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夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その23

「なんだかよくわからないけど、変な黒い服着た男の人たちが見えたの。それで、その男の人たちが……」


 ぶるるっとみぶるいする愛瑠(あいる)の背中を、愛子と世織(せおり)がそっとさすって落ち着かせます。


「大丈夫よ、みんなそばにいるから、だから安心して」

「わたしはなんの力も持ってないけど、それでも愛瑠ちゃんのそばにいるでしょ。だから怖がらなくて大丈夫でしょ」


 二人になぐさめられたので、なんとか愛瑠は落ち着いたのでしょうか、ゆっくりと顔をあげました。


「……うん、ありがとう。ごめんね、でもすごく怖くて、いやな未来だったから」

「それで、その黒い服の男たちがどうしたの?」


 未来(みく)に聞かれて愛瑠は話を再開しました。


「まず、その黒い服を着た男たちなんだけど、いきなり現れたっていうか、その……生えてきたの」

「生えてきた? え、どういうこと?」


 ぽかんとしているポン子に、愛瑠は困ったように首をふりました。


「わかんないわ。だってそう見えたんだもの。とにかく砂の中から、頭が、それに一気にからだが生えてきて、それで、その……遥歌(はるか)ちゃんを捕まえたの」

「遥歌を?」


 未来が目を見開きました。他のみんなも穴が開かんばかりに愛瑠を見つめています。


「遥歌を捕まえたってコトハ、そいつらはワタシたちの敵ってことネ?」


 目をぎらぎらさせて、チェルシーが愛瑠にたずねました。いつものショートパンツに星条旗がプリントされたシャツという、かなり露出度が高い服のどこから取り出したのでしょうか? いつの間にか手にクナイを持っています。世織があわててチェルシーに注意します。


「ちょっとチェルシーさん、こんなとこでそんなもの取り出さないで! 早く閉まってください、警察沙汰になるでしょ!」

「デモ、愛瑠の予知だとすでにポリスの出番ヨ。早く愛瑠を守らナイト」

「チェルちゃん、ちょっと待ってってば。忘れてるみたいだけど、わたしの予知はいつ起こるかわからないのよ。だから今バタバタしても、大騒ぎになるだけだわ」


 愛瑠にもさとされて、チェルシーはしぶしぶクナイをどこかにしまいました。


「チェルシーちゃん、なんだかくのいちっていうより、手品師みたいでしょ」


 愛子が目を丸くして、どこにクナイがしまわれたのか探し回っています。チェルシーはくすぐったそうに笑って肩をすくめました。


「ソレヨリ、愛瑠のトークの途中だったネ。遥歌を捕まえただけならなんとかなるワ。デモ、それだけじゃないデショ?」


 チェルシーにいわれて、愛瑠は苦い顔でうなずきました。


「うん、あいつらは、あの黒い服を着た男の人たちは、遥歌ちゃんを捕まえて、それで……砂の中へもぐっていったの」

「もぐっていった? それって、あの、モグラみたいな感じにってこと?」


 ポン子の言葉に花子が思わずふきだしてしまいました。愛瑠はむっとまゆをつりあげてから、二人をにらみつけました。


「もうっ、笑いごとじゃないのよ、すっごく怖かったんだから。……でも、わたしに見えた予知はこれだけだったわ。遥歌ちゃんのそばに黒い服の男たちが現れて、遥歌ちゃんをつかまえて……砂の中へもぐって消えた。そこで予知は消えてしまったわ」

「でも、愛瑠ちゃんの予知っていつ起こるかわからないんでしょう? じゃあ、今から起こるかどうかもわからないんじゃ」


 花子に聞かれて、愛瑠は悲しそうに首をふりました。


「見えたときの遥歌ちゃんの服装、あのマーチングバンドのドレスだったわ。だから十中八九、今日、これから起きる予知のはずよ。もちろんそれがいつなのか、今すぐなのか、それとも握手会が終わったあとなのか、そこまではわからないけど、とにかく遥歌ちゃんが狙われていることだけは確かなのよ」


 重々しい空気が七人の間に流れました。その間にも、『しーずん♡』の、というよりも遥歌の前にはどんどん人が集まってきています。


「どうしよう、愛瑠ちゃんが見た未来って、いつ起こるかわからない代わりに絶対起こるんでしょう? それなら遥歌ちゃんは」


 真っ青な顔で声をふるわせる花子でしたが、世織が口をはさみました。


「男たちに捕まえられて、砂の中へもぐられる。見えた未来はそこまででしょう? ならわたしたちのすることは一つよ。変えることができないのは、吉見さんが見た未来だけよ」

「でも、それじゃあどうしようもないじゃんか!」

長谷川(はせがわ)さん、落ち着いて。いい? 吉見さんが見たのは、砂の中へもぐられるってところまでよ。つまり、そのままその黒い服の男たちに、逃げられてしまう未来かどうかは決まっていないってことよ」


 世織がいっている意味が分からなかったのか、花子はぽかんとした顔をしています。世織は油断なく遥歌のほうを見ながら話を続けました。


「砂の中へもぐられたら、確かにまずいわね。でも、わたしたちがしっかり準備していたら? わたしは時間を止められるし、チェルシーさんの忍術と体術は男たちを捕らえるのに役に立つはずよ」

「ってことは、そうか、そいつらが砂の中にもぐったときに」

「そう。もぐるところまで確定しているなら、そのあとの未来を()()()()()()()いい。吉見さんが見たのは、姫野さんがケガをしてしまうとか、そんな未来じゃなかったんでしょう?」


 世織に聞かれて、愛瑠はこくりとしました。


「うん。男の人たちに肩をつかまれただけだったわ」


 世織は満足げにうなずきました。


「なら決まりね。そういう意味では、吉見さんが予知を見てくれたのはファインプレイだわ。そいつらが現れてもぐった瞬間に、時間を止めればいいんだもん。タイミングさえわかればなんとかできるわ。……って、占部さん、どうしたの? そんな怖い顔して」


 世織がけげんそうな顔で未来を見ました。みんなも未来のほうをふりかえります。未来はじっとなにか考えこむようにうつむき、眉間にしわをよせていましたが、やがて「そうか」と一人でつぶやきました。


「未来を()()()()()()()いい……そうか、それよ!」


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

明日からはまた毎日1話ずつの投稿となります。

明日からもどうぞよろしくお願いいたします。

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