寂しがりはBLを知らない純情ガール
二条さんがご飯を作ってくれるようになったがあの後も話し合いを行い、いきなり毎日毎食というのもしんどくなるだろうと先ずは週に三日、それも晩ご飯だけ、からお願いすることになった。
曜日は、平日はランダムで二日、一日を土曜日ということになった。それを決めた時、二条さんはやけに土曜日を譲らなかった。何やら、「休みの日もこれで星宮くんと会えますね」とのことで、どういう意味で言ってるのか分かってるのかとツッコミたくなった。
そんなこと言われると意識したくないのに意識しちゃうじゃないか。
「星宮くん。あそこの見るからに筋肉マッスルな男性とスーツでバシッと決めたいかにも真面目そうな男性がハッスルしたら最高だと思わない?」
「知りませんよ……てか、真面目に仕事してくださいよ店長」
「えー、最高なんだけどなぁ」
「健全な男子大学生の新たな扉開こうとしないでくださいよ」
俺にはそういった趣味はないんですよ。例え、同性が相手だったとしても恋愛なんてしないと決めてんですから。
「ところで、星宮くん。恋人は出来た?」
「作る気ないんで出来ませんよ。出来たとしても店長が望むようなものじゃないんで」
恋人……と言った部分がいかにも店長らしい。彼女、と詳さないためルートが二つ用意されることになるのだ。
「若いうちに青春しておいた方がいいよ。さもないと、私みたいに三十過ぎて恋愛経験なし。その上、未だに夢見るような残念な大人になるからね」
「分かってるなら、婚活でもしたらいいじゃないですか。店長なら色仕掛けで男ほいほい捕まえれるでしょ」
「星宮くん。それは、セクハラだよ。クビにするよ」
「すいません。それだけはご勘弁を」
「それに、星宮くんは分かってない。私は私が結婚したいんじゃない。男と男がハッスルしている様子を壁になって見ていたいんだ」
「よくそんなこと大声で言えますね。恥ずかしくないですか?」
「腐っ……ここには同志しかいないからね」
まぁ、確かに周りにいる男の人も女の人もうんうん頷いてるから良い気分なんだろうけど。
「あの、すいません」
「はい、なんですか――って、二条さん?」
周りの空気に飲まれまい、としている後ろに二条さんがいた。この子はこんな所でまで俺を見つけるのか。見つけてしまうのか。
「わぁ、星宮くんじゃないですか。偶然ですね」
「ほんとに偶然か? 俺をストーキングしてきたんじゃ……」
「もう。失礼ですね。用があったんですよ。星宮くんこそ、どうしたんですか?」
「見て分からんか? バイトだよバイト」
「そうだったんですね。バイト姿の星宮くん……ふふ」
俺を見ては愉快そうに笑う二条さん。失礼な子だ。そんなに可笑しいか。
「そう笑われると傷つくぞ」
「あ、ち、違いますよ。星宮くんを笑ったんじゃなくて珍しい星宮くんを見れて嬉しかっただけです。そう、ひとつの卵から双子が出た時みたいに!」
「俺はスーパーで売られてる卵と一緒かよ」
「もちろん、星宮くんを見れたことの方が嬉しいですけど」
「あーー……そう」
調子狂う。
「星宮くん星宮くん。こちらはどなた?」
「えーっと、友達、ですかね」
チラッと二条さんを見るとニッコリ微笑んでいる。
「ほほーう。友達、ねぇ」
「店長、ニヤニヤしないでください……疲れるんで」
「むっ、失礼だね」
「そうですよ、星宮くん」
「なんで、二条さんまで参加してんだよ」
二条さんと店長を前に俺は客の邪魔にならないよう気を付けながら本の整理を始めた。巻数がバラバラになっている。まったく、困った客達だ、と本をとって表紙を見てぎょっとした。
そうだった……ここ、BLコーナーだった。二条さんの登場ですっかり忘れてたけど。って、え、二条さんBL買うの? 興味あるの!?
「と、ところで二条さんはどういった用件で?」
「それを聞くのは野暮だよ、星宮くん。彼女も興味あるからに決まっているよ。ね?」
「変なこと吹き込まないでくださいよ。で、二条さんの用は?」
「はい。欲しい本があるんですけど届かなくて誰かに取っていただきたいなと」
「なら、俺が取るから早く案内してくれ。一刻も早く」
「え、はい。店長さん、失礼します」
二条さんを連れてBLコーナーを出た。
「二条さん。もうちょい周り見ような」
「どういうことですか?」
「さっき、どこ入ったと思ってるんだ?」
「どこって、本が置かれてる内の一列ですけど」
「違う。あそこは二条さんみたいな人がほいほいと入っていいような場所じゃないんだよ」
「そんな……何度もここに来ていますけどそんな注意されたことないですよ?」
「じゃあ、今後はダメだって覚えておくように。よしよし、賢くなれたな」
「納得いきません。星宮くんは入っていたじゃないですか」
「俺は店員だからいーの」
「そんなの理由になっていません。他の方も入っていたのに私はダメなんですか?」
「ダメだね。だって、二条さんどこか気づいてないもん」
「どこって……」
「あそこ、BLコーナー。BLって分かる?」
「びーえる……?」
ほら、分かってない。まぁ、そっち系(百合)も分かってない様子だったから仕方ないけど。
首を傾げる二条さんに呆れて天を仰ぐ。
「BLってのはそうだな……あそこにいる男の人いるだろ?」
「はい」
「あの人と俺がこの前見たカップルみたいにイチャイチャすることだ」
数秒の後、何を想像したのか二条さんは真っ赤に湯で上がった。因みに、俺は自分で想像してしまい吐きたくなるほど気分が悪くなった。
「あそこは二条さんが入っていい場所じゃない。神聖な場所なんだ。二条さんが二人の男が裸でくっついてる内容に興味あるってんなら止めないけど」
「ううううううう……」
「ないなら入っちゃダメなんだよ。中にいる人にも失礼になるからな。分かったか?」
「ううううううう……で、でも、私だって」
「私だって、何? どうせ、二条さん耐えられなくなって逃げ出したくなるだろ?」
「そ、そんなことは……このご時世、そういうのもありますし……それに、マンガやアニメでもカップルが抱擁したりしてるシーンだってありますし……」
「で、二条さんはそれをどうやって見てるんだ? ボケーっとイチャついてんなーってくらいで見れるのか?」
「うう……手で隠しながら見ています」
「そんなこったろうと思ったよ。いいか、二条さんにはああいうのまだ早いんだよ。自分でも分かったら今後は気を付けること。いい?」
「うう。子ども扱いされてるようで悔しいです」
うう。うう。うるさいな。何回、言うんだよ。
二条さんに欲しい本がある場所まで案内してもらい、二条さんより背が高い俺が取った。その本はガッツリ少女マンガだった。中学生の女の子が読んでいそうな少女マンガだった。
立派な子どもじゃねーか!
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