白い世界で
なんとなく覚えている。
自分には父がいて母がいて、仲間たちもいた気がする。それなりに充実していた人生。
ただ、心のどこかに寂しさや悔しさといった感情も持ち合わせていた。
この気持ちは何なのだろう。
「あー、君!酷い人生だったね。」
頭の中に何かが響いた。
ただ白い世界が広がる中で、誰かが自分に話しかけている。
「あ、私の事見えない?そうだよね、君には見えないよね。私尊いから。」
…どういうことだ?
「まああまり深く考えるな。」
頭の中の誰かはケラケラと笑った。
目の前は白いままで。
とにかく、今の自分の状況が全く分からない。
いつからここにいるのか、ここは何処なのか、自分は一体誰なのか、この声は誰なのか、
全く分からない。
「分からないのも当然さ。君は死んだんだから。」
そうか。自分は死んだのか。
何となく、直ぐに理解できた。
「そう、君は死んだ。
君の酷い人生は終わったんだ。一度ね。
たださ、ちょっとその酷い人生覗き見してたら、君に興味が湧いちゃってさ。こうやって話しかけてるわけ。」
自分の酷い人生に興味を?
自分の酷い人生など、一つも思い出せない。いや、寧ろ、何故だか思い出そうと努力をする気にも起きない。頭が考えることを停止しているようだ。
「ねえ、死後の世界に行く前に、私の為にもう一度生きてみないか?」
ボーッとする頭で考える。
でも何も分からない。無気力に声だけが通り過ぎていく。
「うん。この状況じゃ考える事もままならないだろうから、返事は求めないよ。ただ、私の退屈凌ぎに付き合ってくれれば良い。」
声はニヤッと笑った気がした。
見えないのに、何となくそう感じた。
「時代と場所は私が決めた。
いいかい。次はしっかりと勉強して、仲間の輪に入るんだよ。」
白い世界に光が差した。
目の前に人影が現れる。
その人影は自分の頭を撫でた。
暖かく、優しく、
そして静かに、自分の意識は落ちていった。