自由の国 ナルダール連邦①
セルドリックとアイリスの出会いから一夜、太陽がもう少しで一番高くなる頃、二人はナルダール連邦の中央庁へとやって来た。冒険者となるには、各国の政府に冒険者としての登録をする必要がある為だ。
「早く行きましょ」
アイリスは、ずんずんと庁内を進んで行く。冒険者と名乗るだけあって、二人の目的地である冒険者窓口へと一直線だ。その後方を、庁内の様々な窓口を物珍しそうに眺めながらセルドリックが続く。
三階へと上がり、暫く歩くと、冒険者窓口と書かれた吊り看板が見えてきた。セルドリックの胸が弾みだす。
「ようこそ。今日はどういった御用でしょうか?」
窓口に到着すると、カウンター越しに<ビューマー>の男性役人から声を掛けられた。
「こんにちは。今日は彼が冒険者として登録をしに来ました」
セルドリックよりも先に彼女が答える。
「は、はい!冒険者として登録しに来ました!」
「では、こちらの書類に必要事項を記入して下さい」
役人から紙が渡される。
「羊皮紙じゃない…!白い紙だ!」
彼は、珍しい植物製の紙を見てテンションが上がった。この世界では羊皮紙が一般的で、白い紙は高級品である。
「ええ、政府として保管する正式な書類ですから」
役人が微笑む。
「では、ご記入下さい」
そう言われると、彼は手渡された書類に目を向けた。誓約事項が幾つか並んでおり、最後に署名欄がある。主だった内容は、半年に一度、報告書を提出すること、国際拠点に到着した際並びに出発する際に<認証石>(インペリアルストーン)でチェックすること、有事の際には戦列に加わること、である。
全ての項目に目を通した彼は、大きく息を吸い込んだ。有事の際には戦列に加わること、この一文がどうしても引っかかっている。手続き前から分かっていた事ではあるが、いざ署名をするとなると、一層の覚悟が必要であった。
「よし」
呟くと力を込めて、署名を行った。
「お願いします」
彼は丁寧に両手で書類を役人へ渡す。役人は書類を一瞥すると、
「承りました。これで手続きは完了です。それでは、<認証石>を作成致しますので、本日の午後にまたお越し下さい」
と返す。
「これだけ…、ですか?」
「えぇ、以上です。月々の支給は本庁、もしくは出張所などでお受け取り下さい。詳しいことは、こちらに記載しておりますので、お読み下さい」
そう言って役人は彼に羊皮紙製の冊子を差し出した。表紙には、『冒険者規則』とある。