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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
二章 王国闘技大会編
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舞踏会 <中編>


 堂々と入場するリンヴァルム王国国王ダスティヌス、だがその隣には誰も連れていない。王妃はいないのだろうか。ノアはそういえば謁見の時もいなかったなと思ったが、口には出さなかった。亡くなったのだろうか。だとしたら……。


 ノアは隣に立つヘレンを見つめた。もしかしたら、ノアが想像するよりずっと寂しい幼少期を過ごしたのではないだろうか。王という立場の父とは普通の家庭のように気軽に過ごすことはできなかっただろう。先ほどの貴族達との挨拶も、皆が王女としてヘレンと接している。


(だから、王女としての立場を気にしない俺と……)


 そう考えつつ、ノアはヘレンから視線を外した。


 ダスティヌスはそのまま壇上に上がった。それと同時に貴族達が話し声をピタリと止めた。王はフロアを見渡すようにした後、ゆっくりと口を開いた。


「皆、よく集まってくれた。闘技大会は過去最大の規模で開催されている。全てはここにいる貴族達のおかげだ。遠い領地から集まってくれた者もいるだろう。最高級の料理とワインを用意した。今日は大いに楽しみ、踊ってくれ」


 それから、と続けるときにダスティヌスの視線がノアを捉えた。悪戯っぽい笑みが浮かんだその表情に、ノアは嫌な予感がした。


「今宵はメルギスの街を救った英雄にして、闘技大会で活躍した冒険者も特別に参加させている。報奨金や名誉などいらんなどと申したからな、それ以上の名誉である王女の相手(エスコート)役を与えてやったのよ」


 冗談っぽく言う王の言葉に王派閥からは笑みが漏れた。和やかな雰囲気だが、反対に貴族派閥は無言だった。その時、ノアは刺すような敵意を感じ視線を向けると茶髪の優男ーーミラージュ侯爵がこちらを見つめていた。


「……ノア」


 それを感じ取ったのかヘレンがギュッと組んでいる腕に力を込めてきた。だが、ミラージュ侯爵は近付こうとはしてこない。


 ノアはしばらく視線を合わせたままいると、楽団が奏でる曲が変わった。舞踏用の曲なのだろう。ノアは無視してヘレンと踊ることにした。


「姫殿下」


「……はい」


 ノアはヘレンの手を引き、舞踏会場の中央へと進む。無数の貴族達の視線を感じるが、ノアは気にせず一番乗りにフロアの中央へと歩み出た。


 真正面から向かい合うと、ヘレンの美しさが改めて分かる。この場にいる貴族令嬢の中で一番美しいだろう。鮮やかな青のドレスに包まれた見事な肢体をノアはヘレンの細い腰に手を当て、自分の方に優しく引き寄せた。

 ヘレンは驚いたようにノアを見上げた後、顔を紅く染め上げた。ヘレンは嫌がることなく、ノアを見て笑った。その笑みは優しげで純粋だ。貴族達が浮かべていた仮面のような笑みではない。


それをみて、ノアも自然と笑みを浮かべた。目線でやり取りしながら、ダンスを開始する。


 実を言うとノアは練習の時にもヘレンと踊ったことがなかった。だが、躍ってみてヘレンはダンスが上手いということが良くわかる。

 ノアはリズムに合わせてステップを踏んでいく。それに合わせるようにヘレンも踊る。


 ヘレンの赤い宝石のような瞳とノアの深紅の瞳が重なり合う。ノアはその綺麗な瞳に、『黒騎士物語』に出てきた『小国の姫』が持つ魔眼『宝涙眼(ほうるいがん)』を重ねた。


 ヘレンが楽しそうに微笑むから、ノアもつられて楽しくなってきた。ノアとヘレンはダンスに夢中になっていた。周囲の視線がまるで気にならなくなるほど。


 王女が浮かべている表情はこれまでの夜会で見てきたどんな時よりも美しく見えた。だが、貴族達は嫉妬の視線を向けられなかった。あまりに完璧なダンスを披露する二人に見惚れていたのだ。


「ただの平民がこれほど見事なダンスを……」


「……姫殿下、なんと美しい……」


 貴族達は感嘆した。その反応に王派閥も貴族派閥も関係ない。


「悔しいのではないかね、エレム」


「……確かに妬けますが、恋愛に障害はつきものです」


 そうですよね、と嫉妬を隠した笑みを浮かべてエレムはオスカーに尋ねた。しかしオスカーは何も言わず、漆黒の髪と深紅の瞳をを持つ少年を見つめた。少年の微笑みの下に酷薄な光を感じ取って、ニヤリと笑った。


「……ヘレン」


 王であるダスティヌスは眩しそうに目を細めた。自分の娘があれほど感情を表に出しながら、楽しそうに踊っている。久しく見なかった姿だ。まるで王妃が生きていた時に戻ったように、ヘレンは楽しそうに、嬉しそうに微笑んでいた。


 曲が終わりに近づくと、速いテンポに変わっていく。それと同時にノアとヘレンの動きもキレがあるものになっていく。ノアがヘレンをクルッと回し、ヘレンも楽しそうに花のような笑みを浮かべてノアを見る。その無邪気と言っていい姿に、ノアは思わずドキッとした。それでもダンスは止めず、最後の決めポーズを決めた。



 ダンスが終わると万雷の喝采が二人にそそがれた。ヘレンは嬉しそうに受け止め、ノアを上目遣いで見つめた。


「はぁ、ふぅ……ノア……」


 息を整える姿と上気した頬が妙に色っぽい。ダンスに集中していたため、気付かなかったが視線を少し下げるとヘレンの豊満な胸が目に入ってしまう。ノアは理性の力で何とか視線を外し、小さな声で言った。


「ヘレン、楽しかったね」


「そう、ですわね!」


 素に戻ったノアに一瞬驚いた顔を見せたが、次の瞬間、ヘレンは嬉しそうに頷きを返した。






 舞踏会は何度も同じ相手とは踊れない。


(確か、四回踊ると婚約することになるんだったかな……?)


 ノアは作法やダンスは覚えたが、貴族社会の知識などはうろ覚えであった。それでもヘレンと何度も踊れないことは分かる。だが、ノアとしてはヘレン以外とは踊りたくない。単純に面倒なだけであるが、親しくもない者と踊りたくないという理由もあった。


 しかし、


「ノア様、ダンスとてもお上手ですのね」


「本当に。どこかで習っていたのですか?」


 今現在、ノアの周りには何人もの貴族令嬢が集まっていた。ヘレンは父親であるダスティヌスと会話中のため、ノアは一人で料理でも食べようかと思った矢先、囲まれてしまったのだ。


「ええ、王国に来る前に少しだけですが」


 王城で教えられたことは言わないほうがいいだろうと思い言わない。正直うっとおしいが応対しないわけにもいかないため、ノアは柔らかな笑みを意識的に浮かべて対応する。


「まあ、そうなのですか!」


「陛下からの信頼も厚いようですね、S級冒険者になるのも夢ではないのではありませんか?」


「どうでしょうか、まだまだ年齢的にも早い気がしますが」


 無難な反応をしていれば勝手に離れていくかと思えば、全然離れていく気がしない。令嬢たちの狙いはノアにダンスに誘ってほしいのだが、ノアはそれに気付かない。ノアは平民だが、申し分ない容姿と平民ながら礼儀作法をわきまえた所作、そしてダスティヌスの挨拶から評価が高いということから意外にも優良物件なのだ。


 これから貴族に召し抱えられる可能性も高いと言える。だが、貴族に詳しくないノアはそれが理解できなかった。しばらく令嬢たちの話を聞いたり、時々質問を返したりしていたらーー


「ノア、ここにいましたか」


「……姫殿下」


 ダスティヌスとの会話を終えて、ヘレンが戻ってきていた。それと同時にノアは助かったと思った。なぜなら明らかに令嬢たちはヘレンの姿を見て、遠慮し始めたからだ。

 

 だが、


「わたくしのことは気にせずどうぞ」


 ヘレンは笑顔でそう言った。しかし、その目だけは笑っていない。それを感じてノアは目線で尋ねた。


(おい、どういうつもりだよ。助けに来たんじゃないの?)


(別に……わたくしが来たからといって止めさせるのは可哀そうだからですわ)


 多分、こんな感じだろうか。


「そ、そうですか。では、ノア様の生まれはどこなのでしょうか?」


「さあ、片田舎の村出身かもしれませんし、もしかしたら隣国の王太子だったりするかもしれません」


 冗談めかして言うノアの言葉に令嬢たちはまあまあ、と言って色めき立つが、ヘレンが冷たい目をしてノアを見た。


「隣国の王太子だなんてありえませんわね。もしそうだったとしてなぜ冒険者などやっているのかーー」


 急に現実的な事を言うヘレン。しかも、ノアが令嬢達を喜ばせたり、甘い笑みを浮かべたりすると急に口をはさんでくるのだ。


 その結果、令嬢たちは離れていったのでよかったのだが……


「……姫殿下、どうなされたのですか?」


「……ノアのその笑み、今思えばとても嘘っぽいですわ。それにキャアキャア反応していたあの令嬢たちが哀れだっただけです」


 少し前のわたくしのように、そう続けたヘレン。だが、最後の言葉は小さすぎてノアには伝わらなかった。


「はあ、そうですかね」


 ノアとしては確かに心からの笑みではないので肯定するしかないのだが。


「それにしてもノア、もう一人とくらい踊った方がいいのではなくて?」


 なぜかジトッとした目で見てくるヘレンのその言葉にノアは首を傾げた。


「それはなぜなのでしょうか?」


「周りに視線を向けていれば分かるでしょう。令嬢たちの視線がノアに向けられていますわ。これからひっきりなしに来ます」


 ノアは面倒に思い、顔を歪めた。だがそれも一瞬だ。


「令嬢たちは殿方からダンスに誘われるのを待っているのです。まあ、時間まで令嬢たちがまとわりついてくるのが嫌ではないのなら、別にいいですけど」


「……姫殿下はどうされるので?」


「王女であるわたくしを気軽に誘えるものなどいません。しばらくお父様と一緒にいますから大丈夫ですわ。それにどうやらミラージュ侯爵は今回の舞踏会では近付いてこないようなので」


 そう答えて、ヘレンは貴族派閥が固まっている場に視線を飛ばした。ノアとしてはダンスするのも面倒だが、まとわりつかれるのは更に面倒だ。


 そこでめぼしい人を探すが、どれも派手で目が痛くなりそうドレスを着た令嬢が多い。


 何気なく壁の隅の方に視線を向けたら、目立たない紺色のドレスを着た少女がこちらを見つめているのが目に入った。その人物は令嬢達のグループから少し離れた場所に立っていた。


 儚げであり、守ってあげたいと思わせる雰囲気を持っている少女。容姿は美人だが、どこか地味という印象がぬぐえない。


 だが、ノアはその雰囲気に懐かしさを感じた。


(……なんか、フィリアに似ているな)


 顔の造形はもちろん、スタイルや髪色なんかも全く違う。だが、不思議とそう思ったノアの足はその少女の下に向かい始めた。


 

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