覚醒2
僕は8歳になった。
この頃になるともう既に自我もハッキリとし、体も少しずつではあるが、思い通りに動くようになっていた。
そうなると、周りの様子も把握できるようになってくる。
父グレッグは、農夫を営みながら町の自警団長を務め、母ベロナは僕を育てながらグレッグの畑仕事を手伝っていた。
日々忙しそうではあったが、仲睦まじい2人を見ていると、僕も自然と笑顔になれた。
「父さん!今日は何時から剣の稽古をしてくれるの?」
僕はと言うと、初めて剣を握らせてくれた3歳の頃から1日もあけずに剣を持ち続け、最近になってやっと父さんが稽古をつけてくれるようになった。
「そうだな、夕方ごろになるが、それで良いな?」
「うん!それまで広場で遊んでくる!」
僕は腰に木製の短剣を提げると、うちの畑から飛び出した。
広場に行けば、同年代の友達が集まって遊んでいる。それに加わって遊び尽くし、その後に剣の稽古をするのが、僕の日課になっていた。
「レオ!遅いぞ!」
「ごめんごめん!今日は何するの?」
「英雄ごっこしようぜ!」
それから、太陽が地平線に近付き赤く燃え上がるまで、僕たちは全力で英雄ごっこに明け暮れた。
夕方が近づくにつれ、それぞれの親が我が子を迎えにやってくる。その中に僕の父さんと母さんはいないが、最後の1人になるまで遊んでから自分の帰路についた。
農夫は一日中畑から離れられない。
そんな事は十分分かっているので、親が迎えに来てくれなくても、もうなんとも思わなかった。
「ただいまー!!」
僕は、自分の家の畑が見えると、手を振りながら大きな声で叫んだ。
しかし、2人の姿は畑に見えない。
「あれ?今日はもう帰ったのかな?」
僕はそのまま、自宅へと足を向けた。
「ただいま!」
自宅の扉を開ければ、そこには出撃準備で簡素な鎧を着る父さんと、その手伝いをしている母さんがいた。
「レオ、おかえり。
父さんこれから出撃になったから、ちょっと家を空けるよ。」
父さんは、母さんから自分の剣を受け取りながら、そう答えた。
母さんはどこか複雑そうな顔をしている。
最近、出撃前はいつもこうだ。
父さんは唇を固く結び、母さんは切ない笑顔を浮かべる。
「あなた、団長を降りる事は出来ないの?」
母さんは父さんの手を握りながら言った。
「レオもこれからどんどん大きくなる。
あなたが居てくれなくちゃ、生きていけないわ。」
「ベロナ、別に俺は死に行くわけじゃない。いつも通り警戒して、帰ってくるよ。
俺は団長だ。この町を守ることがお前たちを守ることなんだよ。」
父さんはそっと母さんの肩を抱いた。
「そんなに難しい任務なの?」
2人の雰囲気がそう物語っている。
父さんは母さんを離すと、僕に近寄ってそっと頭を撫でた。
「最近、この辺りはとても物騒になってきている。町を襲う賊が力をつけてきているんだ。俺たちの中にも死者が出ている。」
父さんはそう言うと、グッと目に力を入れ、僕の顔を覗き込む。
「いいか?もしも、俺に何かあったら、母さんを守るのはお前だレオ。その為に今までお前に剣の稽古をつけてきた。そして、お前には剣の才能がある。
剣の修練を怠らず、もっともっと強くなって、母さんを守るんだぞ。」
僕は父さんの力強い目を見て、ゆっくりと頷いた。
「父さん、任せてよ。僕はもっと強くなる。
だから、帰ってきたらまた剣の稽古をしてね。」
父さんは口の両端をニッと引き上げた。
僕も同じく笑った。