表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

104/485

夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その19

 フゥーッと大きく息をはいて、未来(みく)はようやく言葉を止めました。遥歌(はるか)は完全におびえていて、うずくまり、誰とも目を合わさないようにうつむいています。それはまさに、からに閉じこもった貝のようです。愛子が遥歌の背中をなでて落ち着かせます。


「遥歌ちゃん、そんなに怖がらなくて大丈夫でしょ。わたしたちは遥歌ちゃんの味方だから。未来ちゃんも、もうひどいこといったらダメでしょ」


 愛子にいわれても、未来はふんっとそっぽを向くだけでした。ですが、さっき爆発したから、少しおさまったのでしょうか。遥歌に怒鳴り散らしたりはしませんでした。


「でも、わたしも少し気になるわ。わたしたち陰陽師候補生は、一般の人に力を使うことはご法度のはずよ。それに力を持っていると知られることも。姫野さんだってそれは重々わかっているはずよね。なのにどうして力を使っていたのかしら?」


 静かなトーンで、世織(せおり)が遥歌にたずねました。めがねをかちゃりとかけなおして、じっと遥歌を見つめます。遥歌はおびえきった顔で世織を見あげ、体操座りのままひざをぎゅうっと抱きしめ、そしてうつむいてしまいました。


「待って、違うのよ、別に姫野さんを責めようと思っているわけじゃないの。きっとあなたが力を使っているのも、なにか事情があるからでしょう?」


 おどおどと、遥歌がわずかに顔をあげて、盗み見るように世織を見あげました。世織はつとめて冷静に、安心させるようにゆっくりと、遥歌に語りかけ続けます。


「だから、もしあなたがしゃべりたくなかったり、しゃべったらいけないっていわれているのなら、わたしたちもそれ以上は聞かないわ。でも、多田野さんがいった通り、わたしたちはあなたの味方よ。誰もあなたのことをバカにしたり、きらったりはしないわ。……そりゃあ、占部さんはあなたをきらいっていってたけど、でも、それはあなたのことを知らないからよ」

「わたしのことを……?」


 世織は遥歌のとなりにすわって、同じ目線になって話を続けました。


「そうよ。占部さんが怒っているのは、あなたがみんなから距離を取っているからよ。あなたがきらいだからじゃないわ」

「でも……未来ちゃん、いつも怖い目で見てくるから、だから」

「それはあんたが輪の中に入ってこようとしないからじゃないの!」

「待って、占部さん!」


 世織に制されて、未来は思わずだまりました。世織はしっかりと遥歌と目を合わせました。


「あなたの力は、わたしも知らないけれど、さっきのライブの様子から考えると、きっと自分の歌声で他の人を魅了したりするタイプの力でしょう?」


 世織に聞かれて、遥歌は観念したかのようにうなずきました。


「……うん。わたしの力は、自分の歌に自分の気持ちをこめることで、それを聞いた人たちに、いろいろな効果を与えられるの」

「それって、ヒルデちゃんの料理と同じような感じかしら?」


 首をひねりながらつぶやくポン子に、遥歌は首を横にふりました。


「ううん、ヒルデちゃんのように、あんなすごい力じゃないわ。わたしの力は、他に力を持つ人たちには効果がないの。……それに……」

「それに?」


 うながす世織に、遥歌は目を伏せたまま、さびしそうに答えました。


「それに、わたし本当は音痴だから。そんな音痴なのに、自分の力を使って、アイドルなんてやってる。未来ちゃんがいうように、わたしはみんなをだましているの。だから、悪いことしてるから、そんなわたしが、みんなと仲良くなんて……」

「それは違うわ」


 首をふる世織を、ほおをはたかれたように目を見開いて遥歌が見ます。世織は遥歌と視線を合わせたまま、繰り返しいいました。


「それは違うわよ。だってあなたは、みんなが幸せになるように、そう気持ちをこめて歌っているんでしょう? そうじゃないと、あなたの歌を聞いた人たちが、あんなに幸せそうな、心動かされたような顔をしないわ。それってつまり、あなたが自分の力で、他の人を幸せにしたいって願っているからでしょう?」


 遥歌の目がわずかにゆれました。自信なさそうな顔で、口をもごもごさせていましたが、やがて首をふりました。


「……ううん、そんなのじゃないよ。わたしはずるい子だから、みんなにうそついて、アイドルしてるだけだから」

「でも、幸せにしたいとは思ったんでしょう? それに、仮にうそをついているとしても、みんなにとってはあなたの歌は、すごい力を与えているはずよ。だからあなたはアイドルをやめないんでしょう?」


 遥歌は世織から目を離すことができませんでした。世織もその視線を一心に受け止めてから、遥歌に語り続けました。


「そんな素敵な力を持っているんだから、だから誰もあなたをきらいになんてならないわ。……でも、あなたがわたしたちのほうを向いてくれないと、わたしたちも仲良くしたほうがいいのか、わからないわよ。あなたの本当の声で、ちゃんとわたしたちと話をしないと、みんなあなたのことを知ることができないでしょ」

「わたしのことを……?」


 世織が言葉を切ったので、遥歌も世織から視線を外し、迷っているように世織と地面を交互に見ました。長い沈黙が流れ、そしてようやく遥歌が口を開こうとしたそのときでした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ