四月の話 ~空から降ってきた天女様~ その10
「……なんだ、なにが起こったんだ?」
色黒で野生児のような男の子が、目をぱちくりさせます。ベリーショートの女の子も、手足をじたばたさせてクシナにどなりつけました。
「なんだよこりゃ、おい、お前の力だろ、早くおろせ!」
クシナに突っこんできた二人は、クシナに体当たりする寸前で、光の泡に閉じこめられてしまったのです。手足をめちゃくちゃに動かしてからもがきますが、どうやっても光の泡からは出られません。
「くそっ、こうなったら!」
男の子はポケットから、小さなお団子のようなものを取り出しました。それを口に入れて、ハァッと気合を入れることで、男の子の両うでがけむくじゃらの、まるでけもののようなうでへと変わったのです。
「おっ、モモがキビフードを使うとは、珍しいな」
ヘンタイヨウといわれていたひょろながの男の子が、ぽつりとつぶやきました。モモと呼ばれた男の子は、鋭い爪が生えたうでで、光の泡をめちゃくちゃにかきむしったのです。しかし……。
「ちくしょう、どうにもならねぇぞ! おい、新入り! お前の力だろ、さっさと解除しやがれ!」
モモにどなられて、クシナはびくっと固まってしまいました。たれ目に涙をいっぱいにためて、上目づかいにモモを見あげます。
「そんな顔したっておいらはだまされねぇぞ! 早く解除しやがれ!」
「そんなのできないですよぉ、だって、クシナ、どうやったのかわかんないんですぅ……。クシナはなにも知らないですよぉ」
ヒックヒックと、クシナはしゃくりあげながら首をふりました。しかし、ポン子は確かに見たのです。二人がクシナにぶつかりそうになったときに、クシナの髪にさされた金のくしが、光り輝いたところを。
「なにも知らないだと、白々しい新入りね! お前らやっちまえ!」
ボーイッシュの女の子が、光のまくの中でもがきながら、クラスメイトたちに命令しました。しかし、誰もその子のいうことを聞きませんでした。
「おい、お前らどうしたんだよ! あの白髪のチビガキをやっちまえっていってるんだよ!」
「猫田さん、クラスメイトにそんなひどいことするなんて、だめに決まってるじゃないの。ほら、みんなも席について。あなたたちはカード没収だからね。学校にそんなもの持ってくるなんて」
委員長がみんなを席につかせていきます。猫田と呼ばれたボーイッシュの女の子は、じたばたもがきますが誰も助けてくれません。さっきカードゲームで遊んでいた、つんつん頭の男の子が首をふりました。
「おっと、おれのデッキはおれの魂に等しいんだから、渡せないぜ。ソーサラーたるもの、いついかなるときもデッキを持って、来るべきラグナロクに備えないといけないからな」
「はいはい、いつも通りなにいってるかわかんないけど、別にいいわ。でも、くれぐれも先生の前ではカードなんかで遊ばないでね。お山小学校の委員長たるわたしの名誉にかかわるんだから」
みんななにごともなかったかのように席に戻っていくので、ポン子たちも席に戻っていきました。愛子はまだとまどっているようでしたが、ポン子がついてくるようにうながしたので、おどおどしながらもポン子のあとを追いました。
「ねぇ、いったいどうなってるの、このクラス。あなたもこの人たちと同じ小学校だったんでしょ。あれって全部、手品かなにかだよね?」
愛子がポン子の服を引っぱって、小声でたずねました。
「あたしもわかんないよ。それに、あたしはこの子たちとは違うわ」
「でも、同じお山小学校だったんでしょ。お山小学校って、クラスが一つだけって聞いたし、あなたもあの子たちと同じクラスだったはずでしょ?」
ポン子はあいまいに肩をすくめました。
「ごめんね、あたしもわかんないことばかりだから……。でも、あんたは普通そうだし、とにかくあとで話を聞かせて。あたし、ポン子。えーっと……そう、綿貫ポン子」
ポン子が手を出したので、愛子もその手をにぎりました。
「ほら、そこの二人も早く席についてちょうだい!」
委員長の鋭い声が飛んできたので、二人はびくっとしてから、すぐに自分の席へと戻りました。もちろん席に戻っても、光の泡にとらわれた二人はそのままです。
――そういや今気づいたけど、このクラスの先生はみんなの力、知ってるのかな? 愛子ちゃんみたいに普通の人間だったら、愛子ちゃんと同じ反応をするはずだよね――
心配になったポン子は、そっとクシナの席へ目をやりました。クシナはポン子と違って、一番前の席にいます。あの金髪でポニーテールの女の子のとなりです。ちなみにクシナの列の一番うしろに愛子が、その前にソフィー、愛子の左どなりに花子がいます。
――クシナちゃん、教壇の目の前だけど、大丈夫かな――
クシナの様子をうかがうと、まだ肩をふるわせてうつむいています。泣いているのでしょうか。光の泡は消えるそぶりを見せません。
――どうしよう、先生にばれちゃったら、いろいろ大変だよ! でも、クシナちゃんも光の泡の消しかたわからないみたいだし――
あわあわするポン子の前にすわっていた、背が低い男の子がふっと顔をあげました。そういえばこの子は、クラスメイトたちの騒ぎには全く加わらずに、じっと眠っていたように思えます。
――あれ、この子――
男の子の後頭部を見て、ポン子は首をかしげました。ゴムのようなものが前からのびています。それがお面を止めるゴムであることに気がつき、ポン子は目をまん丸にしました。
――お面って、普通お祭りとかに小さい子がつけるやつだよね。なんでこの子、学校にお面つけてきてるの――
はてなだらけの頭で混乱するポン子をよそに、男の子は軽く指をふりました。そのとたん、光の泡がパチンッと割れて二人がドテンッと床に転げ落ちたのです。
「いてっ!」
二人同時に悲鳴をあげたので、みんなアハハと笑いだしました。
「モモとネコちゃん、ホントは絶対仲いいでしょ。犬派か猫派かなんてケンカしないで、仲良くすればいいのに」
クシナの右どなりにすわっていた、カードゲームをしていた女の子が笑いながらちゃかします。二人はまたもいっしょにどなりました。
「うるせぇっ! だれがこいつなんかと」
「こらっ、もうチャイムなったでしょ! 吉備野君も猫田さんも、早く席につきなさい」
いつの間に入ってきたのか、日美子先生が目をつりあげて怒りました。二人は顔を見合わせてから、すぐにお互いそっぽを向きました。
「ちっ、これでいい気になるんじゃないよ、新入り! 絶対仕返ししてやるからね」
日美子先生に聞こえないように、どすの利いた声でクシナにいうと、猫田は自分の席へとさっさと戻りました(ちなみにソフィーのとなりでした)。ぶるるっとみぶるいするクシナを見ながら、ポン子は苦い顔でため息をつきました。
――まさか、いきなりやっかいごとに巻きこまれちゃうなんて――




