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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
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冒険者ギルド


 あれからしばらく馬車を走らせ、ソフィアの質問をのらりくらりとかわしながらいると、レイモンさんが声をかけてきた。


「ノアさん。もう見えてきましたよ、城塞都市メルギスが」


 ノアはその言葉に、嬉しさが込み上げてきた。人が暮らす街にやっと着いたのだ。ノアは馬車の扉を開け、外に顔を出しながら前方を見る。すると、大きな城壁に囲まれた門が見えた。そこには数台の馬車や旅人などが集まっていて、レイモンさんの話によると、入国審査や身分証の提示などが行われているらしい。



 ついに自分達の番になった。レイモンさんが関所にいた衛兵と色々と話をしているのをノアは見ているだけであった。しかし、他の商人の人になぜか呼ばれ、ノアは外へと出た。どうやらレイモンさんが呼んでいるらしい。間近で見る城壁は、圧倒されるものがあったが、すぐさま関所内へと向かった。


「レイモン様、こちらの方が?」


「はい。どうやら冒険者カードを紛失したようで。大丈夫です、私が保証人になりますので」


 関所内には簡素な机と椅子が用意されており、衛兵とレイモンが向かい合って座っていた。まだ若い衛兵がこちらを見ながらレイモンに確認をとった。どうやら自分の身分を保証してくれているようだ。すぐさまノアは視線で礼を伝えたら、レイモンは柔和な笑みを浮かべながら頷いた。


「分かりました。レイモン様がそこまでおっしゃるなら。こちらが仮身分証になります。お受け取りください」


 ノアはそのカードのような物を受け取った。書かれているのは年齢や名前などごく普通な情報のみであった。


「ありがとうございます。失くさないよう大事にしますね」


「はい。それと、有効期限は一週間です。それまでに身分を保証するものをお作りになってください。それとようこそ、城塞都市メルギスへ」


 笑みを浮かべた衛兵に礼を言って、ノアはレイモンと連れ立って、関所内を出た。そして馬車内へと戻る。戻った先にはソフィアがくつろぎながら待ち構えていた。


「ノア、仮身分証作った?入れるようになった?」


 小首をかしげながら、ソフィアが問いかけてくる。


「ああ、レイモンさんのおかげでね。ありがとうございました、何から何まで」


 ノアは改めて礼を言った。


「気にしないでください。ノアさんには今のうちに恩を売っておきたいのでね。冒険者になるのですか?」


 結局、ノアはロイド達には冒険者カードを失くした冒険者ということにした。ソフィアにはバレているが。そして、冒険者という職業が何をする職業であるのか、色々説明をしてもらった。それを聞いて、ノアはこれしかないだろうと判断した。


「そうですね。今のところ俺ができるのは魔物との戦闘とかその辺ですからね」


「なら渡しておきますよ。人の世界ではこれが必要になりますので」


 そう言って、懐からお金を取り出したレイモンを見て、ノアは無詠唱で空間収納(ストレージ)の魔術を使って見せ、その中から金貨や銀貨が詰まった袋を見せた。


「大丈夫です。そこまでお世話にはなりませんよ」


 ノアは笑みを浮かべて、やんわりと断った。それを見たソフィアとレイモンは驚いた表情を見せた。ノアは、柔和な笑みばかり浮かべているレイモンを驚かせたのが少しうれしく思った。


「す、凄い凄い!無詠唱の空間系魔術!君って一体……」


「さすがですね。それにしても空間系魔術、ですか」


 何かを考えるように顎に手を添えたレイモンを見て、ノアは失敗したことを悟った。冷や汗が出てくる。


(この人は、ヴァレールと俺の関係を見破っている節があるね。ばれたら絶対面倒になるな。いや、でも王国は聖王国と敵対してるんだよな。だったら大丈夫、かな?)


 ノアはお金を空間収納(ストレージ)に戻して、話題を変えた。


「まず、冒険者ギルド?で降ろしてもらえますか?あ、あとおすすめな宿があったら教えてもらえますか?」


 その言葉にソフィアが答えた。


「なら丁度いいよ。あたしたちも護衛依頼達成の報酬を受け取りに、冒険者ギルドに向かうから。あと宿はとっておきのがあるから後で案内するよ!」


 ノアは笑みを浮かべて頷き、礼を言った。どうやら上手く話をそらせたようだ。



 煉瓦造りの家が立ち並ぶ大通りを走ると、たくさんの馬車とすれ違う。街道沿いには、活発に声を張り上げる出店や屋台があり、買い物をしている人々の営みが感じられた。


「着きましたよ、ノアさん。ここが冒険者ギルドです」


 街道を進むこと少し、剣と盾が交差した看板が出てきて、立派な外観をした建物が見えてきた。周りの建物よりかは二周りも大きい。馬車が止まり、レイモンが馬車の扉を開ける。ノアは降りて、冒険者ギルドを正面から見た。ソフィアが隣に並びながら、行こうと促してくる。


「では私たちは、ここで。何かありましたらシャンプル商会までご連絡ください。何でも揃えさせていただきますので」


 最後まで柔和な笑みを浮かべながら、レイモンさん達商隊の人たちが口々に礼を言いながら、去っていく。ノアは改めて礼を言って別れた。


「行こ、ノア」


 ソフィアがノアの手を取って促してくる。他の冒険者たちも集まり、すっかり仲良くなった魔術師の女の子に笑みを浮かべた。


「ソフィとすっかり仲良くなったようだな、ノア。ソフィと同年代の冒険者で実力がある奴は中々いないからな。これからも仲良くしてやってくれよ」


 ロイドがノアの肩を親しげに叩きながら、冒険者ギルド内へと慣れたように入っていく。他の冒険者たちもロイドに続いて、中へ入っていく。


「ソフィア、じゃあ俺達も行こうか」


 楽しそうな笑みを浮かべたノアとは対照的に、ソフィアは頬を膨らませた。


「…ソフィ。親しい者はそう呼ぶんだよねぇ」


「え、いや、でもーー」


「ソフィ」


「い、いや、会ったばっかりーー」


「ソフィ」


 表情を変えずに透き通った朱色の瞳を向けてくるソフィア。根負けしたノアは、言うとおりにした。


「……行こうか、ソフィ」


 嬉しそうに笑みを浮かべたソフィに、ノアは何だかすべてがどうでもよくなった。




 ノアが冒険者ギルドに入ると、まず漂ってくるのは匂い。冒険者ギルド内に併設された酒場から食事の匂いが漂ってくるのだ。どうやら今は丁度食事の時間らしく、視線を横に向けると、忙しく給仕の女の子たちが働いている。酒場内にいるのは剣やら槍やら弓やら様々な武器を持った人たちが談笑している。ノアの方を見ているのは数人しかいない。


 しかし、冒険者ギルドに入った正面、受付らしき所にはノアを見る冒険者がたくさんいた。受付の後ろ側には二階に続く階段がある。余計なものが何も置いていない、武骨な室内。


 ノアはソフィに手を引っ張られながら、受付へと向かう。そこには冒険者たちの相手をしている見目麗しい女性たちが四人ほど並んでいる。


ソフィは指をビシビシと指していき、説明してくれた。


「冒険者登録は一番右、依頼は反対に一番左側。あそこの掲示板から依頼を取って、真ん中の二人のうちどちらかに渡すと受注できるよ!」


 今は登録だから一番右だね、と言ってノアを引っ張っていく。一瞬、ソフィはロイド達の方へ行かなくていいのかと思ったが、ロイドが何も言わないので別に構わないのだろう。一番右の受付には今は誰もいない。


 受付嬢が完璧な笑顔を浮かべて、出迎えてくれた。


「冒険者ギルド、メルギス支部へようこそ、登録ですね?」


 ノアは設定としては、冒険者カードを失くした冒険者ということになっている。それを思い出し、受付嬢に伝えた。


「登録なんですけど、実はですねーー」


 説明を始めるノアを見て、受付嬢は変わらずに完璧な笑みを浮かべて言った。


「事情は分かりました。現在のメルギスは、豪魔の森から魔物が進出してくる異常事態が発生しています。原因の調査は進めていますが、詳しいことはまだ何も分かってはおりません。即戦力が増えるのはこちらとしても助かります。ですので、ギルドの裏手にある演習場で実力を測らせていただきたいのですが」


 構いませんか、と続ける受付嬢。ノアはその完璧な笑みを見て、この女全く話を信じていないなと思った。そもそも、自分の話を信じていたのなら以前の冒険者ランクを聞いてきたはずだ。冒険者ランクは、Fから始まり、Sが一番上である。このランク制度は魔物の強さを測るのと全く同じであることは、ソフィに聞いて知っていた。


(まあ、本当に嘘だから信じられなくても別にいいか)


 ノアはすぐさま思考を変えた。冒険者ランクについて話を聞いたノアは正直、余裕だ。自分の実力は本気を出せばSランクの魔物にだって負けない。ソフィが不安そうな顔をしてこちらを伺っているが、ノアは安心させるように微笑んだ。


「了解です。いいですよ、行きましょう。俺の力はAランクを超えるので!」


 ノアは不敵な笑みを浮かべて、ギルド内にいる全ての冒険者たちに聞こえるように言い放った。登録に来たばかりの十六歳ぐらいの少年が、冒険者のトップクラスである花形のAランクを超えると言ったのだ。それを聞いた冒険者たちの反応は様々である。


 こんなガキがとバカにしてくる者、興味深そうにこちらを見てくる者、面白そうに笑みを浮かべる者。しかし、直接ちょっかいをかけてくる冒険者はいなかった。ノアはそれを意外に思いながら、受付嬢が案内する演習場とやらへ向かった。後ろからはぞろぞろと冒険者たちがついてくるのを見て、ノアは楽しそうに嗤った。


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