夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その18
「へぇ、でもまさかあんたが、アイドルなんかやってるなんて、知らなかったわ。クラスじゃ地味で存在感なくて、おとなしくしてるのに、ステージじゃ人が変わったみたいに明るかったじゃない」
「そ、その、あれは、その……」
もごもごと口ごもって、遥歌はそのままうつむいてしまいました。うずくまったまま、視線を自分の足元に集中させて、みんなと目を合わせないようにしているのです。未来の眉間にしわが寄ります。
「でも水臭いわね。あたしたちクラスメイトなのに、アイドルやってるなんてちっとも教えてくれないなんて。でもこれで納得したわ。どうしてあんたがいっつも学校終わってすぐ帰るのか。アイドルのレッスンとか、撮影とか、そんなことしてたのよね」
「それは……その……」
遥歌の小さな背中が、ふるふるとふるえはじめます。みんなおろおろしながら、未来と遥歌を見ていましたが、未来はもう止まりませんでした。
「でもあんた、笑っちゃうくらいに音痴だったわよね。あたしびっくりしちゃった。あんなんでアイドルになれるんだったら、あたしだって、すぐにでもアイドルになれるわよね。あーあ、ホント幻滅しちゃったわ。あんな音痴で、よくアイドルなんてやってるわよね」
「その、違うの、その……」
「わかってるわよ、あんたの力でうまいことごまかしてるんでしょ?」
鋭い声で指摘されて、遥歌は思わず顔をあげました。真っ青になった顔で、未来と初めて向かい合います。
「……知ってたの……?」
「まさか。全然知らなかったわ。ただ、今日のあんたの歌を聞いて、まわりのファンたちの様子を見たら、誰だってそういう結論に至ると思うけど。まさか一般人相手に力を使って、それでアイドル気どりしてるなんて」
冷たく、はきすてるようにいう未来を、愛瑠があわてて止めました。
「未来ちゃん、いいすぎだよ。そんないいかたするから、遥歌ちゃんすごいおびえてるじゃない」
しかし、もう完全にスイッチが入ってしまったのでしょう、未来は止まりませんでした。
「まぁそれはいいわよ。あんたが自分の力を悪用しようが、一般人に使おうが、別にあたし、文句はいわないわ。でもね、これだけは教えてほしいのよ。力を使っていようが使っていまいが、そんなことはどうでもいいの。あんた、どうしてアイドルをやってるって、みんなに秘密にしてたの?」
それはいつもの明るく、気さくな未来の口調ではありませんでした。言葉の端々に怒りをこめて、冷ややかに、それでいてやけどするほどに熱く問いただしたのです。もちろん遥歌に、そんなすさまじい尋問に答えるほどの強さはありませんでした。
「う……うぅ、ご、ごめん……なさい……」
「んなこと聞いてないのよ! あんたがどうしてあたしたちに秘密を作ってたか、その理由を聞いてんのよ! 誰もあやまってほしいとかじゃないのに、ほんっとあんたってムカつくわね!」
「ちょっと未来ちゃん! 落ち着いてってば」
今にも遥歌につめよろうとする未来を、みんなあわてて止めました。みんなが遥歌の前に立ちはだかったので、未来はふんっと鼻を鳴らして遥歌を見おろしました。
「よかったわね、助けてもらって。でもさ、クラスのみんなが止めてくれたんだから、お礼の一つでもいったらどうなの?」
「あ……その……ごめんなさい……」
「あぁーっ! もう、うじうじうじうじ、ホントに辛気臭くてムカつくやつね! あやまるんじゃなくてお礼いいなさいっていってんのに、あんたもしかしてわざとやってるんじゃないでしょうね」
「ちょっと、未来ちゃん!」
愛瑠が落ち着けようと、未来のうでを取りました。未来はぱっちりした目を大きく見開き、遥歌をにらみつけてどなりました。
「あたしはね、前からみんなの輪に入らないで、うじうじこそこそしてるあんたがだいっきらいだったのよ! そうやってちぢこまってないで、なにかいってみなさいよ!」
「だから落ち着いてってば! そんな大声出したら、余計遥歌ちゃんなにもいえなくなっちゃうでしょ」
愛子も未来をなだめます。ハーッ、ハーッと、荒い息を整える未来に、遥歌がぼそぼそとつぶやいたのです。
「だって、だってわたしの、わたしの力は……」
「なによ、なにかいいたいことがあるならいいなさいよ!」
「だからもっと声を落としてってば。わたしたちがここにいるってバレたら、いろいろ面倒なことになるのよ」
世織に諭されて、未来はチッと小さく舌打ちしました。まだ射抜くような視線でにらんでいましたが、なにもいわずに遥歌の反応を待ちました。
「……わたしの力は、力を持ってる人には効果がないんだもん。だから、みんなに歌っても、ただ音痴にしか聞こえないから、だから、アイドルってバレたら、みんなにバカにされると思ってたんだもん。みんなにバカにされて、きらわれたくないから……」
「きらわれたくないから? ふんっ、そんな心配は無用よ。だってあんたのこと、もうすでにみんなきらいなんだから!」
「未来ちゃんってば! 今日の未来ちゃん、なんだかおかしいよ! どうしてそんなひどいことばかりいうのよ?」
愛瑠が必死に未来を止めます。声こそ荒げませんでしたが、未来ははきすてるような口調で答えました。
「だってこいつが、こんな態度とるからよ! みんなにきらわれたくないなら、もっとみんなと仲良くしようって、自分から輪に入っていかないといけないのに、こいつがしてるのは、みんなから遠ざかることばかりじゃん。それできらわないでください、仲良くしてくださいって、バカじゃないの?」




