゃん、お人形さんみたいっていわれるの、あんまり好きじゃなかったでしょ?」
「えっ? あ、いえ、そういうわけじゃないんですけど、その……」
ソフィーはいいよどんでしまいましたが、愛子がソフィーを気にかけるように、視線を送ってくれていたので、意を決してからうなずきました。
「その、もうわたしは人形じゃないから、自分のことは自分で決められる人間になりたいから、だからその……お人形さんみたいっていわれると、まだまだ人形なのかなぁって、自信がなくなっちゃうんです」
ソフィーの言葉に、ポン子はハッと顔をあげました。




