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零ノ彼方  作者: 桜木 落差
〜第1章〜
7/10

自由の国 ナルダール連邦⑥

「ハルクミュート・ライマー・プレルだ。お前達の申出に感謝しよう」

「セルドリック・オルポート。余計なお世話を焼いてしまってすみません」

「私はアイリス・アスリンよ。アイリでいいわ」

三人は握手を交わす。

「セルドリック、アイリス。見たところ冒険者か」

「はい。ハルクミュートさんも冒険者ですか?」

「ああ。まだ駆け出しだが」

「そうなんですか?俺達も駆け出しです」

「でも、その剣の紋章ってアナトリ王国軍のものじゃないの?」

アイリスが目敏く見つけた紋章について問い質す。

「…退役軍人だ」

ハルクミュートは躊躇いながら答えた。

「へー、そうなのね。あ、そんなことよりミュートは何で<ギネーカ>を追っていたの?」

「そんなことよりって…」

セルドリックは呆れたように苦笑いする。

「実は、恥ずかしながら奴に財布をスられた」

伏し目がちに経緯を説明する。

「先程街で買い物をしようと市場を見て回っていたのだが、いざ購入しようと財布を取り出そうとしてもどこにも無かった」

「でも、何であの<ギネーカ>にスられたって…?」

セルドリックが首を傾げる。

「市場に入ってから、ずっと奴に尾けられていた。はじめは特段気に留めていなかったのだが、財布が無くなって初めて分かった。奴は俺の財布をずっと狙っていたんだ」

「成る程、確かにそれはその人が犯人ね!早く捕まえましょ!!」

アイリスが許せないと息巻く。

「ああ、早く捕まえねば。すまないが力を貸してくれ」

「もっちろん!任せなさい!」

彼女は胸を張る。

「どうやって見つけようか?」

「頭を使いなさいよ!あんたの国でしょ?どこか見通しのいい所とか無いの?」

「セルドリックはこの国の人間か。それは心強い」

「そう言われても…」

(この辺りは平地だし、高台なんて…。)

彼は辺りを見通せる場所をなんとか思いつこうと苦心する。

(そうだ!)

「アイリスの泊まっている宿に行こう!この辺りは高台は無いけど、あそこは四階建てだから屋上から見渡せる筈だ!」

「確かに、四階の屋上なら見渡せそうだな。案内を頼む」

「名案ね!やるじゃない!」

アイリスが笑顔で彼の背中を叩く。

「それじゃ、向かいましょ」

三人はアイリスの宿へ向けて歩き出す。

「ハルクミュートさんは、何故退役して冒険者をしようと思ったんですか?」

「…それは」

「言いにくかったらいいです!」

質問に答えにくそうなハルクミュートを見て、咄嗟に質問を中断した。

「すまない」

「そう言えば、さっき冒険者になったばかりと言ってましたけど、いつ頃から冒険者になったんですか?」

「半年程前からだ」

「そうなんですね。これまでの冒険のお話を聞いてもいいですか?」

「いや、大した冒険をした事は無いのだが…」

ハルクミュートは続ける。

「俺の旅など、一人で<ニエベ雪原>へ行ったことくらいだ。そこで何を見つけた訳でも無く、報告書に書くことが無くて困った。だから、襲い掛かってきた<ウンギュラ>を倒して、その爪と羽根を報告書と一緒に提出して初めての査定をクリアした。済まないな、本当に人に聞かせられるような冒険は何も…」

申し訳無さそうな彼とは裏腹に、セルドリックは目を輝かせる。

「一人で<ウンギュラ>を倒したんですか!?」

「ああ、厄介な魔獣だった。誰かと共闘出来れば少しは上手く立ち回れたかもしれないが」

「流石は元王国兵ねー」

アイリスが感心して頷く。

「いや、褒められたことでは無い。俺は人に声を掛けるのが苦手でな。どうしても尻込みしてしまう。実はまだパーティーを組んだことも無い」

「それじゃあ、半年もの間一人で旅を?」

「ああ。」

「それなら、俺達のパーティに入りませんか?まだ、何処に行くかも決まっていませんが」

「そうね!それがいいわよ!」

「…そうか、ではお願いしよう」

「ありがとうございます!」

「やったわね!」

セルドリックとアイリスは顔を見合わせ喜ぶ。

 三人が盛り上がっているうちに、アイリスの宿泊する宿へと辿り着いた。

「着いたわね」

「じゃあ、屋上へ上がりましょう」

セルドリックがハルクミュートを促す。

 三人は宿屋の女将に許しを得て屋上へと上がった。見下ろす景色はゴチャゴチャとした町並みである。

「町を見渡しやすいのはいいけど、建物ばかりで分からないわね。それに人が多くて、これじゃ分からないわ!」

「確かに、人も多いし建物は邪魔だし、よく分からない」

セルドリックとアイリスは文句を漏らす。

 三人はその後も根気よく探し続けたが、なかなか見つからない。しかし、

「いた。あそこだ」

それまで黙っていたハルクミュートが呟く。

「えっ?」

二人は驚いてハルクミュートの方を振り返る。彼は長い指で町の一角を指し示していた。セルドリックが凝視すると、そこには赤髪の<ギネーカ>と、見覚えのある<ミルクル>が居た。

「あれって…」

「絶対そうよね…」

二人は顔を見合わせる。

「…?どうした」

二人の異変を感じ取ったハルクミュートが声を掛ける。

「あの<ギネーカ>の人と一緒に歩いているの、多分仲間です…」

セルドリックがぼそりと答える。その瞬間

「おーい!!」

唐突にアイリスが大声で叫んだ。すると、声が届いたのか、ソフィーアが振り返り、笑顔で手を振っていた。

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