覚醒
次に僕の意識がはっきりと芽生えたのは、父さんが僕に剣を握らせてくれた時だった。
それまで霧がかかっていたような頭の中は、剣の柄を握った時、サッと晴れ渡ったんだ。
「どうした?レオ。いきなり固まって。」
「まだ3歳よ?いきなり剣を握らせて、怖かったのよ。ね?レオ。」
僕の顔を覗く2つの顔。父さんと母さんが不思議そうな表情で僕を見る。
僕は視線を下に移した。
両手で太い剣の柄を握っている。
1人では決して持ち上がらないだろう重さの剣を、父さんが支えてくれているが。
「とうさん…!」
1人で持ちたい!
そう言いたいのに、中々口が言うことを聞いてくれない、もどかしい感覚に襲われる。
「どうしたんだい?疲れたかな?
やっぱり剣をいきなり握らせるのは、早かったかな。」
僕の思いとは裏腹に、剣は手から離された。
すると、急に悲しくなった。
その感情は、止め処なく溢れる。
「うえーん!!うわーん!!いやだー!!」
「あらあら!レオ!あれはおもちゃじゃないのよ?」
母さんは僕をすかさず抱っこして、父さんから離した。必然的に剣とも離れてしまった。
「どうしましょう、全然泣き止まないわ。」
「まいったなぁ。明日子供用の模擬剣を買ってくるよ。」
父さんはそう言うと、次の日本当に子供用の模擬剣を買って来てくれた。
最初に握らせてくれた本物の剣に比べると大分軽くて小さいが、3歳の僕には十分に大きい。持たせてくれた時には、体が剣の重力に引っ張られる感覚があった。
それでも、僕は体を左右に揺られながらも剣を握り続けた。楽しい、とこの時のこの小さな体で感じていたのだ。
「やはり、俺たちの子供だな。レオは。」
「そうね。生まれた時からあなたを見ていたからかしらね。」
父さんと母さんは優しく笑っていた。
僕もそれを見て嬉しくなった。
体は相変わらずヨロヨロと揺れるが、模擬剣は目的のない軌道を描いて空を切った。
コンコンコン
そんな微笑ましい空間を遮るように、家を誰かが訪ねて来た。
「ウェーバーさん!いるかい?」
勢いよく入ってきたのは、簡易的な鎧を纏った男だった。
「休みの日に悪い。出動だ。山の向こうで動きがあったみたいだ。」
「そうか、わかった。直ぐに向かおう。」
父さんはそう言うと、男と似たような薄い鎧を手早く着ると、僕に近付いて頭を優しく撫でた。
「ちょっと出かけてくるよ。」
「あなた、気を付けてね。」
母さんは父さんの額に優しくキスをした。
「あぁ、行ってくる。」
父さんはこうして、男と一緒に出ていった。