89 「カコン」
レシルは息を切らし、震える感情のまま走り階段を目指した。レシルの息が上がり、とめどなく繰り返す呼吸は、酸素を必死に取り込もうとしているがいくらあっても足りないと体は酸素を求め続けるのであった。
「まぁ、まぁ、そう急いでどうしたんですか。レシルさん。」
階段が見え少し心に余裕ができた時、その声はかけられた。この場所と状況には不釣り合いの落ち着いた声は、懸命に走り呼吸するレシルの耳にいともたやすく届き。声の人物に意識を向かせた。
階段に腰掛け、懸命に走るレシルを見つめるその人物は、ヤギの頭をした人の体を持つ者だった。
状況の飲み込めないレシルは、迫ってくるであろう人面の魔物の恐怖を抱きつつも得体のしれない目の前の人物を警戒した。言葉を発したことにより、意思疎通が取れることは確認できていたため足を止め荒い呼吸を繰り返しつつも話しかけた。
「お前は・ハァ・、いったい・・・ハァ・・ハァ・・。」
「初めましてレシルさん。私は見守る者の一人「カコン」と申します。このような姿ですが警戒はしなくて大丈夫ですよ。危害をくわ得るつもりはございませんので。」
いつも突然に出会う見守る者たちであるが、このような状況で出会いたくなかったと心から思うレシルであった。
カコンは階段の上から降り、レシルの元まで来て話し出すのであった。世間話から入り、いつもの流れで力を渡そうとカコンが話し出した時、さすがに我慢が出来なくなりレシルは階段を駆け上がろうとした。
「どこに行くんですか!まだ話は終わってませんよ!」
「こんな状況で今まで我慢したんだから場所くらいかえさせてくれよ!あのバケモノが、来るかもしれないだろ!!!」
レシルの手を掴み引き留めたカコンに、レシルは怒りをぶつけましたが、カコンは「はて?」と話が通じていない様子でした。
レシルは怒りのまま説明し、カコンは心配いりませんと話を切った。ちょうど話が区切られ、詳しく説明しようとカコンが口を開いたとき、部屋の壁を突き破り人面の顔がカコンの後ろから顔をのぞかせてきた。そして、それに驚き足を滑らせたレシルはそのまま意識を失うのだった・・・・。
「やれやれ、今回選ばれた者は手がかかりますね。」
うっすらと意識を取り戻し、次第に鮮明な意識へ変わると、先ほど会ったカコンの胡坐の中で目を覚ました。
カコンはヤギの頭をしているためか、人でないためか、二メートルを軽く超えるほど身長があった。
レシルを見下ろすヤギの顔に驚き目覚めると、「人の顔を見て驚くとは失礼な」と小さな声で文句が聞こえた。
「ここはどこだ!?」
「全く、少しは落ち着いてください。ここは、15階層です。要するに、この墓地の最深部ですよ。」
目の前に広がるのは、ダンジョンとは思えない狭くこじんまりとした部屋であった。
「ここが15階層・・・。」
いくら見渡しても部屋を支える柱と、奥にある祭壇、明り用の柱に取り付けられた光石のみ。ただそれだけしかない部屋であり、後ろには上の階に続く階段。そして、階段横には人面の魔物がそこにいた。
驚いて立ち上がろうとしたレシルを、カコンは押さえつけレシルの口をふさいだ。
「静かにしてください。うるさくすると、襲い掛かってきますよ。」
白目をむいていた4つの目が、レシルを真っすぐに見つめてきており、それに気づくとレシルは頷き黙るのだった。
「では落ち着いたところで、話のつづきでもしますか。私の力は寝ている間に、もう渡させていただきました。なので、力の説明と使い方、後は知りたいであろうもろもろをお話ししようと思います。」
「私の力は「調教」、魔物を従わせることができる力です。しかし、この力は普通の調教とは違います。調教できる魔物の数には制限がなく、様々な応用の利く特殊な力なのです。例を挙げるなら魔物を魔物を返して手下にしたりとか。」
カコンは「調教」の力について一通り話してくれた。そして、こんなところにいた理由も・・・。
ここは元々墓だった。今でこそ変質しダンジョンとなったここは、カコンが昔力を渡した人間の墓らしい。力を渡したのが昔の話で、名前も覚えていないそうだが、たまに墓参りに来るそうだ。
そして気になっていたあの人面の魔物、あれについてレシルは小さな声で聞くのだった。
あの魔物はもともとここの主人が使役していた魔物であったが、ここに眠ることになり解き放たれたにも関わらず、主人の元に舞い戻ってきた従順な魔物であったそうだ。だが、その魔物はあろうことか主人の遺体をくらいその身に取り込み、今の形となったらしい。
「それじゃあ、あの顔は・・・。」
「ええ、私が力を与えた少年の物と同じです。まあ、あんな苦しそうな顔はしていませんでしたが。」
魔物にある人面は、二つとも同じ顔であり苦しそうな表情をしていた。その表情から、当人がどんな感情を抱いていたのか、報われない思いが未だにあるのか分からないが、救われて欲しいと、話を聞いた後では思わずにはいられなかった・・・・・・。
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