55 土産話
レゲナは、父の抱擁をそっと外し周りで涙を浮かべて居た使用人達に泣き止むように声をかけ続けるのであった。
「お父様、なぜピクスの別荘におられるのですか?アティカスの本邸にいると思っていたのですが・・・。」
「お前が賊に襲われたと聞いて、いてもたってもいられなくてな。ザークス聖王国に向かうつもりでここまで来ていたんだ。お前の方から、ここまで無事に帰ってきてくれるとは・・・・。」
レゲナの父は、レゲナが賊に襲われ使用人と別れたと聞き及んでいたらしくレゲナの質問に答えた後、再びレゲナを強く抱きしめるのであった。
「お父様、その辺でやめてください。お客様が見ています。」
「えっと、お父様紹介しますね。逃げている途中で助けてくださった、ジークさんバルロさんレシル君です。彼らは冒険者で、ここまで連れてきてもらうために私が彼らに依頼したのです。」
「なるほど、そうだったのか。感謝する三人とも。私の娘をよく無事にここまで連れてきてくれた。感謝する・・・・。」
レゲナがレゲナ父にジーク達を紹介し、レゲナ父はジークの手を取り感謝を涙を浮かべつつ述べていた。
レシルはレゲナに「報酬のことも忘れないでくれよ」とそっと耳打ちし、自分たちの利益を確保しようと釘を刺していた。
その後、レゲナとジーク達は屋敷に招かれ一泊することとなった。
中に入れば赤いじゅうたんが敷かれた大広間があり、観葉植物にシャンデリア、壁には絵画に装飾品。どれも主張しすぎず、かといって影が薄くなるようなことはない見事に整えられたエントランスであった。
そこから奥の部屋に行き、支度が出来次第会食することとなった。レゲナはメイドたちに連れていかれ、ジーク達も湯浴みをすることとなった。
汚れた服や装備は使用人たちがきれいにするらしくもっていかれ、ラフな服だけとなったジーク達三人。
「それでは、代わりの服はこちらにご用意させていただきました。ごゆっくりお寛ぎください。」
着替えの服を要してくれた執事は、さっさと浴室から出ていきレシル達は服を脱ぎ浴場に入ることにした。
白い石で囲まれた湯舟はとても広く銭湯を思わせるほどであり、ここにも装飾のほかに植物や像などが置かれ贅を尽くしてあった。
バルロは一応貴族と言うこともあり迷うことなく自然に動けていたが、ジークは同じようには行かなかった。
農村出身のジークはバルロと違い風呂になど入ったことがなく、ぎこちない動きでバルロの真似をして行動していた。
レシルはと言うと、これほど立派な風呂になど入ったことはなかったが知識としてはしっかりと持っており、日本の風呂の作法で入ってしまっていた。
「ふう。気持ちがいいですね。久しぶりに入ると尚よく感じます。」
「全くだな。気持ちがいい。ずっと入っていたいくらいだ。」
「気持ちはいいが、俺は少し落ち着かないな。なんか頭がふらふらしてきた気がする・・・。」
バルロは「それはいけない」と、ジークを連れて先に浴場を後にしていきました。レシルは、お風呂の淵にいたタヒコをきれいに洗ってやり少しあったまった後出ていきました。
ジークは、浴室の椅子に座り水を近くに置きつつおとなしく過ごしており、バルロはすでに服を着た状態で介抱していました。レシルも体が冷えないうちにと着替えることにし、体を拭き服を着だすのでした。用意されていたのは、ベーシックなズボンと白いシャツと下着。服自体は安物であるようであったが、丁寧にアイロンが駆けられ折り目がしっかりとついており、安物でありながら良い仕事が施されていた。
「おー、みなさんどうでしたか私の自慢の浴場は? 私は風呂が好きで、どの別荘も浴場だけはこだわるんですよ。」
「とっても気持ちよかったです。タヒコもきれいになったし、すごくよかったです。」
「レシル君にそこまで言われると、私もとてもうれしい。」
「堪能させていただきました、ありがとうございます。服まで用意していただいて・・・。」
「いやいや、これはお礼の一環ですしただのもてなしですよ。そちらのジークさんでしたか?大丈夫ですか?」
「はい、ご心配なく。俺は風呂になれてないだけなので、少しのぼせただけかと・・・。でも、とても気持ちがよかったのは事実です。」
ジークのことが気がかりだったレゲナ父も、ジークのさっぱりした顔を見て、心配していたが称賛の言葉に満足していた。
さわり程度の話を程々に、席に着きほてる体を冷ましつつ当たり障りのない話を始めると、メイドがドアをたたき中に入ってきた。どうやらレゲナの支度ができたようで、ドアを大きく開けた。
「お待たせしました。」
レゲナは、ドアをメイドに開かれて登場した。
舞踏会などで着るようなフリフリのドレスではなく、飾りは少なめだがレースと小さな花飾りのあしらわれた水色のドレス。耳には、同じように同系色のイヤリングをつけており体を細く、凛とした雰囲気を纏わせていた。
「待たせましてごめんなさい、みんな。お父様、レゲナ・バーム・スリングただいま戻りました。」
お嬢様として恥ずかしくない完璧なお辞儀を父の前で見せたレゲナは、見つめるジーク達に向き直し再び感謝の言葉を述べつつお辞儀をしてから席に着いた。
日もすっかり暮れ外は暗く、遠くに街の明かりが見える頃、レシル達はレゲナ父の歓迎の元食事を取っていた。
歓迎と言う事やレゲナが無事帰ってきたこともあり、食事はとても豪華な物であり庶民であるレシルやジークは食べたことのないようなコース料理が並び、食事と共に話の口もよく動くのであった。
「そうなの、村の宿で泊った次の日に賊に襲われてしまったの。使用人たちは私を頑張って逃がしてくれて・・・・。それで、馬車が横転しまったところにジークさん達が通りかかって助けてくださったの。」
「そうかそうか、無事でよかった。」
「それだけじゃないのよ。レシル君はまだ子供なのに魔法の使い手で、回復魔法まで使えるの。私の怪我も治してくれたのよ。もう、びっくりしちゃった。」
「おおおお!!!!それはすごい。魔法使いは数が少ないのに、こんなに若くしてそれだけの技を持ってるとは・・・。レシル君は、将来すごい人物になりそうだな。」
レゲナは、ジークやバルロが話す隙が無いほどに父に話を吹き込んでいく。時に嬉しそうに目を輝かせ、時に悲しそうにうつむき、自慢げに話したりと表情の変化が多くジークとバルロはこれほど話すレゲナに少し驚き、レゲナ父は真剣に話に耳を傾け頷き続けるのであった。
レシルは何をしてるかって?
タヒコと一緒に静かに食事を楽しんでいます。特に話そうともせずに、しかし耳半分程度に話を聞きながら。
「おい、レシル。レゲナからこんな話今までに聞いてたか?俺は聞いたことない話がちらほらあったんだが・・・。」
「黙って話を合わせとけばいいんじゃないか。変な状況にならない限り、かき乱すようなことを言うなよ。バルロにもそう言っといてくれ。」
「お、おう。よくわかんないが了解。」
三人はレゲナの話に丸々乗っかる形で食事をして、話を合わせるのでした。その甲斐あって、食事が下げられ食後の酒を楽しんでいるときには、約束通りの報酬をもらえることになり、レゲナが今までに話してこなかった裏の話も知ることができたのでした。
レゲナの年齢は十六歳。貴族でこれくらいの年ともなれば嫁にとの話も多く出るようになるのが普通であり、レゲナの家も例外ではなかった。
レゲナの家はアティカスの中でも有名であり、言ってしまえば大貴族の令嬢であった。それだけ地位の高い貴族であれば共に一緒になる相手もそれ相応の貴族や王族でなければならなかった。そして、国の一役を担う貴族として国同士の結びつきは大切なことである。
普通であれば、同列や少し上の位の貴族の者に嫁ぐのが通例であるがこの国では少しちがった。
アティカス神命連合王国は、様々な種族が集まってできた連合国家。種族の違いなどで普通であれば問題も生じるであろうが、この国ではまとめ役の巫女によりそういうことはほとんど大きな問題にならないよう調停されていた。
うちわでの問題や結びつきを強くする必要のないこの状況で、最も色んな意味で利益をもたらすことができるとなると他の国の者に嫁ぐしかなかった。
他国との結びつきを強くし、同盟国となることでより長い平和を模索する。その礎としてレゲナはザークス聖王国の貴族に嫁ぐことになっていたのだった。
そして、その途中で「やむなく」戻ってくるという結果になったということであった・・・・。
「お父様、私もう他国の方に嫁ぐのは嫌です。」
「レゲナ・・・。よし分かった。こんなことが起こってしまったんだ。先方には、婚約解消の旨を伝えることにしょう。」
レゲナはその言葉を聞くと立ち上がり、父親に頭を下げて静かに「ありがとう」とつぶやいた。
ジークとバルロは、「ええ話や~」とでもいいたげな表情で見つめていたがレシルの低い身長からレゲナを見れば髪の隙間から口角の上がった口元がわずかに見えるのであった。
「(ものの見事に乗り切ったな。まあ、俺も少しだけ手助けしたんだけど・・・。)」
そう、レゲナの今までの話には多くの嘘が含まれていた。まずレゲナは賊などに襲われてはおらず、婚約が嫌ですべてをでっち上げたのであった。レシルは、レゲナの心を読んだときにそのことを知り彼女の意思の尊重と「金」のためにこの茶番に手を貸したのであった・・・・・。
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