3 守護霊との出会い
今回は過去編です。
俺の家系は魔法使いであるらしい。
なんでも三浦という苗字も元は御卜と書いたらしく、古くから呪術や占いをやっていた一族のようだ。もっとも、陰陽道とかは何もわからん。
いつから俺の一族がそうなったか不明だが、俺が覚えたのも西洋式の魔法だった。
幼い頃、ヨーロッパに連れていかれて、深い森の中で何度も泣いた。本当に真っ暗なのだ。木が茂ってるせいで、星や月の明かりすらない。
そんな森の中で、何か光るものがあった。
「な、何……?」
光るものに向かって、そうつぶやいたのを覚えている。なにせ、暗い森はトラウマとして長く心に残るぐらい、強烈な経験だったのだ。
よく見ると、光るものは当時の俺と大差ないぐらいの見た目と容姿の少女だった。
『子供? なんで、人間の子供がこんなところにいるんですか?』
少女の声は俺の頭に直接響いてきて、俺はびっくりして尻もちをついた。
というより、怖くて足から力が抜けてしまったというほうが正しいかもしれない。
「お、お化け……? こんなところだから、お化けも出たんだ……」
『なっ! 失礼ですね! そんな低級な悪霊とは違います! 私は精霊です! この森から生まれた由緒正しき存在です!』
また声が頭に響いてくる。まだその感覚に慣れてはいなかったが、悪霊とは違うと言われたことで、少し余裕が出てきた。
そういえば、森に俺を送り出した時、親はこう言っていなかったか。
――悠太、自分だけの守護霊を見つけてこい。精霊と出会うには子供の頃のほうがいいんだ。そして、その子に一生のパートナーになってもらえ。
自分はこの子に守護霊になってもらいたい。
心の声で話す意識を持って、俺はその精霊に言った。
『あの……精霊さん、日本から来た三浦悠太って言うんだ。守護霊になって……』
『嫌です』
『少しは考えてよ!』
子供心に、その即答はないだろうと思った。傷つくぞ。
『だって、あなた、子供も子供じゃないですか。将来性が謎すぎます。まあ、このウラランも幼い精霊ですけど、できれば年収が日本円で八百万以上の子供がいいです』
『子供でも、それは子供じゃないってわかるよ!』
この精霊がおかしな奴だってことはその時点でも十分にわかっていたし、精霊はそれからもズレたことをやけに話してきた。もしや、悪霊なんかよりもっと危ないものではという気もした。
『――だから、そこで私は精霊の長老に言ってやったんですよ。その考え方は老害ですよって。若い精霊の価値観を尊重しないと精霊の世界にも未来はないですよって』
『精霊さん、さっきからずっと愚痴を言ってるし、その話、子供にするべきことじゃないよ……』
俺と精霊は森の草地に足を下ろして、ずっとしゃべっていた。
より正確には精霊の愚痴を聞かされていた……。
そして、いつのまにか、夜明けがやってきた。暗い森にも光が差し込んできたのだ。
『あっ、朝だ。そろそろ帰らないと……』
まだ幼い時分だったから徹夜したら、そりゃ、眠気もMAXだ。
『えっ? 帰るんですか? まだウラランの愚痴を聞いてもらいたいんですけど!』
精霊に腕を引っ張られた。やっぱり、組織の愚痴を聞かせ続けてくる悪霊とかなのでは……?
『もう眠たいよ、精霊さん。それに、そんな精霊の世界が嫌だったら出ていけばいいんじゃない?』
俺は気楽に伝えただけだったと思うが、精霊のほうは、目からうろこが落ちたというような顔になっていた。
『それもそうですね……。まだウラランの年齢なら外の世界でやっていくことも可能なはず……』
『じゃあ、さよなら』
また腕を引っ張られた。
『あと一時間だけ愚痴聞いてください。今度は同期の女の精霊に一人鬱陶しいのがいるって話です!』
『嫌だよ! 異国の地の森で聞きたい話じゃないよ! そしたら、守護霊にでもなってついてきたらいいだろ! だったら日本に戻っても好きなだけ聞くからさ』
『わかりました、守護霊になりましょう』
えっ?
俺としてはその精霊を諦めさせるために守護霊になれと伝えたつもりだった。幼児なりに煽ったわけだ。
だが、その精霊は守護霊になると応じた。
『じゃあ、契約を済ませますね。恥ずかしいから目は閉じておいてください』
精霊は俺に近づいてくると、そっと唇で唇に触れた。
恋愛要素が何もないとはいえ、一応のファーストキスだったと思う。
俺の体と精霊の体が同じように発光した。
それから、俺は体の中がぽかぽか温かくなる感覚を覚えた。
ああ、これが精霊との契約なのだと直感的に悟った。
『ウラランです。ご主人様、どうぞよろしく』
ウラランが胸に手を当てて、にっこりと笑った。
『三浦悠太。年長組。魔法使い。よろしく』
俺も簡単にもほどがある自己紹介をした。
それが俺と守護霊のウラランとの、なんとも奇妙な出会いだった。
俺が森から出てくると、親は精霊と契約したことをやけに喜んでくれた。魔法のことに関しては厳しい親だったが、別人ではないかというぐらい褒めてくれた。
「悠太、これでお前も一人前の魔法使いだな」
父親に言われて、それはいくらなんでも早すぎるだろうと思った。
「でも、父さんの仕事は魔法使いじゃなくてサラリーマンだよね」
「うっ……。それは魔法使いで食っていくのは今時、難しいからな……」
商売につながらないのだったら、魔法使いの修行とかさせないでほしかった。
「だが、守護霊がお前の人生をきっとサポートしてくれる。お前の人生はこれから、きっと素晴らしいものになるぞ」
あわててフォローするように父親は言った。
その言葉にウソはなかったと思う。魔法使いなんて、いまいち使えない資格ですとぶっちゃけられないので誤魔化したわけではないと思う。
だが、それから十年ほどの年月が経ち――
俺は告白を守護霊から妨害されてしまった。
これのどこが人生のサポートだよ……。