1 学校一の美少女への告白
ラブコメ、ためしにスタートさせてみました! よかったら読んでみてください!
本格的な梅雨入りが始まったばかりの七月頭。
今日も朝の天気予報で、湿度が百パーセントだと言っていた。
世の中に絶対というものはないってよく聞くけど、湿度は百パーセントになるんだろうか。
そのへんは謎だけど、とにかくやけにむしむししてることだけは確かだ。不快指数もきっと高いのだろう。
しかし、先週から、この俺、三浦悠太の精神状態は不快どころか、最高だと言っていい。
なぜかと言えば、席替えで、白石さんと隣同士になったからだ。
彼女が隣に座っているという事実だけで、嫌いな数学も英語も国語もどうにか乗り越えられる。同じ空気を吸っていることを神に感謝したいぐらいだ。
白石沙桐――この高校で文句なしに最も美しいと言われている女子生徒だ。
苗字の通り色白な肌と、どことなく青っぽい瞳の色。髪は生まれついてのものらしく、高級な絹糸みたいに銀色をしている。
この高校に入学した去年、初めて目にした時からこう思った。
――なんで高貴な姫君がこんなごく普通の公立高校に……と。
別に俺の感想が異常なわけじゃない。
白石さんは清楚で物静かで、立居振る舞いも落ち着いていて、女子たちも彼女のことを「姫」と呼んでいるぐらいだ。
彼女はあまり同性での人付き合いが多いほうじゃないらしく、たいてい一人でいる。
美少女が女子グループのどこにも属さない場合、陰口でも叩かれそうなものだが、あまりにも白石さんの美しさが圧倒的なため、そんなやっかみやひがみも発生しないようで、「姫」と呼んで崇拝している始末だ。
むしろ同性の間でも、噂では白石さんを見守る会というのがあって、白石さんに悪意をぶつけるような連中は処罰しているという。それはそれでやりすぎではと思うが。
同性がそんな反応を示すぐらいだから、男子が放っておくわけがない。告る前にたじろいで断念する奴も多いが、それでも入学早々から何人かがアタックした。
もっとも、当然のように全員玉砕。
ミステリアスな空気を残したまま、二年の一学期の今に至るというわけだ。
だが、俺に最大のチャンスがやってきた。
白石さんと隣の席になれた! 同じ横の列になれた!
これは単純に白石さんの近くにいられて幸せという意味ではない。無論、それもあるにはあるが、肝心なことはもっと別だ。
この高校では放課後の掃除は横一列を一つの班とみなして、日によって後ろの列になっていく。
つまり、白石さんと掃除ができる。
ただでさえ、みんなが帰ったり部活に行ったりで教室からいなくなる放課後だ。白石さんと二人きりになれる確率は相当高い。
その時を見つけて、思いきって想いを伝えてやる。
ずっと、ずっと好きでしたと。
当然、あっさりと振られるかもしれない。
俺はちょっと背が高いことを除けば顔だって平凡だし、この高校トップレベルのイケメンでもどっちみち白石さんにはつり合わないのだ。
だからといって諦める気はない。気持ちを伝えられないままなのよりはずっとマシだ。
ちょうど今日の掃除は俺たちの列が担当だ。
俺はちらっと、隣の席の白石さんに目をやる。
頬に軽く右手を当てて、英語の教科書を見つめていた。横顔もやっぱり美の女神が顕現したのかというほどに美しかった。だいたい、現実の高校で、あんな白銀の髪をなびかせてるって、反則だろう。RPGのキャラかってぐらいの存在感だ。
今日こそ、告白するぞ!
「おい、三浦、さっきから全然話を聞いてないだろう」
英語の中年教師の牧野に名指しで指摘されてしまった……。一般人にまで隙が多いと言われたというのは、我ながら恥ずかしい。
「三浦、今、説明しているページを読んでみろ。気を抜く資格があるか見極めてやる」
しょうがないか。その程度で許してもらえるなら安いものだ。
ゆっくりと席を立つ。
気持ちが散漫になっていても、記憶にかすかに教師の牧野の声は残っている。どこを読めばいいか見当はつく。
俺は自己評価では九十点ぐらいの発音で、該当するだろう部分を読んだ。
教室の一部から「おおっ……」という声があがる。
それと「三浦って帰国子女だったっけ……?」という声も。
別にどうってことはない。幼い頃に無理矢理、教え込まれただけだ。
教師の牧野も呆然としていた。ああ、去年は牧野の授業も受けてなかったし、俺のことがあまり知られてなかったんだな。
「これでいいですか、先生? ちなみに古い時代の発音もできます。割とこの分野は得意なんで」
「す、すごいな……。何かやってたのか……?」
「いえ、とくに何も」
さばさばとした態度で俺は着席した。英語の授業も嫌いだけど、内容がわからないってわけじゃない。ただ、つまらないだけだ。
しかし、授業中に当てられたことは、結果的に俺にプラスに作用した。
白石さんが俺のほうに視線を送っていたのだ!
彼女は滅多に笑ったりしないし、その時もポーカーフェイスという顔だった。
だから、どういう意味でこっちを見たかはわからない。たかだか授業でイキるなよと思われたリスクもなくはない。
だとしても、俺が告白する前に注目を集められた意義は大きい。
まったくの無関心ですというのよりは、よほどマシだ。興味を持たれてないまま、付き合ってくださいという告白にOKしてもらえる可能性はないのだ。
俺は告白に参加する権利だけでも手にしたわけだ。
よし! 放課後、二人きりになって白石さんに告白するぞ!
●
運は俺に向いているのか、掃除の時間に本当に二人きりになれた。
白石さんは丁寧に掃除を行うタイプだ。だから、掃除に少し時間がかかった。
ほかの生徒は、運動部に所属してたから、自分の座っている席の縦のラインのゴミをざっと後ろに集めると、「ゴミ捨ては任せた!」と言って、帰っていった。
俺は意図的にゆっくりと掃除をしていたのだが、見事に俺と白石さんだけが残ることになった。
「三浦君、ちりとり取って」
白石さんに声をかけられた。それだけで明日も幸せに生きていけると思う。
でも、ここでは終わらない。
「あのさ、白石さん、話があるんだ」
俺はちりとりの入ってある掃除用具の箱ではなく、彼女のほうに体を向けた。
もう、覚悟は決まっていた。
俺は自分の胸に手を置き、こう言った。
「白石さん、あなたのことがずっと好きでした。俺と付き合ってください」
そう、言ったつもりだった。
自分の中では。
だが、何かがおかしい。
白石さんはこちらのことを見て、じっと待っているような態度でいる。
いくら表情の変化が少ない人でも、告白されて無反応なままということはないだろう。
どうも白石さんには聞こえていないようなのだ……。
どういうことだ……?
――と、俺にだけ聞こえる声が頭に響いてきた。
『はいはい、ご主人様にまだ彼女は早いですよ。声、オフにしておきますね』
俺の真横に水着とレオタードとバニーガールの服を足して3で割ったような格好をした、金髪の女子が立っていた。
俺の守護霊であるウラランだった。
2話は早目に投稿しようと思います!