58 「霊蝶」
ジークとバルロがレシルを気にせず飲みだし、レシルはレシルで楽しく飲み話していれば、祭りが佳境に入るまでの時間はあっという間だった。
「なあ、タウロ。踊りが終わったみたいだけど、あそこでみんな何してるんだ?」
「ああ、今はこの祭りのメイン、アレの準備だろ。」
「アレ?あれってなんだ???」
「まあ、楽しみにしてるといいよ。タウロもせっかくだから、先に教えないようにな。」
「教えようなんてしてねーだろ。まあ、レシル。楽しみにしてるといい、きっと気に入る。」
レシル達は男女が踊り騒いでいた会場で、着々と準備の進められていく様を見つつ残りの酒を飲み、その時を待っていた。祭りの関係者であろう、同じ服を着た人々が丸太を運んで来ては組上げ、その中に干し草のようなものを敷き詰めてている。
レシルは、キャンプファイヤーでもするのかと想像を膨らませていたが、中に入れられてるのは干し草だけではないようで、食べ物や魔石に魔物の素材など様々なものがあり、中には普通の服や石造や人形、生きた子牛なども眠らされ入れられていた。
「なあ、物はわかるが生きた牛もあの中に入れて・・・。まさか燃やしたりしないよな?」
「おー、察しがいいな。正解だぞ!」
「ああ、でもさ、牛はかわいそうじゃないか?まだ生きてるみたいだし、子牛だぞ。」
「お前だって、牛の肉は食うし魔物の子供だって殺すだろ?鳥の卵は食うし変わらんだろ。」
「だからってさ、お祭りの祝いの日に生き物を人前で殺すのか?」
「・・・・・・。」
「そういうお祭りなんですよ。昔から。だから、初めて見るレシル君が嫌に感じるのも分かりますがこれは普通の事で毎年やってきたことなんですよ。」
レシルは、酔っていたが少し冷めてしまうほど祝いの席で行なわれる「殺し」に嫌悪感を抱いていた・・・・。
そんな少し白けてしまった空気の中、準備は終わりを迎えたようで太鼓の音が広場に響き渡り、ざわざわとうるさかったおしゃべりしていた者や買い物に声をあげていた者、動きまわる音などが一応になくなり静寂に包まれた。
それでも騒いでいた者たちも静けさに飲まれ皆だまり、周りの者に釣られるように視線が組まれた木のある広場の中心に注がれた。
木の周りには四人の白に赤い線の入った和服を着た少女たちが、顔を隠す布をつけて等間隔に並び、その周りでは祈祷師のような、魔術師のローブにも神職者が着る服にも似た物を着た者たちが、さらに外側をぐるりと囲っており、この祭りの最後と思われる出し物は静かに始まった。
「(何が始まるんだ?)」
外側にいた祈祷師たちの頭上に火の玉が生まれ、隣の者にボールを渡すがごとく玉がぐるぐると回りだしたかと思うと、一斉に真ん中の組まれた木に向かって飛んでいき大きな火の手が上がった。
大きな火は10メートルはあろうかと思えるほど大きな火となり、飾りとして家々に渡されていた布を燃やしてしまった。
祈祷師たちはそれに動じることもなく、布を風の魔法で屋根から外し火の中に放り込んでしまった。
そして、火が少し落ち着きをもち、身動きの取れない状態で「モ~」と泣きわめく牛の声が聞こえなくなったころ、少女たちが動き出した。
「「「「豊穣を運びし霊蝶よ。私たちはその慈愛に感謝します。そして運びし恵みへの感謝と、これからも変わらぬ慈愛をもって我らに恵みをお授けくださることを祈り願い、ここにその感謝を示します。」」」」
四人の少女たちの声が、ブレることなく美しく重なり合い響き渡る。そして、少女たちは袖口から神楽鈴を取り出し、その音色を響かせました。音は重なり広がる波紋のように会場を巡り、聞くものすべてが聞きいるように会場の中心を凝視し続けていました。
少女たちは火の回りを鈴の音だけを立てるように動き、神聖な雰囲気を醸し出していきます。
動くたびに揺れる袖口も、振るわれ鳴り響く鈴の音も、燃え盛る火も、この会場にいる生きる物すべてに見守られ、動き続けます。
そして、少女たちが先ほどまで振っていた鈴を火の中に投げ込み、鈴の音が中に落ち最後の音を響かせると、燃え盛る音のみが静寂の中で唯一音を立て続け、その音は段々と大きな音へと変わりだしました。
「(どうなるんだ!!??)」
レシルは、声を出すことをはばかられるほどに神聖な雰囲気に包まれている会場で、目の前で行なわれていることから目が離せないでいました。
火の音が大きくなり、燃え盛る木の隙間から火の玉が飛び出てきました。一つ二つではなく、もっとたくさん数えられないくらい多く出てきた火の玉は、少女たちの周りを飛び交う妖精のように回りだしました。
四人の少女たちが光の尾を引く火の玉によって囲まれ終わると、突然少女たちは激しく動き出しました。
先ほどまでは、巫女が神楽を舞うがごとく静かに凛とした雰囲気を纏っていましたが、今では神聖な雰囲気はそのままに狂気にも似た荒々しい動きで舞っていました。
そんな激しい動きであっても、火の玉は付かず離れずにその動きに合わせて激しく動いています。
そして火の玉の光が少女たちの狂気さを助長していましたが段々と火の玉は小さくなっていき、少女たちの周りから少しずつ消えていき、すべてが消えると同時に少女たちも動きを止めました。
すると、踊っているうちにはじめよりも小さくなっていった火が赤い色から青い色に変化していました。今にも崩れそうな炭となった組木を残して蒼い炎の蝶が一斉に飛び立ち、会場を少しかすめて天へと昇っていきました。
燃え残ったのは牛の骨に、その周りの今にも崩れそうな組まれた炭の木・・・。なぜか残っていたのはたったそれだけであり、静間に返ったままの会場に太鼓の音が轟音を立てて響いた。
すると歓声を上げる住民たち。レシルは、隣で大声で騒ぐタウロとガクにびっくりしながら、いまだ抜けない余韻に心が不思議な気持ちでいっぱいになっていた・・・・。
「さあレシル。もう一回仕切りなおすぞ。これからの恵みに祝い酒だー!!!」
「まだ飲むのか!?」
小さな頭を支える細い首に、いたわるように回された手とかけられた言葉に驚きながら。完全に冷めてしまった酔いを取り戻すかのように、酒を飲まされ出したレシル。
先ほど見た光景に、酔った頭で考えてもその印象と美しさ、感じた神秘性は消えることはなかった。
はじめこそ嫌悪感を抱いていたレシルも、あれだけ神聖な雰囲気で命が奪われては文句を言うことなどできようもないし、言う気も起きなかった。
「初めて見た感想はどうでしたか?すごかったでしょう?」
「はい、なんかきれいで、神秘的で神聖な雰囲気でした。」
レシルの言葉に「うんうん」と大きくジョッキを片手に持ち腕組しながらうなずくタウロ。
「さてと、メインも終わったし俺は帰るわ。カミさんも帰り始めるころだろうしな。」
「そうか、なら酒瓶と買い残った食べ物を少しでももってけ。カミさんと一緒に食べるといい。」
ガクはタウロから土産と酒を受け取ると、夕方となりどんどん帰っていく人の流れに消えていった。
タウロはガクが帰った後も残った酒を飲み、肉をつまんでいる。レシルも、酒に付き合い飲み食いを一緒にしていた。
「レシル、そろそろ俺たちも行くか。」
「そうだな、酒もジョッキのが最後だしつまみも無いしな。」
お互い最後のカンパイをしてから一気に残りを飲み干すと、ジョッキを叩きつけるように置き二人で笑ってレシルは席を立った。
「ありがとうな、タウロ。楽しかった!また機会があったら遊ぼうぜ。」
「おいレシル、何ならもう少し付き合ってくれねーか?」
「???? いいけど、ちょっと待ってくれ。連れに話だけ通してくる。すぐそこにいるから。」
「(なんだろう?もしかして、まだ飲み食いに行くんじゃないだろうな?さすがにそれならもう、いいんだけど・・・・。)」
レシルは数時間ぶりにジーク達の所に戻ってきましたが、そこにはテーブルにうつぶせで眠るバルロに女性に「あーん」と食べさせてもらっているジークの姿がありました。
レシルは前のように怒りに震えることはありませんでしたが、レシルを見つけたジークは慌ててレシルに言い訳をし始めたので、タヒコをけしかけて黙らせた後、「帰りは遅くなるから」と告げて去ろうとしました。
「レ、レシル・・・。」
「あ、そうだ。バルロをこんなところで寝かせてると風邪をひくかもしれないから、早めに宿に連れて行ってやれよ。」
レシルは、バルロのことを任せると振り返ることはなくジークを残しいて去って行きました。ジークにまとわりついていたタヒコは、レシルを見失ったジークを確認してからレシルを追いかけ、いつものポジションに戻るのでした。
「待たせて悪かったなタウロ。早く行こうぜ!」
「お、おう(連れと喧嘩でもしたのか・・・???)」
先ほどよりも少し機嫌の悪くなっているレシルに急かされ、タウロはレシルを連れて街の中を進むのでした。
レシル達は、今の時間では開いている店がほとんどない商店街のような通りを歩いていました。
会場近くでは、帰る人や土産にと最後の買い物をする者などで未だにぎわっていたため、タウロに持ち上げられた状態でやっと抜け、実質的には今さっき歩き始めたばかしでした。
「こんなところに今日もやってる店があるのか?」
「いや、店には違いないがやってはいないだろうな。実はお前に合わせたいやつがいる。」
レシルは心の中で「これ以上食べなくていいのか」と少しホッとしていたが、タウロが会わせたい人物とは誰だろうかと考え、牝牛の奥さんとか、もしかして馬の獣人とか?などと想像していた。
「ついたぞ、ここの店だ。」
着いた店には「両替」と書かれた看板が下げられており、タウロはドアを開け中に入っていった。
「鍵はかかってないのか?」と思いつつレシルもタウロに続いて中に入れば、奥から明りが近づいてきてまぶしさに目を細めていると女性の声で怒られてしまった・・・・。
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