夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その17
「かわいい、愛瑠ちゃんと世織ちゃん、頭にめがねが乗ってるよ」
「そういう未来ちゃんは、水晶玉抱えてるじゃないの。かわいいけど」
「あら、花子ちゃんは半透明になってるじゃない。ゆうれいに戻りかけてるから、気をつけるのよ」
「チェルシーちゃんは頭に手裏剣ついてるけど、それ、刺さらないの?」
「結局まともにハチに変化できたのは、あたしと愛子ちゃんだけか。まぁでも上出来ね。とりあえずみんなちょっとおかしなところがあるけど、ハチに変化できたんだし。それじゃあ運営テントにレッツゴーよ!」
ポン子がみんなに声をかけて、ハチとなった七人は、ブーンッと羽の音をかなでながら運営テントへと向かいました。
「みんな、もうちょっと高く飛ばないとやばいよ。あたしたちの今のすがたはハチなんだから、もし他の人に見つかったら、最悪駆除されちゃうよ」
「ノープロブレムネ。もし駆除されそうになったら、ワタシの手裏剣でやっつけるデス」
「チェルシーさん、そんなことしたら完全に正体がばれちゃうでしょ。とにかく綿貫さんのいう通り、もう少し高い距離を飛びましょう。それで、運営テントの様子を見てから、『しーずん♡』のメンバーが、できればハルさんがいるテントに忍びこまなくっちゃ」
世織の言葉に、ハチになったみんなはうなずきました。少し高度を上げて、それから様子をうかがうように、運営テントのまわりを旋回します。テントは屋根だけでなく、まわりも白い布でおおわれています。どこでアイドルが休憩しているのか、わからないようにしているのでしょうか。花子が羽をものすごい勢いで羽ばたかせて、グルグルっと宙を飛び回りました。
「さ、どこにイケメンが隠れているのかしら」
「長谷川さん、わたしの話を全く聞いていなかったでしょ。イケメンは後回しにしてください。まずはハルさんを探すのよ」
世織にツッコまれて、花子はつまらなさそうに羽音をたてました。と、そうやって様子をうかがっていた七人に、女の人の声が聞こえてきました。
「お疲れ様、でもハルちゃんはよかったの? 休憩時間なんだし、みんなといっしょに海に遊びに行ってもよかったのに」
「メグミさん、ありがとうございます。でもわたし、泳ぐの苦手だし、他の人の目も気になるから、ここでみんなを待ってます」
女の人の声にこたえたのは、どこかで聞いたことのある女の子の声でした。ポン子たちは顔を見合わせ、それからゆっくりと高度を下げていき、そのテントの中へとすばやく侵入したのです。
「そう。それじゃあいいわ、みんなが帰ってきたら、サインと握手会の準備ね。でもせっかく海に来てるんだし、たまにははしゃいでもいいのよ」
「はい、でもホントにいいんです。わたし、一人で本を読んでいるほうが、落ち着くから」
「遥歌ちゃんは本当にアイドルらしくないアイドルなんだから……。あ、ごめんなさい、ハルちゃんっていわなきゃダメだったわね」
遥歌と呼ばれた女の子の声が、くすっと笑って答えました。
「そんな、気にしないでください。今はわたしとメグミさんしかいませんし。本名で呼ばれたほうが、なんだか気楽ですし」
「そう……。ま、それじゃあゆっくり休んでてね。お疲れ様。もしなにかあったらいつでも呼んでちょうだい。となりのテントで、わたしも他の出演者のマネージャーたちと握手会の打ち合わせしてくるから」
そういって、メグミさんと呼ばれた女の人はテントの外へ出ていきました。メグミさんに見つからないように、急いでテントの影に隠れてから、みんなは一人残ったハルこと遥歌の顔を見たのです。さっきのステージで着ていた、マーチングバンドのドレスが、今は居心地が悪そうにもぞもぞしています。
「ふぅー……。緊張したよぉ。大丈夫だったかな、うまく力を使えたかな……。もし力をうまく使えてなくて、音痴になってたらどうしよう……。そうなったら、きっとみんなにきらわれて、『しーずん♡』も解散になっちゃうんだ。やだ、そんなの! ……いやなこと考えたら、ドキドキしてきちゃった。やっぱりめがねかけておこう」
くりくりした大きな目を、おびえたようにゆらしながら、遥歌は分厚いめがねをかけました。その顔を見て、思わず未来がさけんでしまいました。
「うそでしょ、やっぱり遥歌じゃんか!」
「ひゃあっ! 誰? そこに誰かいるの?」
かわいそうなくらいにおびえて、遥歌が半泣きであたりを見まわします。がたがたとふるえて、自分の肩をぎゅうっと抱きしめています。ついにはうずくまってしまう遥歌を、みんなあわれむように見つめています。
「もう、未来ちゃんったら、ダメだよ大声出しちゃ」
「ごめんごめん、でも、まさかあのアイドルのハルが、遥歌だったなんて思わなくって……」
「この声……ポン子ちゃん? それに、未来ちゃんも? みんなどこにいるの?」
こうなってしまっては、もうすがたを現さずにはいられませんでした。ポン子が変化を解いたのを皮切りに、みんなも次々変化を解いていきます。
「ふぇっ、ふぇぇっ! どうして、どうしてみんながここに?」
おびえきって、がたがたふるえる遥歌を安心させるように、世織がなだめました。
「そんな怖がらなくても大丈夫よ。わたしたちは別に、姫野さんになにかしようと思ってきたわけじゃないわ」
「でも、でもでも、聞いたんでしょう、わたしの歌を。それで、その、あの……」
口ごもるすがたは、もはや完全に教室での遥歌そのものでした。ちぢこまって、みんなと目を合わせないようにする遥歌を、みんなもどう接したらいいのか迷っている様子でした。ただ一人、未来だけをのぞいて。




