自由の国 ナルダール連邦⑦
「ふふふー、合流出来たわねー」
ソフィーアが手を振りながら三人の方へと歩いて来る。
アイリスが屋上から声を掛けた後、セルドリック達はソフィーアと<ギネーカ>の二人と宿屋で合流する事になった。大声でソフィーアの名前を何度も叫ぶアイリスに気づいて、二人はここにやって来たのだ。
「アイリは元気ねー。よく声が聞こえたわよー」
ソフィーアの一言でアイリスの顔は燃え上がる。
アイリスの表情とは裏腹に、強張った顔の<ギネーカ>がソフィーアの隣に一人。彼女は細身ながら豊かな胸で、谷間がよく見える胸元の空いた丈の短いシャツを着ていた。その格好に、セルドリックは目のやり場に困り、目を泳がせていると、変態、とアイリスが小声で呟きセルドリックの鳩尾に肘鉄を入れた。
「貴様…!よくも堂々と俺の前に姿を見せたな」
悶えるセルドリックをよそに、彼は<ギネーカ>を睨みつける。
「誤解だ、誤解!」
<ギネーカ>が両手を横に振りアピールをする。
「これ、渡そうと思って。いや、アンタが落としたのを見たからさ」
そう言って皮の袋を差し出す。<ギネーカ>の差し出した皮の袋はずっしりと重そうで、中には硬化が沢山入っていると見える。
「盗んだ物をわざわざ返すのか…!」
彼は怒気を孕んだ口調で詰め寄り、腰元の剣に手を掛けた。慌ててセルドリックが止めに入る。
「貴方ねえ、こんな所で女の子斬るつもり!?」
アイリスが先程とは違う意味で顔を真っ赤に燃やす。
「…すまない」
流石にやり過ぎたといった表情で、彼は柄から手を離す。
「ふふふー、アイリは表情がコロコロと変わって見ていて飽きないわねー」
張り詰めた空気の中、気の抜けたセリフが放たれた。
「まあまあー、彼女の言い分を聞いてあげてもいいんじゃない?」
「…」
「ふふふー、いいみたいねー。」
ほら、とソフィーアに促され、<ギネーカ>が口を開く。
「アタシは本当に盗ってない。それだけは信じて欲しいんだ!」
彼女は硬い表情のまま、脈絡も無く言い放つ。その目は真っ直ぐに彼を見つめていた。彼は、一瞬たじろぎ、目線を逸らした。
「ほーらー、経緯を話さないとこっちのお兄さんも分からないでしょー」
「そ、そっか…」
「あとー、名前も名乗りなさいよー」
ソフィーアに促され、彼女は顔を赤くしながら語り始めた。
「それじゃあ。アタシはエルネスタ。えっと、経緯を話すと、町でアンタを見かけてさ。ちょっとイケメンがいるなー、なんて思って追いかけてたんだ。暫く尾けてたら、アンタが露店でシルバーのリングを見始めたから、アタシは隣の露店で商品を見るフリをしてたのさ。そしたら、アンタが店を離れる時に財布の結びが甘かったのか、腰からすぐに落ちたんだ。それを見て露店商にアタシが届けるって言ってアンタを追いかけたのさ。ただ、つい声を掛けるタイミングを逃して尾けてるうちに、アンタに犯人扱いされて逃げたってワケ」
エルネスタの言い分を聞いた、セルドリックとアイリスはポカンとしていた。一方、彼は表情一つ変えることなく鋭い視線を<ギネーカ>に突き刺す。
「彼女の話は多分ホントみたいよー。さっき彼女と一緒にその露店に行ってみたら、そこのおじさんがエルちゃんに財布を任せたって言ってたもの」
ソフィーアが続ける。
「ほら、彼女の言い分は言ったわよー。お兄さんも答えを出さなきゃねー」
彼は俯いたまま、思考を巡らせる。
(こいつらの言っていることは本当なのか…?)
その時、彼の肩を何かが二回叩いた。振り返るとそこにはセルドリックがいる。
「エルネスタさんが嘘を吐いてわざわざ貴方に財布を返す意味は無いと思う。信じてあげたらいいんじゃないかな?」
「…」
「すみません、出しゃばりでしたよね…」
「セドの言う通りね。アンタの早トチリみたいよ。ちゃんと謝りなさいよね」
セルドリックとアイリスの言葉に、彼は決心を固めた。
「…済まなかった。俺の勘違いだったようだ。その…、ありがとう」