夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その20
「遥歌、どうしたの? 誰か来てるの?」
運営テントの入口が開いて、先ほどのマネージャーさんが入ってきました。みんなやばいって顔でビクッとからだを硬くしました。
「あら、この子たちは?」
「あ、いや、その、あたしたちは怪しい者じゃなくって、その……」
ポン子がいかにも怪しい者といった様子で、首をブンブンふっています。ですが、みんなそれをツッコむ余裕もなく、どうすればうまくごまかせるか頭をフル回転させています。しかし、そんな必死に言い訳を探しているみんなをよそに、遥歌がみんなの前に進み出ました。
「メグミさん、この子たちはわたしのクラスメイトなの。あのね、今日はわたしのライブがあるから、招待してたのよ。で、せっかくだからテントにも来てほしいなっていってたのよ」
マネージャーのメグミさんは、目を丸くしてしまいました。
「……めずらしいわね、まさか遥歌が、いや、ハルちゃんが、学校のお友達を招待するなんて。どういう風の吹きまわし?」
メグミさんにいわれて、遥歌はふわっとした茶色の髪をそっとなでつけ、笑いました。
「いいでしょ、たまには。だってわたしもアイドルだし、みんなに自分のこと見てもらいたいって思っただけよ」
くったくのない笑いかただったので、メグミさんはキツネにつままれたような顔をしていましたが、すぐに顔をほころばせてうなずきました。
「わかったわ。じゃあ、とりあえず握手会までまだ時間あるし、ゆっくりおしゃべりしてなさい。あなたたちも、もしよかったら握手会参加してね」
メグミさんは満面の笑みを浮かべて、ポン子たちに手をふりました。ポン子たちはいったいどうなっているのかわからず、完全にぽかんとしているのでした。メグミさんがテントから出ていくとすぐに、みんな遥歌につめよりました。
「どうしてあたしたちをかばったの? あんたがうまいこといえば、あたしたちを追い出すこともできただろうに」
未来が冷ややかな口調でいいました。遥歌はおびえたように未来を見あげます。さっきまではきはきとしゃべっていた遥歌とは、完全に別人です。
「ちょっと占部さん!」
世織が声を荒げましたが、未来はふんと鼻を鳴らして、そっぽを向きます。
「別にあたし、お礼なんていわないわよ。もとはといえばあんたが悪いんだから。あんたが勝手に助けただけなんだからね」
未来にいわれて、遥歌はびくびくしながらもうなずきました。ですが、みんな気がついていました。言葉は乱暴でも、さっきまでのようなとげとげしさは、未来の声からはなくなっていたのを。そしてそれは、遥歌もちゃんと気がついていました。
「未来ちゃん……それにみんなも……その、あの……ありがとう」
口をもごもごさせながらも、遥歌はか細い声でお礼をいいました。未来がピクリとまゆをつりあげましたが、なにもいわずにわずかにうなずきました。
「ま、まあまあ、とにかくこれで謎の力を持つアイドルの正体もわかったことだし、一件落着ね。さ、世織ちゃん、約束通りイケメンアイドルチェックを」
「さ、みんなそろそろおいとましましょう。あんまり長居しても、姫野さんの休憩時間を奪っちゃうからね」
「え、世織ちゃん? あの、イケメンアイドルチェック……」
「ほら、長谷川さんも早く準備して。もう帰るわよ。もちろん変化はしないで、堂々と出ていくわよ。それに、当然わかってると思うけど、他のテントに入ったりはしないわよ。余計なことして姫野さんに迷惑かけたらいけないわ」
世織に冷静にいわれて、花子はウガーッとうなり声をあげました。
「ずるいよ世織ちゃん! 時間があまったら他のアイドルのところに行ってもいいっていったじゃんか! 世織ちゃんのうそつき!」
「わたしは別にうそなんてついてないわよ。ただ、残念ながらもう時間が少ないってだけよ。長谷川さんにはちゃんといったはずよ、時間があまったら他のアイドルのところに行ってもいいって。でも残念だけど、時間がないからね」
「いやいや、五時までまだ一時間くらいあるじゃんか! 全然まだ時間あるよね、そんなのずるいってばぁ!」
じたばたする花子の耳を、ポン子と世織ががしっとつかみました。
「ちょちょちょ、ちょっと痛い痛い痛い! なにすんのよぉ!」
「あんたがわがままいってダダをこねるからでしょうが! ほら、帰るわよ!」
「ごめんなさいね、休憩中だったのに、おじゃましちゃって。……でも、よかった。あなたといろいろお話できて」
普段は難しい顔ばかりしている世織が、にこりと笑いかけてきたので、遥歌は目を丸くしました。ですが、すぐに遥歌も笑いかえしました。ライブで見せたような作られた笑顔でもなく、おどおどした笑顔でもない、それはまさに素の遥歌が見せる笑顔でした。遥歌は分厚いめがねを取って、それからみんなにいいました。
「みんな、本当にありがとう。あの……よかったら、握手会にも来てね。」
遥歌の言葉に、未来はふんっと再び鼻を鳴らしました。遥歌がビクッとおびえたように未来を見ます。しかし、未来はひらひらと手をふってから、遥歌の顔を見ずにいいました。
「気が向いたらね。……でもあんた、ちゃんと笑えてるじゃんか」
テントの外に出ていく未来を、ポン子たちはあわてて追いかけようとします。出ていく前に、ポン子がみんなを代表して遥歌にいいました。
「じゃあ遥歌ちゃん、あとでね!」
みんなに手をふられて、遥歌はきょとんとしていましたが、すぐにとびっきりの笑顔で答えました。
「ありがとう、待ってるね!」




