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零ノ彼方  作者: 桜木 落差
〜第1章〜
3/10

自由の国 ナルダール連邦②

  正午になり、大地を陽の光が燦々と照りつける。

  セルドリックとアイリスの二人は、冒険者登録手続きを終えた後、中央庁近くの食堂へ腹拵えに来ていた。セルドリックは羊肉の煮込みを、アイリスは一角貝のステーキを食べている。

「羊の煮込み美味しそうね〜。一口頂戴!」

「いいよ」

彼は皿の上で肉を切り分けると、傍にあった小皿に移し、

「はい」

彼女の皿へと取り分ける。

「ありがとう。私のも食べる?」

「うん」

お返しにと今度は彼女が自分の貝を切り分ける。

「ほら、口開けて」

「ん?」

彼は口許に差し出された貝を前に、戸惑いを隠せない。

「ほら、口開けて」

「皿に取り分けてくれよ」

「お皿が勿体無いでしょ」

「じゃあ、アイリスにあげた肉食って、その皿に乗せてくれよ!」

「いいじゃない、早く食べなさい!」

「ふふふー、仲のいいカップルねー」

二人の押し問答に横槍が入る。

「別にカップルじゃ無いわよ!」

彼女は言い返しながら、声のする方へ顔を向ける。

「あらー、そうなのー?喧嘩する程仲が良いカップルだと思ったのにー」

机の横に、<ミルクル>が一人、ふふふと笑いながら立っていた。

 <ミルクル>とはビューマーの10歳程度の体格で成熟する種族であり、声の主も例外に漏れず、机から顔が出ているのみであった。又、<ミルクル>は外見的な特徴からは、性別を見分けるのが難しい種族でもある。

「お姉さーん、こっちにビール持って来てー」

二人に声を掛けた<ミルクル>はセルドリックの横に座ると、店員に向けて注文をする。

「ちょっと!何でアンタがここに座るのよ!」

アイリスがむくれながら言う。

「まあまあ」

セルドリックが宥める。

「そうよー。袖触れ合うは何とやらって言うんだし、いいじゃーん」

<ミルクル>がニコニコしながら、置かれたビールに手を掛けながら言う。

「夏はやっぱりビールねー」

「ミルクルがお酒を飲んでるの初めて見た…」

本来、アルコールを嫌う種族である<ミルクル>。然し、この<ミルクル>は実に美味しそうにビールを流し込む。その光景を目の当たりにした彼は、驚愕していた。

「まぁ、殆どの<ミルクル>がアルコールを分解できないものねー」

あっけらかんと答えてみせる。

「ところでー、あなた達冒険者よねー?私をパーティーに入れてくれなーい?」

「え?」

突然の一言に、二人はフリーズする。

「あ、名前言ってなかったわねー。私はソフィーア。ソフィーでいいわよー」

あなた達は?と質問を続ける。どこまでもマイペースである。

「ちょっと待って。理解が追いつかない。」

五指を額に立てながら、俯いて彼女が言う。

「なんで、私達が冒険者だと分かったのよ!」

おもむろに立ち上がり叫ぶ。

「ふふふー、元気ねー」

ニコニコとソフィーアが返す。

「落ち着けって。他のお客さんも見てるから…」

彼は恥ずかしそうにアイリスを宥める。

「どう見てもこの格好で冒険者だって分かるだろ」

実際、彼らは分かり易く冒険者の出立ちをしていた。セルドリックは鈍色の具足に、鎖帷子。壁には剣を立て掛けてある。一方のアイリスはクリーム色のローブを身に纏い、その脇には棍を携えており、いかにもな魔導士スタイルだ。又、軍属であれば、装備に付いている筈の国印が無い。誰もが、彼らを冒険者であると認識できよう。

「そ、そうね」

顔を赤らめながら、彼女は席に着く。咳払いを一つし、

「それより、ソフィーと言ったかしら?あなたも冒険者なの?」

尋ねる。

 ソフィーアの格好は彼等とは対照的に、黄色のワンピースと普段着である。これでは冒険者とは分からない。

「そうなのよねー。まだ駆け出しなんだけど。あなた達も見たところ、駆け出しかなーって思ったから丁度いいわねと思ったのー」

ビールを片手に答える。

「でー、名前はー?これからパーティー組むんだし教えてよー」

ソフィーアのマイペースぶりには敵わないと二人は溜息を吐く。然し、何はともあれ、彼のパーティーに三人目のメンバーが加入した事には変わりはなかった。

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