自由の国 ナルダール連邦⑧
辺りが薄暗くなり、身を包む空気が涼やかになった頃、彼ら五人は宿屋近くの食堂に居た。
先程の騒動が収まった後、実はエルネスタも冒険者であることが判明し、五人は改めて食事を摂りながら今後の旅について話すことになったのだ。各々食事と酒を楽しみながら、概ね和やかな雰囲気でテーブルを囲む。
「それじゃー、北へ向けて出発して極北へ向かうってことでいいのねー」
ソフィーアが床に届かない足をぷらぷらさせながら言う。
「はい、そうしたいのですが、皆さん宜しいですか?」
「何改まってんのよ。リーダーが行きたいって言うんだもの、いいに決まってるじゃない!」
アイリスが隣に座る彼に肘で小突きながら同意する。
「そうだねぇ。リーダーが言うんだもの、異論は無いわよ」
アイリスに続き、ニヤニヤとリーダーをからかうような口調のエルネスタも同意する。
「俺も異論は無い」
最後に誰とも目を合わさずハルクミュートが頷いた。
「ありがとう!でも、皆してリーダーって呼び方やめてくれないかな…?恥ずかしくって…」
彼は赤面しながら伏し目がちに答える。
彼がリーダーに決まったのは乾杯の直後のことだった。ソフィーアが、リーダーを決めなきゃねー、と切り出し、続けて、私はセルドリックがいいと思うのよねー、と彼をリーダーに推したのだ。他の三人もセルドリックがリーダーに相応しいと同意し、彼は有無を言わさずリーダーとなったのだった。
彼は自身にリーダーを務める能力が無いと思い、何度も断ったがその度に皆に却下され、渋々引き受けた。冒険の経験も無く、人を纏める能力も無い。一体何故自分なのか不思議でならなかった。
「いつまでもウジウジしてないで、飲むわよ!」
アイリスが彼にジョッキを押し付ける。続けて、
「ほら、ミュートもいつまでも目を伏せてないで、会話に参加しなさい!」
居心地悪そうにひとり酒を飲むハルクミュートを叱りつける。
(なんか、母ちゃんみたいだな)
心の中で彼は呟き、アイリスの快活さに目を細めた。