56 「金貨百枚」
レゲナは自分の思い通りに事が進み、内心とても高揚していた。
レシルは今回のことについて後から蒸し返すつもりはなく、早く全てを終わらせお金を受け取ってゆっくりしたいと考えていた。
「さぁ、話は終わったみたいだしレゲナさんも疲れてると思いますし、そろそろ休みませんか?」
「おお、そうだな。確かにその通りだ。私としたことが、レシル君に言われるまで気づかんとは・・・。」
レシルは、声を発する事が憚られるこの雰囲気を終わらせるために、声を上げて休みたいとレゲナ父に言った。これは、レシルが本当に休みたかったわけではなく、レゲナ自身が俯いた状態で思っていたことを口にしたのだった。
「(もう、この空気どうしよう・・・?悲劇のヒロインの位置にいる私からぶち壊すわけにいかないし、誰かなんとかしてよ・・。)」
レゲナのどうにもできないこの状況を楽しんでも良かったが、レシルは助けてあげたのだった。
レゲナがメイドと共に部屋を出て行き、ジーク達も泊まる事になっているため、レゲナ父から執事に声がかかるのをジーク達も執事もまっていたのだが・・・。
「えー、君たちには大変世話になった。今日はゆっくり休んでもらいたい。それと、折り入って頼みがあるのだがレゲナをアティカスの本邸まで護衛という形で連れて言って欲しい。」
「「「えっ!?」」」
レゲナ父から言われた言葉に三人とも驚くしかなかった・・・。そして、レシルは「絶対に嫌だ」と心の中で思い、ジークとバルロも内心「もう、レゲナと旅はいい」と遠慮したい気持ちであった・・・。
「レゲナの婚約は解消する事でもう決めた。しかし、レゲナをアティカスまで連れて行くとなると、やはり時間がかかる上、また賊に襲われるやもしれない。だから、君たちに引き続きアティカスまで、レゲナを連れて行って欲しい。」
「い、あ、あのー。大変嬉しい事なのですが・・・。」
「お断りします!」
言葉に悩み、声が出て来ていなかったジークに変わり話し出してくれたバルロであったか、肝心な部分はレシルが大きくはっきりした声でレゲナ父に言い放った。
レゲナ父もジークもバルロも皆一様に驚き、目を大きく開きレシルを見つめる。
そして、レゲナ父は驚いていた顔を一瞬で戻し、レシルに詳しく話を聞こうと促した。
「俺たちは今、冒険者の昇格試験のために旅をしています。なので、レゲナさんのために旅の護衛をするという事は出来ません。本当にごめんなさい。」
レシルは、自分のことを子供と認識しているレゲナ父に少しおぼつかない敬語を混ぜながら答えを返した。
ジーク達は、そんな少し演技じみたレシルを内心ひやひやしつつ見つめ、黙って話を聞きレゲナ父の様子を伺うのであった。
もしも、レゲナ父がプライド高く、傲慢な性格の持ち主だった場合、レシルは貴族の機嫌を損ねた事になり色々と問題になっていたかもしれなかった・・・。
「そうだったのか・・・。そういう事なら仕方がない。すまなかったな。無理を言ってしまって・・・。」
レゲナ父は、ジーク達が心配していたような人物ではなく常識ある人であった。そのため、レシルの言葉も子供ゆえに辿々しいと判断し、理由を聞いて納得していた。
「ジークさん達に部屋を案内してあげなさい。」
「かしこまりました。」
レゲナ父が声をかけ、それにしっかりと落ち着いた声で答えた執事。
ここでやっと、レシル達はそれぞれの部屋へ行く事ができ、ホッと休めるのであった。
これほどまでにゆっくりとそして、気持ちの良い状況で休めることが人生の中でいかほどにあるだろうか。
レシルは、高級なホテルに泊まっているような気分で不釣り合いなほど広い部屋で一人ゆっくりと過ごし、眠りにつくのであった。
そして、レシルはその夜に夢を見た。。
ピクスの和と洋の入り混じる街の広場で、夢の中ではお祭りが開かれていた。多くの住民が酒を飲み、露店の店主たちは忙しそうに手を動かし、客は急かすように商品を買いあさっていた・・・・。
レシルは、そんな中で人と話せない、触れない、声をかけても無視される状況に、これが夢だとすぐに理解した。
「夢にしてはすごいリアルだな。こっちのお祭りとか知らないけど、実際はこんな感じなのかな・・・?」
そんな夢の中で静かに、しかし、しっかりと聞こえる音楽に合わせて踊る人々はレシルをすり抜けながら楽しげな雰囲気に包まれているが、レシルの心は高揚はしない。自分だけ認識されず無い物として扱われればそのような気分になるのは同然であった。そんな中、一人だけレシルに言葉が大きく聞こえる人物がいた。
眼鏡をかけ、裾が引きずられるほど長い緑色の服を着た女性がジョッキを片手に大柄の牛の獣人と踊っていた。
牛の獣人は、彼女よりも大きくまさしく美女と野獣のような感じであった。
レシルは、そんなこの国では普通であるが見慣れない光景に思わず見入ってしまったいると、その女性は牛の獣人とクルクルと回りながら近づいてきた・・・。
「おっと、こっちに来る。かわさなきゃ・・・。って、これは夢だった。」
どこか冷めているレシルは、クルクルと近づいて来る二人をただただ立ったまま見ていました。レシルはすり抜けると思っていたその時、女性はすり抜けることなくレシルと接触しました。そして、そんな軽い物ではなく格闘漫画などで闘技場の壁にめり込むほど飛ばされるように強い衝撃がレシルを襲いました。
「(悪い子。人の夢を覗き見るのは褒められたことじゃないわよ・・・。)」
レシルが女性と触れた刹那に心の中に声が響き、夢の街にたくさんいた住人達をすり抜け飛ばされていきました。
そして目覚めると、ベットから落ちほっぺと床が仲良くしてました。そんな状況にも拘らず布団がしっかりと掛かっていることや、布団の端に小さなひっかき傷があることを踏まえるとタヒコが駆けてくれたことはすぐわかりましたが、どうにも首を寝違えてしまったようで動かすと痛くなっていました。
「イタタタ・・・。布団をかける気づかいができたことは褒めたいけど、素直に褒められない・・・・。」
タヒコの優しさをうれしく感じていたレシルでしたが、首の痛みでその気持ちも素直に言葉にできない心情でした。そして、そんな痛みに耐えながら夢のことを思い出そうとしましが・・・。
「・・・・・。なんだっけ?えっと・・・・。確かお祭りの夢・・・。」
レシルは夢をすでに忘れていました。かろうじて思い出せたのは「お祭り」が夢に出てきたこと、不思議な女性と吹き飛ばされたことのみ・・・。
そんなことを体の正面に対して右を向くような形で考えていると、「コンコン」とドアをノックする音が聞こえました。
「おはようございます。お水とお召し物のご用意をさせていただきました。」
メイドが扉を開け頭を下げたまま来た理由を述べた後、頭を上げ中に入ってきた。レシルは、そのまま右側からやってきたメイドに感謝を述べメイドは顔を洗う準備をしてくれた。
ワゴンに乗せられていた着替えをベットに置き、ワゴンに桶に水を入れ用意してくれた。
レシルは、朝から見事なお世話を受けたが寝違えた首を前方に動かすことができず横を向いたまま顔を洗い、メイドは「どうかいたしましたか?」と尋ねてきたため、恥ずかしい気持ちを持ちつつベットの辺りからのことを話すことにした。メイドは「クスリ」と笑い、濡れタオルを残りの水で作り首を冷やしてくれた。
その後レゲナ父と朝食を取ることになっていたところを、レシルだけ部屋で取ることになり朝食後首の痛みがだいぶ良くなったところでレゲナ達やジーク達と合流した。
「おはようレシル君。首はもう大丈夫かい?」「レシル君でも、寝違えなんかは魔法で治せないんですね。」
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。」
レシルの言葉を聞き、レゲナ父は大きくうなずきレシルを座るように促した。
「では、全員揃ったところで本題に入らせてもらおう。まず、これがレゲナをここまで連れてきてくれた報酬の金貨百枚で治療や私から礼を心ばかり入れさせてもらった。受け取ってくれ。」
そう言ってジークの座る席の前に執事によって大きな皮袋に入った金貨が置かれ、ジークは大きくはっきりとした声で感謝を述べた。
報酬を受け取ってしまえばレシルは早くレゲナから離れたいと思っていた。そう、レゲナはまたよからぬことを考え始めていることをレシルは知ってしまったからだ。
「それでは、俺たちはいかせていただきます。お世話になりました。」
「うむ、今回は本当に感謝している何かあればいつれも相談してくれ。できうる限り力になろう。」
「ありがとうございます。」
レゲナ父とジークは握手をして、街のギルドに向かおうと考えながら屋敷を後にした。
レゲナは、腕の袖を少し抑えながら丘の上から手を振っており、その隣でレゲナ父も静かにたたずんでいた。
「ああ、行ってしまったな。レゲナ、ゆっくり休む時間を与えられなくで悪いがアティカスに戻ってもらおうと考えている。明日にでも、出発してほしいのだが・・・・。」
「はい、お父様。私はアティカスに戻ります。それでは、明日の支度をしますね。」
レゲナは軸がぶれることのない見事なターンを見せた後、メイドを連れて自分の部屋に行きました。
レゲナ父はレゲナのアティカス行の旅に同行する護衛を探すように執事に指示をだし、自分はザークスに向かうための準備を始めるのであった・・・・。
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