70 「情報収集」
膝の上で、料理を無理やり口に運ばれるレシルは自分を拘束している「リン」に対して文句を言いだすのであった。
「おい、離せよ。俺は一人で食えるし、落ち込んでるんだからほっといてくれ!」
「だーめ!」
「そうそう、ダメよ坊や。はい、あーん。」「あ、ずるい。私も!はい、あーん。」
レシルの言葉など全く耳に入れようとしない女性たちは、変わらずレシルの口に料理を食べさせようと運んでくる。レシルは、必死に抵抗したが面白がった男性に口を開かされ無理やり口に入れられるのであった。
「ダメよ、出さずにしっかり食べて。落ち込んだ時こそしっかり食べて、切り替えなきゃ!」
リンはそう言って吹き出そうとしたレシルの口を押え、食べさせる。レシルも、どうにもできないと悟りおとなしく運ばれる料理を食べるようになり、料理の一皿を完食した辺りでリンから解放された。
リンはレシルを隣に座らせ、飲み物を渡し今度は楽し気な雰囲気の中レシルに酒を勧めだすのだった・・・。
レシルを引っ張り込んだ「リン」と言う女性のグループは、どうやら同業者らしく。話している内容から、リンに直接聞くとやはり冒険者だった。
話していたのは、先日リンたちが行ったという「失われた遺灰」と言われるダンジョンの話だった。
「失われた遺灰」はレシル達の課題となっているダンジョンだったので、酒も入りほろ酔い気分のレシルはついでにとダンジョンについて詳しく聞くことにしたのだった。
「失われた遺灰」・・・・・アティカス首都から少し離れた、入り江の奥に入口が存在しているダンジョン。その昔、偉大なる英雄と言われた存在が世界を守るため奮闘していた頃、英雄と共に活躍したとされる名も知らぬ者の墓。墓として存在していた頃は、正常な空気に包まれ魔物が近づくことすら許さぬ領域だったが、最奥部に安置されていた遺灰が何者かに盗まれダンジョン化したらしい。
古い文献によると、ダンジョンの構成階層は15階とそう多くはないようだがその難易度は他のダンジョンと引きを取らぬと言われるらしい。今現在、進入が許されているのは10階まででそれよ先は禁足領域とされ、入ることを許されないという・・・。
「あの、そのダンジョンのこともっと教えてくれない?」
「なになに、やっぱり冒険とかに興味持っちゃったりしちゃった? いいね!いいね!男の子だね!いーっぱい教えちゃうよー!」
「あ、ありがとう。」
「うんうん。で、何を聞きたいのかな?あ、言っとくけど効率のいい狩場とかうまい寄生の仕方とかは、教えてあげないからね。」
「(え、なに?そんなやり方あるの!?てか知ってんのかよ・・・。)」
「えっと、出てくる魔物とか気をつける事とか・・・。」
「いいよー。えーとね、出てくる魔物は奥に行けば行くほど強くなるんだけど、入り口付近の三階層目くらいまではアンデット、スケルトンとかゾンビとかそう言うのが多いかな。たまにゾンビハウンドとか獣系のアンデットが出る感じ。 それより下になると、猛毒を持つ蜘蛛系の魔物に俊敏に動く蝙蝠、トリッキーな技を持つカエルとかがいるかな?そうそう、ダンジョンは10階層までしか行けないことになってるからそれ以上はいかないようにね。一応立札が入口にあるけどよく魔物に壊されて分からない時があるから特に注意ね。」
「へー、でもリンさん。もし、知らずに10階層より先に行ったらどうなるんですか?」
「特に何も?ただ、10階層を超えると禁足領域って言われるようになって、出てくる魔物が普通の魔物じゃなくなるらしいよ。何でも、言葉を話すことができる魔物が出るようになるらしくて。下手に行って帰ってこれる冒険者はそうそういないよ。この話も、ずたぼろになって帰ってきた冒険者が広めた話らしいし、確かめに行った奴らは誰も帰ってこないらしいからね。」
「そんなに危ないところなんですね。気をつけないと・・・。」
「はははは、大丈夫よ。坊やがダンジョンに入れるようになる頃には私たちが魔物を倒して簡単なダンジョンにしといてあげるから!」
「おう、俺たちがダンジョンを制覇してやるぜー!!」
「「「イェーイ!!!カンパーイ!」」」 「「期待しないで楽しみにしてるわよー!」」
「なによ、もっとあんたたちも応援しなさいよ!」「どうせ、逃げかえるのが関の山なんだから期待なんてしないわよ。」
「ひでーな、もっと応援してくれたっていいじゃねぇかよ。」「もっと貢いでくれるなら心配くらいはしてあげるわよ!」
酒に酔った者たちの口は軽く、調子のよいことばかりを口にする者たち。リンと共にいる冒険者たちやそれを取り巻く友人たち、誰もが酒を飲み愉快な話に花を咲かせる。
レシルは自分がこれからダンジョンに入るために情報を集めていたが、リンたちはレシルの見た目が8歳ほどのため冗談めいた事を言っていたのだが、そんなレシルも酒が入りその口は軽くなっていた。
「なに言ってるんだ?俺は冒険者だぞ。ほら!」
レシルは自分のギルドプレートを見せる。冗談だと笑ってくるリンたちに見せつけるように差し出し、リンが受け取り内容を確認して驚愕した表情を取れば、それを見た者たちも我先にとギルドプレートを奪い確認し、次々とその表情を変えていった。
「マジ、本物なんだけど・・・。坊や、名前は「レシル」で歳は12歳であってる?」
「おう、そこに書いてあるだろ?あ、誰かほかの人のだとか思ってたりしないような?正真正銘俺のだからな。」
「ねぇ、リンもみんなもどうしたの?そんなにこの子が冒険者だったことが驚きだったの?まあ、確かにこんなにかわいいのに冒険者だったのは驚きだけど・・・。」
リンの友達と思われる女性がそんなことを言い出し、他の女性もそれに続くように驚いたことと、思ったことを口にしていく。
「うん、それもそうなんだけど。この子のギルドプレートがこの子の物なら、私たちよりランクが上なんだけど・・・・。」
「「「えっ!!」」」
「マジだぜ、これ・・・。」「ああ、本物だ。すげー!」
リンたちの驚きつつも発せられた言葉に、周りの友人たちはレシルに目線を向け「冗談だろ」「嘘よ」などと信じられない様子であった。そしてそこに、ギルドプレートをさらによく見て気づいた者が大声で話はじめ空気が先ほどまでとは違うものに変わっていくのであった。
リンの仲間が気が付いたのは、レシルのギルドプレートに書かれた昇格試験を受けていることを意味する印であった。それを聞いたリンたちはギルドプレートをもう一度覗き込みそれが真実であることを確認する。
自分たちよりも小さな子供のレシルが、自分たちのランクよりも上でさらに昇格試験の真っ最中となれば、悔しい気持ちや、怒り、嫉妬、と言った感情を抱いていたかもしれない。しかし、そうはならなかった。
リンをはじめとするその仲間たちは顔を赤く染め、みんなの驚く顔やレシルを褒める言葉に自慢げになるレシルを見て、逆にかわいく思えてしまったためだった。
「はあ、こんな子供に先を越されてるとわね。全く悔しがるどころか呆れちゃうわよ。全くも、うりゃうりゃ。」
そう言ってリンは、レシルの頭をぐしゃぐしゃに撫でまわし、レシルをほめるのであった。
「今さらだが、初めましてレシル。俺はリンたちと一緒にチームを組んでる「リリオ」だ。リンとは兄妹なんだ。同じ冒険者としてよろしく頼む。」
「うん、俺もよろしく。」
「おれおれ、俺は「ジョン」。リリオと同じチームで、隣のこいつが「グフ」。それと、その奥で寝てるのが一番若い「ガット」。俺たちは五人組のチームなんだぜ!」
「そうなんだ、俺は三人でチームを組んでて、他の仲間は宿にいると思うぞ。」
「そうだったのかよ。一人だったら仲間に誘おうと思ってたのに!」
「自分より弱いチームに入ろうなんてもの好きいねーよ。」
そんな楽しく冗談交じりのバカ騒ぎは、まだ一時間ほど続くのであった…・。
楽しい時はすぐに過ぎると言いますが、今のレシル達の場合はすでに過ぎていたと言う方が正しいのでしょう。すでにお店のおじさんから「帰ってくれ」と催促されていましたが、レシル達はその言葉を無視し席を離れようとしないのであった。
「いい加減にしてくれ!!!!もう閉店時間だ!さっさと出て行ってくれー!!!!!」
すでに店にはレシルを含めたリン達しかいなくなったころ、店の親父はキレ、男たちをつまみだした。そして、レシルとリンだけは背中を押される形で店を出されるのであった。
「イテテ、あのおやじ無理やり追い出さなくてもいいじゃねぇかよ。」
「そんなこと言っても、俺たちが居座ってたのが悪いんだし文句は言えないと思うけど・・・。」
「まあ、仕方ないじゃない。このまま帰りましょうか。」
「おう、 それはいいけどよ。その、抱えたレシルはどうする気だ?もう寝ちまってるみたいだし、このまま連れてくか?」
レシルはリン達と酒を飲むうちに眠りにつき、今はリンに抱えられていた。リンはレシルをこのまま連れて行こうとしたが、リリオがレシルを「俺が運ぶか?」と言ってきたため任せることにし、ジョンとグフがガットに肩を貸す形で無理やり歩かせ、宿に帰るのであった・・・・。
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