夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その22
「ふわぁ、すごい人だねぇ……」
ライブ会場に戻ってきたポン子たちは、人でごった返した砂浜を見て、思わずため息をもらしました。
「これだけ人が多いと、警備の人たちも大変そうね。さ、わたしたちも他の人に迷惑かけないように、キビキビ行動するわよ。そこっ! 長谷川さん、なにこっそり『グランドクラウド』の列に並ぼうとしてるんですか!」
世織に呼び止められて、花子がしぶしぶ戻ってきました。並ぼうとしていた列には、水着すがたの女の子たちが長蛇の列を作っています。
「ちぇーっ、せっかく『グランドクラウド』のメンバーと握手しようと思ってたのに」
「ついさっき注意したじゃないですか。ちゃっちゃと行動しないと、ほら、『しーずん♡』の列見てごらんなさいよ」
世織にいわれて、花子はもちろん、他のみんなも『しーずん♡』の握手会の列を見て、ひぇっと息を飲みました。
「すごい、めちゃくちゃ並んでるじゃん」
「あれ、でも『しーずん♡』はメンバーごとに列が分かれるんだね。遥歌ちゃんの列は……って、ダントツに長いじゃんか!」
ポン子がすっとんきょうな声をあげます。『しーずん♡』の四人、ハル、ナツ、アキ、フユがそれぞれテーブルをはさんで握手したりサインしているのですが、ハルの、つまり遥歌のテーブルの前だけ、とんでもない行列になっているのです。
「ポン子ちゃん、それだけじゃないでしょ。ほら、並んでる人たちを見て」
愛子にいわれて、ポン子は並んでいる人たちをじっとながめていきました。
「えっ、別に普通じゃない? なんか共通点でもあるの? だって男の人も女の人もいるし、家族連れの人たちも、おじいちゃんやおばあちゃんもいるし」
「じゃあ他のメンバーと比べてみたら、きっと気づくはずでしょ」
ポン子は首をかしげながらも、ナツ、アキ、フユの前に並んでいるメンバーにも目を向けました。
「……他の三人の前には、男の人ばっかりだね」
「ね、そうでしょ。女の子のグループだから、男の人のファンが多いのは当然でしょ。でも、遥歌ちゃんはそうじゃなくて、いろんな人が握手しようとしているでしょ」
「なるほど、愛子ちゃんがいいたいことわかったわ」
愛瑠がポンッと手をたたきました。ぽかんとしているポン子に、愛子に代わって説明を始めます。
「さっきの歌のときもそうだったけど、遥歌ちゃんの歌は、聞いてるみんなが感動してたわ。だから男の人とかそんなの関係なく、みんながその歌声に感動してるのよ。だってほら、あれ見てよ」
愛瑠が遥歌と握手しているおじいちゃんとおばあちゃんを指さしました。まるで命の恩人に接するかのように、遥歌の手をぎゅっと握って、何度もおじぎしています。おばあちゃんのほうはなんだか泣いているように見えます。
「遥歌ちゃんも見て、ほら、すごい素敵な笑顔……」
クラスではあの分厚いめがねにかくれていた、くりくりっとした目がきらきら輝いて、本当に自然な笑顔に見えます。学校ではいつもうつむいて、誰とも視線を合わせないようにしている遥歌が、おじいちゃんとおばあちゃんにしっかり向き合い、満面の笑みを浮かべているのです。
「本当に学校での遥歌ちゃんとは大違いでしょ。人気者だし、遥歌ちゃんもファンのみんなと握手できて、すごい喜んでるみたいでしょ」
愛子の言葉に、未来がふんっと鼻を鳴らしました。
「うまいこと力を使って、普通の人たちをだましてるだけじゃないの。あたしはそんなの絶対認めないからね」
「まったく、占部さんも素直になればいいのに……。あ、そういえばそうだったわ。わたしまだ姫野さんから、どうして力を使ってアイドルやっているのか聞いてなかったわ」
あちゃーと頭を抱える世織に、未来が肩をすくめていいました。
「そんなの別にどうだっていいじゃん。あいつも別に、悪いこと企んで力を使ってるわけじゃないみたいだし」
いい終わったあとに、未来はじろりと世織をにらみつけました。
「なによその顔は……そんなへらへらして、感じ悪いわね」
「別に、なんでもないわよ」
見まわしてみると、他のみんなもなんだかほほえましいものを見るような目で、未来のことを見ています。未来はムーッとふくれっつらになってから、ぷいっとそっぽを向きました。
「もう知らないわ!」
「ごめんごめん、もう、機嫌直してよ未来ちゃん。ほら、早く並びましょう」
愛瑠があわてて、未来の背中をぽんぽんっとたたいたときでした。列に並ぼうとしていた男の人とぶつかってしまい、めがねを落としてしまったのです。
「あっ、ごめんよ。きみ、大丈夫だったかい?」
男の人があわてて愛瑠にあやまりました。突然のことだったので、愛瑠もぺこりと男の人に頭を下げます。
「いいえ、こちらこそごめんなさい、まわりをちゃんと見てなかったから……えっ?」
顔をあげた愛瑠が固まってしまったので、男の人は目をぱちくりさせました。
「どうしたの? もしかしてどこか痛んだりするの?」
「あ、いえ、ホントに大丈夫です。ごめんなさい」
愛瑠が手をぶんぶんふったので、男の人は少し首をかしげていましたが、すぐに列に並びに行ってしまいました。その様子を見ていた世織が、小声で愛瑠にたずねます。
「吉見さん、まさか今のでなにか予知が見えたんじゃ?」
めがねをかけなおした愛瑠が、肩をふるわせています。みんなも愛瑠のそばに集まりました。
「いったいなにが見えたの? ねぇ、愛瑠、大丈夫?」
未来も心配そうに愛瑠の肩に手をふれました。愛瑠は真っ青になりながらも、なんとかうなずき顔をあげました。
「うん、わたしは大丈夫。でも、遥歌ちゃんが……」
「いったいなにが見えたの?」
「実は……」
いつもお読みくださいましてありがとうございます。
今日はこのあと19時台にもう1話投稿予定です。
そちらもどうぞお楽しみに♪




