夏休みの話② ~音痴なアイドルと未来を変える占い師~ その16
世織の言葉に、みんな目を丸くしてしまいました。
「うそでしょ、世織ちゃんが知らないなんて! だって世織ちゃん、密君や芳二君、ドラクロワ君の力ですら知ってるんでしょ? それなのに遥歌ちゃんの力だけ知らないなんて、そんなことあるの?」
花子に問いかけられて、世織は暗い顔でうなずきました。
「残念ながら知らないわ。とりあえずなんらかの力は持っているってことは聞いていたけど、それがどんな力なのか、教えてもらっていないのよ。なんでも、『力を持っている君たちにとっては無価値な力だから』だそうよ」
「なにそれ、どういうことかしら?」
目をぱちくりさせる花子に、ポン子がいたずらっぽくほほえみました。
「ねぇねぇ、花子ちゃん、それにみんな。とりあえずあの子が遥歌ちゃんなのかどうかはわかんないけど、うまくそれを確かめることはできるかもしれないわよ」
「えっ、そんなのどうやるのよ?」
みんなの視線がいっせいにポン子に集まります。ポン子はにやりとしてから、ポケットからまん丸い葉っぱをいくつか取り出したのです。
「くるりん葉よ。これを使ってハチに変化すれば、うまいことあのハルって子に近づけるんじゃないかしら。そうすればきっとどんな子か正体がわかるはずよ」
「そっか、そういやポン子ちゃんは化けだぬきだったもんね。ただのお菓子ドロボウのドロボウだぬきじゃなかったもんね」
「花子ちゃんだけはハチじゃなくて、ゴキブリに変化するようにしておくね」
「ちょっとやめてよ! そんなことされたらわたしつぶされちゃうじゃんか!」
「あんたが最初に、ケンカふっかけてきたから悪いんじゃないの!」
「ポン子ちゃんがお菓子ドロボウするからでしょうが! アンブロシアに持ってきてた、『とろとろあんみつキャンディ』も、ポン子ちゃんがほとんど食べてたじゃないの!」
「あれはみんなで食べたんじゃないの! それにあたしよりクシナちゃんのが多く食べてたわ」
「二人でほとんど食べたんじゃんか!」
「なによ、やる気?」
「そっちこそやる気?」
完全にヒートアップする二人を、みんなあきれ顔で見ています。世織が代表で二人の間に割って入りました。
「ほらほら、二人ともそんなことしてないで、変化するなら早くしましょう。他のお客さんも、みんな海水浴場に戻っちゃってるし、『しーずん♡』のメンバーも、運営テントに入っちゃったわよ」
世織にいわれて、ポン子と花子が顔を見合わせて「あっ」と声を上げました。急いでポン子がみんなにくるりん葉を渡します。
「みんな急いで! 早くしないと『しーずん♡』のみんなが帰っちゃうわ!」
「いや、帰らないはずよ。だって今日は、ライブは三時までで、そのあと五時からサインと握手会だったはずよ。たぶん握手会まで休憩なり準備なりしてるんじゃないかしら」
未来がパンフレットを見ながら説明します。
「なんだ、じゃあ急がなくてもいっか。でも、サインと握手会に間に合わなくなったら本末転倒ね。それじゃ、さっそく変化を」
「ちょっと待ちなさい、こんな人ごみのど真ん中で力を使ったらまずいわよ。とりあえずどこか隠れられるところに行くわよ!」
宙返りしようとする花子を止めて、世織がとなりの松林を指さしました。ライブのお客さんたちは、サインと握手会まで泳いで過ごそうと思っているのでしょう。みんな海水浴場に向かっているので、わざわざ松林に入っていく人はいないようです。ここなら変化しても、誰も気づかないでしょう。
「それじゃあ早く変化して、運営テントに行きましょう! もしかしたら他のアイドルたちにも会えるかもしれないし」
そこまでいったあとに、ポン子はハッと口をふさぎましたが遅すぎました。花子が目をぎらぎら光らせて、ポン子の肩をがしっとつかんだのです。
「ポン子ちゃん、でかしたわ! そうよ、そうすればすぐにイケメンアイドルたちとふれあえるし、仲良くなれるわ! みんななにつっ立ってんのよ、早く変化してイケメンアイドルたちに会いに行くわよ!」
「長谷川さん、イケメンアイドルじゃなくてあのハルって子の正体を探りに行くんでしょう。寄り道して、他の人に力がバレたら大変でしょ。勝手な行動はつつしんでもらうわよ」
「いーじゃん、けちっ! ちょっとくらいイケメンアイドルと触れ合わせてよ」
じだんだふむ花子に、世織はなだめるように続けました。
「わかったわ、とりあえずハルさんが何者かわかって、なおかつ時間があったら、他のアイドルのところに行ってもいいわよ。でも、ちゃんと変化した状態じゃないと、警備員につまみ出されると思うから注意してね」
世織にいわれて、花子が喜びを爆発させます。
「やったわぁ! これでまた、『花子の逆ハーレム計画』が一歩前進ね。なんとしてでもイケメンアイドルたちと仲良くなるわよぉ!」
「まったく、どんな気合の入れかたよ……。まぁいいわ。とりあえずじゃあみんなにくるりん葉渡すね。それを頭の上に乗っけて、宙返りするといいわ」
「でもわたし、宙返りなんてしたことないし、運動音痴だからそんなのできないよ」
不安そうにいう愛子に、ポン子はふふんと得意そうに笑って答えました。
「大丈夫よ、あたしのくるりん葉を頭に乗っけたら、どんな人でも宙返りできるし、変化することができるから。だから心配しないでいいわ」
「ホント、わたしもびっくりしちゃった。くるりん葉乗っけてたら、うしろに飛ぼうとしただけで、風にだっこされたみたいにくるってなって、びゅんって音がして……。すごい気持ちよかったよ」
愛瑠も興奮した様子で愛子にいいます。
「そっか、愛瑠ちゃんはまくら投げのとき、ポン子ちゃんにくるりん葉乗っけてもらってたものね。わかった、やってみるわ」
みんな頭の上に、くるりん葉を乗っけます。チェルシーがワクワクしたように、ニコニコ顔でつぶやきました。
「それにしてもすごいネ! くのいちも変化の術は使えるケド、ポン子の変化はパーフェクトヨ。それに誰でもサマーソルトできるようになるナンテ、くのいち顔負けダワ」
「そうかなぁ、そんないわれると照れちゃうよ。あ、でもチェルシーちゃん、宙返りは一回だけでいいからね。いっぱいクルクル回転したらダメよ、他のお客さんたちに気づかれちゃうから」
ポン子にけん制されて、チェルシーはチェッと、かわいらしく舌を出しました。




