夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その19
フゥーッと大きく息をはいて、未来はようやく言葉を止めました。遥歌は完全におびえていて、うずくまり、誰とも目を合わさないようにうつむいています。それはまさに、からに閉じこもった貝のようです。愛子が遥歌の背中をなでて落ち着かせます。
「遥歌ちゃん、そんなに怖がらなくて大丈夫でしょ。わたしたちは遥歌ちゃんの味方だから。未来ちゃんも、もうひどいこといったらダメでしょ」
愛子にいわれても、未来はふんっとそっぽを向くだけでした。ですが、さっき爆発したから、少しおさまったのでしょうか。遥歌に怒鳴り散らしたりはしませんでした。
「でも、わたしも少し気になるわ。わたしたち陰陽師候補生は、一般の人に力を使うことはご法度のはずよ。それに力を持っていると知られることも。姫野さんだってそれは重々わかっているはずよね。なのにどうして力を使っていたのかしら?」
静かなトーンで、世織が遥歌にたずねました。めがねをかちゃりとかけなおして、じっと遥歌を見つめます。遥歌はおびえきった顔で世織を見あげ、体操座りのままひざをぎゅうっと抱きしめ、そしてうつむいてしまいました。
「待って、違うのよ、別に姫野さんを責めようと思っているわけじゃないの。きっとあなたが力を使っているのも、なにか事情があるからでしょう?」
おどおどと、遥歌がわずかに顔をあげて、盗み見るように世織を見あげました。世織はつとめて冷静に、安心させるようにゆっくりと、遥歌に語りかけ続けます。
「だから、もしあなたがしゃべりたくなかったり、しゃべったらいけないっていわれているのなら、わたしたちもそれ以上は聞かないわ。でも、多田野さんがいった通り、わたしたちはあなたの味方よ。誰もあなたのことをバカにしたり、きらったりはしないわ。……そりゃあ、占部さんはあなたをきらいっていってたけど、でも、それはあなたのことを知らないからよ」
「わたしのことを……?」
世織は遥歌のとなりにすわって、同じ目線になって話を続けました。
「そうよ。占部さんが怒っているのは、あなたがみんなから距離を取っているからよ。あなたがきらいだからじゃないわ」
「でも……未来ちゃん、いつも怖い目で見てくるから、だから」
「それはあんたが輪の中に入ってこようとしないからじゃないの!」
「待って、占部さん!」
世織に制されて、未来は思わずだまりました。世織はしっかりと遥歌と目を合わせました。
「あなたの力は、わたしも知らないけれど、さっきのライブの様子から考えると、きっと自分の歌声で他の人を魅了したりするタイプの力でしょう?」
世織に聞かれて、遥歌は観念したかのようにうなずきました。
「……うん。わたしの力は、自分の歌に自分の気持ちをこめることで、それを聞いた人たちに、いろいろな効果を与えられるの」
「それって、ヒルデちゃんの料理と同じような感じかしら?」
首をひねりながらつぶやくポン子に、遥歌は首を横にふりました。
「ううん、ヒルデちゃんのように、あんなすごい力じゃないわ。わたしの力は、他に力を持つ人たちには効果がないの。……それに……」
「それに?」
うながす世織に、遥歌は目を伏せたまま、さびしそうに答えました。
「それに、わたし本当は音痴だから。そんな音痴なのに、自分の力を使って、アイドルなんてやってる。未来ちゃんがいうように、わたしはみんなをだましているの。だから、悪いことしてるから、そんなわたしが、みんなと仲良くなんて……」
「それは違うわ」
首をふる世織を、ほおをはたかれたように目を見開いて遥歌が見ます。世織は遥歌と視線を合わせたまま、繰り返しいいました。
「それは違うわよ。だってあなたは、みんなが幸せになるように、そう気持ちをこめて歌っているんでしょう? そうじゃないと、あなたの歌を聞いた人たちが、あんなに幸せそうな、心動かされたような顔をしないわ。それってつまり、あなたが自分の力で、他の人を幸せにしたいって願っているからでしょう?」
遥歌の目がわずかにゆれました。自信なさそうな顔で、口をもごもごさせていましたが、やがて首をふりました。
「……ううん、そんなのじゃないよ。わたしはずるい子だから、みんなにうそついて、アイドルしてるだけだから」
「でも、幸せにしたいとは思ったんでしょう? それに、仮にうそをついているとしても、みんなにとってはあなたの歌は、すごい力を与えているはずよ。だからあなたはアイドルをやめないんでしょう?」
遥歌は世織から目を離すことができませんでした。世織もその視線を一心に受け止めてから、遥歌に語り続けました。
「そんな素敵な力を持っているんだから、だから誰もあなたをきらいになんてならないわ。……でも、あなたがわたしたちのほうを向いてくれないと、わたしたちも仲良くしたほうがいいのか、わからないわよ。あなたの本当の声で、ちゃんとわたしたちと話をしないと、みんなあなたのことを知ることができないでしょ」
「わたしのことを……?」
世織が言葉を切ったので、遥歌も世織から視線を外し、迷っているように世織と地面を交互に見ました。長い沈黙が流れ、そしてようやく遥歌が口を開こうとしたそのときでした。




