夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その21
遥歌のテントから出たあと、ポン子たちはいったんアンブロシアまで戻っていました。ソフィーチームはまだ呼びこみで忙しそうだったので、ポン子たちはとりあえず休憩室で待機していたのです。これからどうしようかと話していると、未来がしかめっつらでたずねました。
「……で、どうするの? ホントに行くの?」
その質問に対して、花子がすごい勢いで首をたてにふります。
「もちろんだよ、未来ちゃん! だってサイン会と握手会だよ! イケメンアイドルたちと生でふれあえて、しかもサインまでもらえるなんて、こんなチャンスを逃せるもんですか。そして、うまいことイケメンアイドルたちと仲良くなって、ゆくゆくは……ぐへっ、ぐふへへっ」
不気味すぎる笑い声をあげる花子を、みんな気の毒そうに見つめています。
「花子ちゃん、かわいそうに……。今日は結構暑かったから、とうとうおかしくなっちゃったのね」
ポン子があわれむような口調でいいました。花子がじろっとポン子をにらみつけます。
「だれがおかしくなっちゃったのよ! わたしは正常よ。でも、それじゃあポン子ちゃんは、イケメンアイドルたちと握手したくないわけね。わかったわ、それじゃあわたしだけ握手してもらうから。あ、もちろんサインもダメよ」
ふんっと鼻を鳴らす花子に、ポン子はあわてて首をふりました。
「あ、いや、そういうわけじゃ……ごめんよ花子ちゃん、ほら、機嫌直してってば。あたしも握手会とサイン会に参加させてよ」
あやまり倒すポン子を、花子はにやにやしながら、わざとらしく首をひねって見ています。
「えー、どうしよっかなぁ。だってイケメンアイドルたちに、ポン子ちゃんみたいなお菓子ドロボウのぽんぽこたぬきを紹介しても、どうにもならないだろうしなぁ」
「あんたぁ! 誰がぽんぽこたぬきよ!」
「ホントのことじゃないの、ポン子ちゃん気づいてなかったの? わたしのお菓子バクバク食べてたから、だんだんおなか出てきちゃってるわよ」
「うそつきなさいよ! 別に太ってないし、おなかだって出てないわよ、たぶん……」
最後は自信なさそうにつぶやいてから、ポン子は自分のおなかを指でつまみました。
――そういえば最近ご飯もぱくぱく食べてたし、花子ちゃんのお菓子こっそり盗み食いするのも、やめられないし……。また去年みたいに、辛みそラーメンでも食べに行こうかしら――
出雲のお山に住んでいる妖怪の友達、きららを思い出して、ポン子は小さくため息をつきました。
――そっか、最近ずっと学校で忙しかったから、出雲のお山に帰ってないや。夏休みだし、アンブロシアから戻ったら、いったん巣穴に帰ろうかしら――
出雲のお山の妖怪たちを懐かしんでいるところに、世織のしゃんとした声が聞こえてきました。
「ダメよ二人とも、勝手に行動しちゃ。まずは姫野さんとの握手会が先よ」
しかし、世織にたしなめられても、花子はなおも引き下がりませんでした。
「やだやだやだ! 世織ちゃんずるいよ、さっきだってイケメンチェックを邪魔するし、もうわたし絶対従わないからね」
「あら、じゃあ長谷川さんは、ブリュンヒルデさんにあとで目いっぱいしかられても構わないのね?」
ヒルデの名前を聞いて、花子はビクッと固まってしまいました。思わず休憩室の入口を盗み見ますが、もちろんヒルデがいるわけもなく、花子はほっと胸をなでおろしました。
「うぅ、ヒルデちゃんにどやされるのはいやだよぉ……」
「それならちゃんと時間は守らないとね。今日の門限は六時までよ。握手するのにどれくらい並ぶのかわからないけど、多分姫野さんと握手するだけで精いっぱいでしょ。わかったかしら?」
花子はまだほおをふくらませていましたが、しぶしぶうなずきました。
「わかったよ、でも、今度こそ時間が余ったら、イケメンアイドルのサインもらいに行くからね」
花子の言葉に、世織はあきれ顔で肩をすくめました。しかし、その様子を未来はぶぜんとした表情で見ています。
「あたしは行かないわよ。握手会なんて興味ないし、だいたい遥歌と握手してなにが面白いのよ」
「未来ちゃんったら、そろそろ素直になったらいいのに。ホントは遥歌ちゃんのこと心配なんでしょ」
愛瑠がくすくす笑いながらいいました。未来は顔を真っ赤にして否定します。
「なっ、違うわよ! 誰があんなやつの心配なんてするもんですか! それにあたしはまだ、あいつのことを認めたわけじゃないんだから」
むきになる未来を、みんなほほえましい目で見ています。ますますムーッとふくれる未来に、世織がポンっと手をたたいて聞きました。
「じゃあ占部さんだけ待ってる? でも、待ってるなら多分片づけ手伝わされちゃうわよ。アルバイトのお姉さんたちを手伝って、今ごろみんなお皿洗ってるだろうし。ブリュンヒルデさんに伝えてこようかしら」
厨房に山のようにたまったお皿を思い出して、未来はうっと顔をしかめました。
「それは、いやだわ……」
「なら、占部さんもいっしょに行きましょう。別に姫野さんと握手しなくても、待ってるだけでいいんだし」
うまく世織が逃げ道を作ったので、未来のほおがかすかにゆるみました。
「ま、まあそうね。このままだったらヒルデちゃんにこき使われるんだし、そうなるくらいなら握手会にいったほうがましだわね。ま、ただ待ってるだけじゃひまだし、せっかくだから握手くらいはしてやってもいいわよ」
ふんっとそっぽを向く未来を見て、世織もほっとしたように笑いました。
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