4 デートどころじゃなかった
回想のところ終わってまた現在パートに戻ります!
俺は帰宅して自室に戻ると、ベッドに腰かけた。
ほぼ同時にウラランが実体化して、俺の隣に腰かけた。
普段、精霊は姿を見せないようにしているが、時と場合により、実体を持つことも可能だ。
俺が強制的に実体化させることもできるが、ウララン個人も家では勝手に実体化する。母さんと顔を合わせると、おやつを出してくれたりするので、こっちのほうがいいらしい。
「ふう~、ただいま~。いや~、湿度は高かったものの、雨には降られなくてよかったですね、ご主人様」
ウラランは、「う~ん」と伸びをしていた。ウラランにとっても、この部屋は学校よりは落ち着くようだ。
「そうだな、雨に降られなかったことはよかった。それはそれとして、お前が白石さんへの告白を妨害してきた件だが――」
「――そんなことより今週号のジャ○プ読ませてください」
「そんなことより、こっちの話を聞け! 漫画読むより大事!」
「ちぇっ……。ご主人様、いまだにスマホも持ってないから、漫画読み放題アプリも使えないんですよ。せめて紙媒体ぐらい心置きなく読ませてくださいよ~」
ウラランが口をとがらせてきた。
「しょうがないだろ。魔法使いがああいう機器を持つと、すぐ誤作動起こすんだから……」
魔法使いの体には魔力だとかマナだとかいった名前のエネルギーが流れている。
それが複雑な機械にはおかしな影響をおよぼすのだ。
怖い話の中に、心霊スポットに行ったら、スマホが動かなくなったとか、カメラが動かなくなったとかいったタイプのものがあるが、実際に起こったことならおそらく魔力の多い土地に行ったせいだろう。
とにかく、魔法使いの体質のせいで、俺はいまだにスマホがない。というか、ガラケーすらない。
使えないものはしょうがない。学校の友達とかには、「勉強時間を確保するため」と話している。それも100パーセントのウソではないからだましていることにはならないだろう。
しかし、魔法使いってとくに日常生活でメリットもないなと思っていたら、メリットどころか本格的なデメリットがある。やはり魔法使いになどなるべきじゃなかったのでは……。
「わかりました、ご主人様。では、私がなんで告白を邪魔したか詳しく説明させていただきます」
ウラランは座布団を床に置いて、その上に正座した。
「説明って、俺を偉大な魔法使いにするって、帰り道に言ってただろ。もう聞いてるぞ」
「はい。それもあるんですけど、それだけだとご主人様が納得しないだろうなと思って、なるほどと納得できるような理由を考えました」
じゃあ、全部後付けなのでは……?
「まあ、いいや。どっちみちお前には説明責任があるからな。話してみろよ」
「仮に告白に成功して、白石さんと付き合ってもらったとしても、今のままではご主人様はすぐさま振られます。有名企業に就職して、一日で辞職するようなものです。これでは無意味です」
こいつ、失礼すぎる。あと、守護霊のくせに主人を信用してなさすぎる。
「お前な……その振られるっていう根拠を示せよ」
ウラランはびしっとこっちの顔を指差した。
「ご主人様、いまだに携帯電話も持ってませんよね。それ、白石さんも『どういうこと?』って反応になると思いますよ。最低でも、少数派です」
「あっ、た、たしかに……」
「だいたい、付き合ってから、SNSで連絡取りあったりしづらいじゃないですか。そこで距離感を保つのが大事なのにできないじゃないですか。まさか今の時代に白石さんの自宅に電話かけて呼び出します? 昭和か!」
「言われてみれば、そうだ……」
もしOKをもらっても、これでは白石さんとコミュニケーションがとれん。LIONEでメッセージを送り合うみたいなことができん。
「で、でもな……そこは勉強のためだって理解してもらえるかもしれないだろ……。土日にデ、デートすればいいし……」
なんか、ウラランの目が光った気がする。精霊だから、おそらく比喩じゃなくて本当に光らせたのだと思う。しょうもないことに魔法を使ったりするのだ。
「デートってご主人様、どこに行くつもりですか? デートプランなんてあります?」
「まず、定番は映画だろ。映画の感想が共通の話題になるから、話が途切れて気まずくなるリスクが少な――」
「たしか、去年映画を見に行ったら、スクリーンに映ってはならない謎の犬みたいなのが映って、ちょっとしたニュースになりましたよね」
俺は真顔になった。
そうだった……。去年、映画に行ったら、いわゆる心霊現象みたいなものが起きた。
あれは、魔法使いの俺がいたせいで、映画の画面に近くを漂ってた動物の霊が映ってしまったせいだ……。
真相は話せないが、それ以降、申し訳なくて、映画館を使うのは諦めていた。
仮にゴリ押しでデートに映画館を使ったとしても(映画館に迷惑になるからやらないけど)、そこでまた謎の犬でも映ったらデートの空気は見事に崩壊する。どれだけ自分勝手に行動したとしても、結局リスクが高くて実行できない。
「ほら、付き合う前にクリアしておかないといけない課題が多すぎるんですよ。付き合いはじめた直後、映画を見ようと言ってくる彼女。それを『俺、映画は嫌いだから』と断る彼氏。そんなカップル、二週間もたないでしょ……」
なぜかウラランまで頭を抱えていた。
本当だ。これはよろしくない。
「そ、それは……その……正直に包み隠さずに本当のことを話せば白石さんだってわかってくれ……」
「へ~。『俺は実は魔法使いなんだ』って包み隠さずに言うんですか? 友達でいることすら難しくなりそうですけど。あと、今更ですけど、魔法使いであることを一般人に知らせるのも禁忌ですよ」
まったくだ。アレルギーや病気が理由で、この料理は食べられませんとかだったら、ストレートに説明すればどうにかなる。それで「いいや、この料理を食べろ!」って言う奴はいないだろう。
しかし、「魔法使いだから映画は見られません」で、それはしょうがないですねと言ってくれる彼女はいない。むしろ、すぐに納得されると、それはそれで怖い。
「わかった……。お前の言いたいことは理解した。たしかにこのままでは記念受験になってしまうし、なによりもしも白石さんがOKしてくれた時に、白石さんに対して失礼になる」
今の俺ではスタートラインにすら立っていない。
「そうなんです。こんな状態で告白しても無駄です。挑戦することにも価値はありますけど、今回の場合、ご主人様だけの問題じゃなくて、相手もありますので」
「わかった。だんだん止めてくれたことにも感謝したくなってきた」
腐っても、ウラランは俺の守護霊なのだ。しかし――
「それでも、俺は白石さんと付き合いたい……」
なにせ、昨日、今日ときめいたわけじゃないのだ。一年の時からずっとあこがれていたのだ。その気持ちを告げないままというのもきつい。
はあ、とウラランがため息をついた。
「仕方ないですね」
少し、ウラランが微笑んでいた。
「では、映画がダメでも文句なしのデートができるように、私がご主人様を特訓しましょう!」