百合ワールドに男はいらない
今までは自分の住んでる場所が天国だと信じていたがどうも違ったらしい。このマンションはどの部屋も同じ造りになっている。のにも関わらず、二条さんと俺の家の違いの差、というものを感じた。
なんか、玄関から既に良い匂いがしてるんだけど……俺ん家はどうだったっけ? いや、考えるまでもないな。無臭だった。
「ぼーっとしてどうしました?」
「いや、なんか匂うなって……」
「はうっ。く、臭いですか? 今すぐ消臭剤を」
「ち、違うから。臭くない。言い方が悪かった。良い匂いだよ」
「そ、それはそれで嗅がれると恥ずかしいです……」
恥ずかしそうにする二条さんの前に斑目が立ち、俺を威嚇するように睨み上げる。
「星宮。もし、真理音を辱しめて楽しんでるなら容赦しないわよ」
「辱しめてなんかねぇよ!」
「そう。この前みたいに真理音が辱しめを受けて泣きながら私の元に戻ってきたら消すから」
「さっきから消すってなんだよ……」
てか、班目に慰めてもらったのな、二条さん。ふたりを見る限りは二条さんの方が穏やかそうで慰めてあげる方だと思うんだけど逆なのか。
「言葉の意味通りよ。頭に入れておきなさい」
「二条さんへの愛が怖い。なに、斑目ってそっち系の人だったのか?」
「ばっ、へ、変なこと言わないでよ! 真理音とは友達よ!」
「いや、どう見たってそっち系の――なんでもねぇよ」
危ない危ない。これ以上、余計なことを言えば殺されかれない。うん、肉食獣の如く爪を立ててるし自粛しよう。
二条さんは「そっち系?」とよく分かっていなさそうだったが斑目のためにも黙っておくことにした。命は無駄に出来ないからな。
二条さんの部屋に案内され、丸テーブルを挟んで俺と斑目で対面していた。二条さんは「お菓子の用意してきます」と言ってキッチンへと向かってしまった。
「そんなに睨まなくても何もしないって」
「分からないでしょ。ひとりになった途端、下着漁ったりベッドにダイブするかもしれないじゃない」
「変態かよ! 誰が変態的行為するんだよ!」
「真理音の可愛さにやられて及ぶかもしれないでしょ。因みに私はやったわ」
「やっぱ、お前確信犯だろ……」
はぁ、と呆れながら部屋を見回してみる。二条さんの部屋は女の子の部屋って感じがして身体がどこかむず痒い。
てか、簡単に男を部屋にいれたりしていいのかよ……普通、ここはリビングで対応するべきだと思うんだが。そもそも、住んでる場所だって簡単に言ってたし……不用心だ。
「お待たせしました。どうぞ」
人数分のお茶とお菓子を用意して二条さんが戻ってきた。コーヒーとクッキーが前に並べられる。
「ふたりで何を話してたんですか?」
「星宮に注意してたのよ。下着を漁ったりベッドにダイブしないようにって」
「ふふ。九々瑠ちゃんは冗談がお上手ですね。そんなこと星宮くんはしないと思いますよ」
「そうだそうだ。もっと、言ってくれ」
「真理音。世の中は何が起こるか分からないの。怖いのよ。さっきだって、真理音がいないからって星宮、真理音のベッドを舐めるように見てたんだから」
「はあ!? ちょっと待て。何、ふざけた冗談言ってくれてんだ」
「冗談じゃなかったでしょ。じいっと見て……この変態」
「俺はベッドにあったクマのぬいぐるみを見てただけだ。あそこで二条さんが寝てるんだよな。ヘッヘッへ。ペロッ。とか、これっぽっちも考えてねぇよ!」
「うっわ、キモ。気持ち悪いったらありゃしないわ」
うん、今のは自分でもキモかった……って、違う。今は、そんなのどうでもいい。
「だいたい、斑目の方が酷いだろ。二条さん。こいつは二条さんのベッドで寝てるんだって。さっき、自分で言ってたぞ」
ふん、後悔しろ。俺にケンカを売った罰だ。二条さんに嫌われるようにしてやる。
「知っていますよ。だって、お泊まり会をする時、一緒に寝ていますから」
「し、下着を漁ったりもしてるんだってさ」
「はい、知っています。私が取ってとお願いしているので」
うーん、なんだろう。この、ことごとく会話が成り立たないのは。え、二条さんも本当はそっち系の人なの? だから、俺を部屋にいれてもなんとも思わないわけ?
「二条さん。友達はちゃんと選んだ方がいいぞ」
「はい、分かってます。ちゃんと仲良くしたい。大事にしたい。一緒にいたい。そう思える相手が九々瑠ちゃんです」
「真理音。好きよ。私もそう思ってる!」
「私もです、九々瑠ちゃん!」
なんだ、この百合ワールド。俺、絶対邪魔者じゃん。いない方が絶対いいだろ。斑目も普段絶対見せないような幸せな表情だし、二条さんも朗らかな笑顔で抱きつく斑目を受け入れてるし……俺、もう帰りたい。
「はぁ~真理音とこうしていられるだけで幸せ」
「私もです。九々瑠ちゃん、ずっと友達でいてください」
「当たり前よ。何があっても真理音と離れないわ」
「あー、うん。ふたりが仲良いのはもう分かったからそれ以上は俺がいない時にやってくれ。見てるこっちが変な気分になる」
そう横やりをいれてみても全く聞き耳を持ってくれなかった。俺は仕方なく、出されたクッキーを口にして時間を潰すことにした。
それからも、ふたりの世界らしきものが続き、どうして俺がこの場所に誘われたのか分からなかった。クッキーは美味かった。
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