76 ダンジョン内 (リン)
「ガット!!! なんで、レシルを止めなかったの!謝らなかったのよ!」
リンはガットの胸倉をつかみながら、今にも泣きそうな顔で怒っていた。今はレシルが立ち去って五分ほど経ち、風の壁がレシルが行った道をふさいでいる。
初めの内こそ、レシルに思い直してもらえるように姿が見えなくなっても声をかけ続けていたのだが、すでに時間が経ち諦めたリンは、今ガットにその気持ちを向けていた。
「リン、それくらいにしろ。レシルが戦闘にあまり参加していなかったのは事実だった。ガットの気持ちも多少はわかるだろ?」
「だったら、子供を一人でこんなダンジョンの中に放り出すっていうの!!!」
「レシルは子供じゃないだろ!あれでも俺たちよりもランクが上の冒険者だ!危険なことは変わらないが、レシル自身も詫びの一つも入れずに去って行った。冒険者であれば、謝り仲間と行動することを選ぶべきだった。それをしなかったってことは、腕に自信があるってことだろ。」
「そうかもしれないけど・・・・。」
リリオはガットを庇うつもりはなかったが、リンの気持ちもガットの気持ちも何となくわかっていたので興奮しきっているリンを説得したのだった。
リンがリリオの話で落ち着きを取り戻し、リンの言葉に落ち込み気味のガットへ話を移した。
「ガット。レシルに対して気にくわない気持ちがあったことはわかる。でも、あんな言い方は良くなったと思うぞ。」
「はい、俺も今更だけど、そう思います・・・。」
「確かにレシルの答えも引っかかるものがあった。だから俺は、これは二人共悪い部分があったと思ってる。」
「確かに、自分は悪くないような口ぶりだった。」
「ああ、確かにな。でもよ、言ってることは案外まともだと思ったぜ?」
「だがら、リンたちは引っかかるものを感じたんだよ。」
ジョンとグフが自分たちの主観の意見をつけたし、全員の認識が「ガットもレシルも悪かった」と言う風になっていた。全員の認識、意見がまとまり始めたころ道をふさいでいた風が消え、それにリンが気が付いた。
「風が消えたわ。誰が悪いとかもういいとして、レシルを早く探しましょ。いくら強くても、たった一人じゃ危ないわ!」
リンの言葉に全員が頷き、レシルの後を追いかけるように道を駆け足で進みだすのだった。六階から七階に降りていくリンたちであったが、レシルの姿はどこにも見当たらず、さすがにガットやリリオたちも心配の色が顔に現れ始めてきていた。ガットは今、「謝ろう」と言う気持ちになっている。言ってしまえば「申し訳ない」気持ちなわけで、そこにレシルの姿が一向に見えないというのは不安を増長させるほかなかった。
「お、俺が、あんなこと言ったから。俺は、どうしたら・・・。」
「大丈夫だ、ガット。そんなに落ち込むな。大丈夫だ。」
自分を責め始めたガットをリリオはフォローするのだが、リリオ自身もレシルの姿が見えないことに焦りを感じていた。いくら先に進んでいるとしても、子供の足に対して駆け足で追いかけている大人が追いつけないのはあり得ない。
リンは先頭を速足で歩き続けており、その横にはジョンが付いていてくれていた。ジョンがリンを何とか落ち着かせようと頑張っていたのだが、魔物はどんな状況であっても構いはしないのであった。
「魔物が出たぞ、数は4! 蜘蛛1に蜥蜴3!」
ジョンの掛け声で後ろの三人が戦闘態勢に素早く移り、戦闘が開始された・・・・・。
リンたちの今相手している魔物は数も少なく、少し余裕を持って戦えるくらいには慣れた相手であった。しかし、その余裕が今回悪い方に転んでしまった。
「リリオ、私先に行くわ!」
「!? おい、リン!戦闘中だぞ!」
「あとはみんなで十分でしょ。」
「ちっ!まて、リン! くそ!!ジョン、行けるか?」
「今は無理!」「こっちも同じ。」
「チッ!ガット!リンについて行ってくれ、ここは俺たちで何とかする。あいつ一人にしとく方が心配だ。」
「お、おう!」
戦闘中にもかかわらず、一人レシルを追いかけて離れていくリン。そんなリンをリリオの指示で追いかけるガット。二人はリリオたちと別れ、一足先に八階の階段へ向かうのだった。
ガットは階段に向かう途中でリンに追いつくことができた。初めこそ、ガットもリリオたちの元に戻ることをリンに話したが、頑ななリンに連れ戻すことを諦め今は共に八階への階段を下りている。
「リンさん、さすがにまずいよ。八階、九階は、体力の消費が激しい階層だし、そんな階層に二人だけで行くなんて自殺行為ですよ!」
「うん、私もそう思う。でも、これ見て、小さい足跡が続いてる。レシルがここを通ったのは間違いないみたいだし、先に進んだのなら危ない状況になってるかも。」
「確かに、レシルみたいな体の小さな奴なら、なおさら体力の消費が激しいかもしれないけど・・・。ちょっ!リンさん。」
リンは階段を降り、七階から八階へきてすぐ、レシルの足跡を見つけ足跡を頼りに進むのであった。リンの想像していたことは、事実であり実際危ないところだったのだが、タヒコによってレシルは助かったのだった。
ガットはここが先ほどまでの階層以上に体力を消費することを今までの冒険で知っている。
足場の悪いこの階層は、しっかり踏ん張らねば滑って転ぶ可能性があり、そのままそれが隙となり命を落とすことにつながる。何度となく、リリオたちに言われてきたこの階層での注意点。そのことをガットは思い出しながら、今まで以上に警戒してリンと共に進んでいく。
「リンさん!」
「ええ、魔物ね。あれは、他の魔物の血?新しそうだしレシルの戦闘の後かも。」
「やるんですね、俺が前衛をします。リンさんは援護中心でお願いします。」
ガットはそう言うと、リンが飛び出すよりも早く駆けだし、魔物たちの元に向かう。そこにはワーム系の魔物が3体ほど集まっており、地面にたまった魔物の血をなめていた。ガットは魔物の元につくと、そのまま剣を振るい一匹を切り裂き、続けて二匹目を切りつけた。
二匹目のワームは、ガットの剣に少し切られつつもかわし、口から何かを吐き出していた。
ガットはその攻撃を受けようと剣を構えたが、足を取られ滑り転んでしまった。飛んできた物は、壁に当たると周りの苔をからし煙を上げて溶かしてしまった。
「あぶねぇ。そうだった、こいつらにも種類があるんだった。」
この階層に住むワームには何種類かおり、泥や毒を吐くもの、酸や石を吐くものなど種類によって違い、ガットはそれを泥を吐く種類だと勝手に思い込んでいたため、攻撃を受け止め用としたのだが、受けなくて正解であった。
しかし、魔物は「ホッ」と落ち着く暇を与えるわけがなく、攻撃を仕掛けてくる。もう一匹をリンが引き受けてくれているので、不意打ちを食らう心配をしなくていいため、ガットは勝負に出る。
剣を握り直し、地面を強く蹴った。ガットは飛んでくる酸を抜けワームとの距離を詰め、剣で潰そうと力任せに押し付ける。ワームは剣に押し潰されようとしているため、苦しそうに声を上げていたが、じきにワームの力が抜け動かなくなった。
ガットがワームを倒した後、そのままリンの加勢に向かうが、リンの方も倒し終わったところだった。
「はぁ、はぁ、そっちも終わったみたいね。 ? ガット肩のとこ血が付いてるわよ。大丈夫?」
リンに言われガットは肩に目をやると、ワームの牙が刺さりそこから血が流れ出ていた。ガットは「痛みもないし平気です」などと言っていたがリンは、ポケットから魔法薬を取り出し渡した。
「ありがとうございます。」
「お礼はレシルに言って。それ、レシルがくれた物だから。「一緒に探索するお礼って」言って、人数分くれたのよ。一本だって、決して安い物じゃないのに・・・。」
リンは渡した魔法薬がレシルから貰ったもので、今それを使いガットの傷が癒えていることを伝えた。ガットは、魔物たちがいた辺りを調べているリンの元に行き、レシルに謝ることを伝えた。リン自身はそのことを喜んでくれたが、リンの続く言葉は先ほどとは違うものだった。
「もう戻りましょう。これ以上先に進むのは無理だわ。」
「え、なんで!?レシルの足跡は続いてるじゃないですか!」
「私たち二人じゃもう無理よ。ここを見て分かったけれど、レシルはたぶん魔物と戦闘して勝ってる。しかも、それなりの数を相手にしてね。レシルは、先に進むだけの力があるから進んでいるのよ、私たちにはその力がない。だから、リリオたちと合流してダンジョンの外でレシルが帰ってくるのを待ちましょ。」
リンはレシルを追いかけようと躍起になっていた時とは違い、とても冷静な意見をもって話してくれた。ガットは今さらながらレシルを追いかける気になったのだが、リンの言葉に従いレシルを探すことを諦め、帰っていくのだった・・・・。
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