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魔王の後継者は英雄になる!  作者: 城之内
一章 聖王国からの刺客編
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決戦



 ノアは身体能力を最大限強化して誰よりも突出した。

 後ろからバッカスの声が聞こえたが、ノアは無視した。そして、魔物の軍勢の先頭に立つ単眼の巨人に斬りかかった。


 巨人種は総じて肉が美味しくないため、豪魔の森にいた時から狩っていなかった。しかし、修行の相手として、何度も殺した経験がある。


 単眼の巨人(サイクロプス)の巨体から繰り出される拳を、ノアは更に加速することで後ろに置き去りにした。

 そしてそのまま股の間を通って、サイクロプスが反転する前に、一撃目で両膝から下を斬り落とし、二撃目で首を斬り落とした。

 

 魔物が悲鳴を上げる暇もない一瞬の出来事に、仲間である冒険者達の動きがほんの少しだけ止まった。しかし、魔物達は操られているかのように気にしない。足を止めずに、ノアに群がってくる。


 獣型の魔物を、虫型の魔物を、有翼の魔物を、斬って、斬って、斬って、斬り捨てた。ノアの美貌に凄惨な笑みが浮かぶ。それは、さながら殺戮舞踏。踊るように、敵を血の海に沈める。楽しそうに、ノアは踊る。


 紅き瞳を光らせて、悪魔は嗤うのだ。





*   *   *





 レナは()()から、戦場を俯瞰して見ていた。その背には蝶のような、美しい羽が生えている。


 危なくなった冒険者に、英雄紋の能力で力を貸してあげたりしていた。

 妖精王の力は自然の力を自由自在に操ることが可能なのだ。また、植物などを急激に成長させたりもでき、小さな芽からでも大木にすることができるこの力は、対集団戦に最適の力だ。


「……ん」


 気の抜けた可愛らしい声で、小さな腕を横に振ると、今まさに狼型の魔物、人食い狼(マーダーウルフ)達に食われそうになっていた冒険者を救った。地面に生えていた雑草、それが急激に伸びて狼たちを刺し貫いたのだ。


 食われそうになっていただけに、魔物のすぐ近くにいた冒険者はもろに血を浴びることになったが。


 そしてレナはすぐに視線の先を変える。その先にいるのは、誰よりも魔物を斬り飛ばしているノアだ。今のところ、魔物の撃破数は間違いなくノアが一番多いだろう。しかし、レナはある事が原因で不安に思っていた。それは、


(……ノア、連携が致命的)


 ノアは誰かと一緒に戦うということが頭から抜けているのだ。ノアは強いからあんなことができるが、人相手だとあの戦いは危険だ。敵陣に一人突っ込むのでは、もし敵にノアと同等の敵がいた場合、包囲されてしまう。


 だから、レナは連携の大切さを教えてあげるのだ。自分と同じ、英雄になる呪いをかけられたあの人に。自分を抱っこしてくれる時の暖かさと、敵を冷徹に屠る二面性。どちらもノアであることに変わりはない。


 レナは一瞬だけ、家族でもあるレミーナの方に視線を向けて、余裕があることを確認した。それからレナはノアが戦っている位置まで羽をパタパタと動かして、移動した。





*   *   *






 今のところ、冒険者達に目立った被害は出ていない。目の前にいる熊型の魔物を斬り捨てて、ガレス・ドール・へルミナスは嘆息した。

 ほとんどがCランクで構成された冒険者達は日常的に魔物と戦っているのもあるが、何より、あのノアという男のおかげもあるだろう。


 強い魔物、Bランク以上の魔物を狙って斬り捨てている。実力は間違いなくAランク以上。


 しかし、その戦いぶりは長年、聖王国から国を守ってきたへルミナス家の当主といえど恐れを抱かざるをえない。戦闘センスがずば抜けている。そして何より、嗤っているのだ。血が乱れるこの闘争を。


 だが、ガレスは切り替えた。何よりあの少年は味方なのだ。頼もしいという気持ちはあれど、恐れるなどという感情を向けることは許されない。


 もともとガレスは、若い時は四つある王国騎士団、それもエリート中のエリートが入れる王族護衛が任務の近衛騎士団所属だったのだ。武人肌であるガレスは義理堅く、何より真面目であった。


 そしてこのままではあの少年は魔物達の中で、孤立することになってしまう。


(集団行動ができないのは冒険者らしいが、今、あの少年を失うわけにはいかない)


 冒険者達ははっきりと見たはずだ。自分達よりも年若いその背中で、魔物達をどんどん倒していくその姿。中性的な美貌に反して、その凶悪にも見える笑みを浮かべて。だが、何よりも頼もしかったはずだ。強大な魔物に一歩も恐れぬその漆黒の少年に。


 ガレスは行軍中の移動の時と比べて、冒険者達の顔つきが変化したのを感じていた。負けていられるかというベテランの冒険者達。目を輝かせて、魔物達を斬り伏せる漆黒の背中を見た年若い冒険者。


 それゆえに、今失うわけにはいかないだろう。ガレス自身も、()()()()()()があるのだし。


「アイク! 君なら、あの少年を追えるだろうッ。行ってくれないか!」


 ガレスは近付いてきた蛇の魔物を一振りで始末しながら言った。しかし、双剣使いの闇妖精(ダークエルフ)は首を横に振った。


「いいや、ガレス。その前に行ってしまったよ」


 魔物の血で染められた双剣を手に持ったアイクが近づいてくる。その視線が、魔物の群れに突っ込んでいく赤髪の大男の背を見つめていることに、ガレスは気付いた。








*   *   *






 暴走したような状態の魔物達。普通Bランク級の魔物は知能も高いし、守りを捨てたような戦いはしない。それにノアとの実力差も分からず、関係なしに突っ込んでくるのだ。そのため、ノアはこの戦いに人為的なものを感じ取っていた。


 ノアはひたすら前にいる魔物を斬り捨ててきた。Cランク冒険者には荷が重いBランク級の魔物も何体かいたので、ついでに斬り飛ばしてきた。結果、ノアが来た道は魔物の屍が一直線に並んでいる。そして、魔物の群れの最後尾まで来てしまった。


 


  魔物で見えないが、後方にはきっと冒険者達が戦っている。バッカス達Aランク冒険者も奮闘しているのだろう。時々、大きな爆発やらで魔物が吹っ飛んでいるのが見える。視力を魔力で強化し、ノアは一瞬だけ確認した。その中に、レナの姿がなかったため不安を感じた。がーー


 ノアが魔術を使わないのは、黒狼を警戒して魔力を節約しているため。それまでは身体強化のみで戦おうと思っていたが、そうもいっていられないかもしれない。


「グルルルルッ」


 ノアは自身を見下ろす黒い影を見上げた。


 巨大な三つ首の魔犬、ケルベロス。


 熱気を放つ巨大な大赤鬼、鬼王(オーガキング)


 亜竜種に定義される、地竜(ロックドラゴン)。四足歩行で、翼がない竜である。特徴としては何より、その硬い鱗。Aランク級の魔物の中でも防御力だけは随一だ。


 ケルベロスは自分が勇者を試すのに使った魔物。その実力はAランク級。


 オーガキングや地竜もAランク級である。


 黒い火の粉を口元から吹き出しながら低く唸る魔犬は、俊敏な動きで凶悪な爪を持つ前足を振り下ろした。ノアは左に飛んで攻撃を躱す。躱した先には別の魔物が回り込んできた。灼熱を司る鬼の王、オーガキングだ。


「ッふッ!」


「グラアアア!」


 身体を捻りながら、オーガキングの剛腕を紙一重で避ける。しかし、無理な体制で攻撃を避けたため、一瞬隙ができてしまった。A級の魔物にその隙は致命的であった。ケルベロスから追撃の一撃が放たれる。


「グルアァッ!」


「ぐっ⁉」


 辛うじて剣を盾にすることで直撃は避けたが、巨体から繰り出される一撃の衝撃までは殺せない。ノアは吹っ飛ばされたが、地面を転がりつつ受け身を取ってすぐ起き上がった。しかし、ノアが顔を上げると見えたのは、ケルベロスの三つある口から黒い炎が発射される瞬間であった。


「くそったれがッ」


 回避するにももう間に合わない。英雄紋を使うべきか。ノアは一瞬という長い時間を迷ってしまった。その時ーー


「<武闘技(スキル)・螺旋焔‼>」


 ケルベロスの側方、二メートル近い長身の男が魔物の集団を吹っ飛ばしながら、砂煙を上げて姿を現す。物凄いスピードで、赤い光を纏った拳をケルベロスの横顔にぶち当てた。


 軌道を反らした炎の息吹(ブレス)はノアの右側を通り過ぎて行った。


「……バッカス、助かっーー」


「ーーノア、てめえ舐めてんのか! なんで武闘技(スキル)を身体強化しか使ってねえんだ! 真面目に戦いやがれ‼」


 言葉を遮られて帰ってきた叱責に、ノアは不貞腐れた面持ちで立ち上がった。


「……お礼しようと思ったけど、止めよう。どうせ俺一人で対処できたし」


「減らず口が。さっさとーー」


「--ノア。助けに来た」


 空からふわりと降り立ったのは、妖精の羽を背から生やしたレナである。レナは吹っ飛ばされた状態のケルベロスを見てから、バッカスに恨めしそうな視線を送った。


「……私が助けるはずだった」


 頬を膨らませて可愛らしく言うレナは、戦場には不釣り合いな姿だった。しかし、バッカスは馬鹿にするようにノアに視線を向けた後に答えた。


「敵陣に真っ先に突っ込んでいったバカが、やられそうだったんだ。許してくれ嬢ちゃん」


「今はそんなことを話している場合じゃないだろ。バッカス、お前がいると全力だせない。どっか行っていいよ」


 起き上がり、油断なく剣を構えながらも、憎まれ口をたたくノア。ケルベロスはすでに起き上がって、怒りに満ちた瞳をバッカスに向けている。右の頭がバッカスの武闘技(スキル)の一撃により潰されている。


 これまで動かなかった地竜が動いた。速さはそこまでではないが、何よりバッカスの二倍くらいあるオーガキングからみても一回りも二回りも大きい。


「ゴオオオオオオオオ‼」


 大地が震えるほどの雄たけびが戦場を揺らした。


「三対三だ。これで丁度いいだろうが!」


 好戦的な笑みを浮かべて、バッカスが吠えるように言った。ノアは肩を竦めて、隣に立った。そして横目で見て、小馬鹿にするように微笑んだ。


「怪我したらいつでも帰っていいからね、バッカス」


「てめえこそ帰っていいんだぜ。俺よりランクが低いBランク冒ーー」


「--レナ、今までどこにいたの?後ろ確認したらいなかったから心配したよ」


 ノアはバッカスを無視して、レナに真剣な顔で話しかけた。バッカスが額に青筋を浮かばせていたがノアは気にしない。


「……ん」


 レナは指を空に向けた。


「なるほど、空から見てたのか」


「……ノア、いくら強くても、一人じゃ危ないから」


「そっか……。ありがとう。じゃあ、力を貸してくれ、レナ」


「……ん!」


 力強く頷くレナを見て、ノアは身体の奥底から力が湧き出してくるような、そんな感覚を得た。一人で戦う時よりも、ノアの心は弾んでいた。


 そして、三人は同時に飛び出す。バッカスがケルベロス。レナが地竜(ロックドラゴン)、そしてノアがオーガキングに向けて。


 戦況を左右する闘争が、幕を開けた。



 



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