50 「感情」
レシルは「精神」の力を使いこなせるように、ピクスに向かう道すがらジークとバルロに力を使い続けました。
二人に使い続けたことによって、二人の考え方や物事の受け取り方などの違いがよくわかりレシルにとって、精神的な部分に関して理解を深める結果となりました。
精神に多く触れたことと力を使い続けたことにより、力を理解して「精神という糸」を繊細に紐解けるようになっていた。
レシルたちは出発から2日、二つ目の村に到着していた。
思わぬ収入もあり、この村で宿を取るレシル達であったがこの村に入った時からレシル達は普通とは違う緊張感を感じていた。
「なあ、ジークバルロ。この村少し変じゃないか?」
「おう、俺もそう思ってた。なんつうか、少しピリピリしてるような緊張しているような・・・。」
宿で取った一緒の部屋で、荷物をまとめつつ部屋でのんびりと過ごし始めたレシルとジーク。バルロは、空気を入れ替えようと窓を開け西日が部屋の中にまぶしく入り込んでくる。
「もしかすると、理由が分かったかもしれません。たぶん、貴族か誰か偉い人が来てるのでしょう。」
バルロは開けた窓から、向かいの自分たちが泊っている宿よりも立派な建物からわずかに見える馬車を見つけ、そう判断したのでした。
黒い下地を基本に作られた箱に金の装飾を施されたきらびやかな馬車は、この村になくても目立つ物であった。
バルロはこの村の緊張が「この馬車の持ち主がこの村に滞在することに端を発する」と考え、仕方がないことだとレシル達に伝えた。そして、その緊張により自分たちに影響は特に出ないだろうと付け加え「何事もないだろう」と窓を閉め休憩し始めた。
ジークとバルロは食事の後、食休みを少し挟んで寝てしまった。レシルは久しぶりに薬を調合しながら「力」の同時発動に挑戦していた。
つまり、{共鳴}と「精神」の力を同時発動してレシルを受信機として「共鳴」を使って対象の心の内を他者に伝えられないだろうかと考えたのだった。
今回に限って言えばレシルからタヒコに伝える形にしてこの村の住人の心を見てみることにした。
レシルは、この村全域を包むように「精神」を使い包み込むと「共鳴」でタヒコと自分をつなげるつもりだった。
レシルが「精神」を村全域に発動したことにより、大量の感情がレシルの中に流れ込んできた。起きてる者の感情は昼間、ジークとバルロで体験したように流れてくるため情報の処理には慣れていたが、驚いたのは流れてきたのが感情だけではなく寝ているであろう住人たちの夢も流れてきたことだ。
そして、流れてくる感情よりも夢の方が情報を処理するのが大変だったのだ。
レシルは、流れ込んできた情報によって頭をたたかれるような痛みに襲われた。痛みのせいでコントロールができなくなり、レシルは{精神}を解いた。
レシルは痛みに対して体がもつ無条件反射によって、もがき苦しむ前に何とかなった。レシルは、突然の痛みによってまき散らしてしまった粉薬を見つめこの「精神」の力のメリットとデメリットを考えるのであった。
「うーん、ううんーーん。」
ジークの寝返りにレシルはビクリ!と背を伸ばすが、ジークは目を覚ますことなくベットで眠る。
タヒコは、痛みに頭を押さえるレシルを心配そうに見つめていた。頭をなで「大丈夫」と伝えれば笑い返すタヒコに、レシルはホッと心をなでおろす。このまま、終わりにしてレシルは机の上に広げていた調合道具を片付けてベットで眠りについた。頭の痛みは、まだ少し残っていたが横になって力を抜けばいつの間にか癒えていった。
そんなレシルは夢を見た。一つの大きな夢を・・・。その夢の中に出てくる数多くの小さな夢・・・・。
レシルは大きな夢を両手に抱え、その中で多くの人の夢が飛び交っていた。大きな夢は暖かく、そして半分は白く光る夢でありもう半分は暗く光る夢だった。モノクロの夢で、小さな夢は多く輝いていた。光輝き暗く淀み、人々の顔も千差万別に笑い苦しんでいた・・・。
「(ここはどこだろう?俺はなんなのだろう?何のために生きているのだろう?)」
レシルは、夢を見るうちに心の中に吸い込まれるように疑問を浮かべ自分に問い始める。そして、その疑問に答えることはなく心は自分の中に消えていった・・・・。
自分の疑問を考えて、かすれゆく意識の中で頬がだんだん熱くなってくる。それは、だんだんと熱を増し痛みに変わっていった。痛みに耐えきれず頭を抱えると、レシルはベットの上で頬を真っ赤に染めており、赤くなった頬からの痛みに大きな声をあげた。
「あぁあぁあぁーーーーーー!!!!!!!」
ベットの上で頬を抑え、声を抑え、もがき苦しむレシル。そんなレシルをジークとバルロはホッとして見つめていたが、同時にこれほど苦しむレシルの姿に悪いことをしたと思っていた。
ジークとバルロは、朝になりいつものように目を覚ましたが、レシルに声をかけても全く起きる気配がなく仕方がなく、旅の支度などを先にしてレシルをギリギリまで寝かせることにしたのだったが、そのギリギリになっても起きることがなかったのだった。
そのため、ジークとバルロはどうしたのかとレシルを無理やり起こそうとしたが起きることなく、ピクリとも動かなかったため、レシルの頬をたたいて無理やり目覚めさせようとしたのだった。
レシルの痛みが引き、痛みの理由を知ったレシルはどうにもできない感情に襲われたらしく、ジークとバルロを一発殴って不機嫌なお顔をしつつも終わりにしたようだった。実のところ、レシルの頬をたたいていたのはジークで、バルロはレシルが目覚めないのを発見して起こそうと、揺さぶっていただけだったのだがまあ、そこは仕方ないだろう、とばっちりのようになってしまったとしても・・・・・・。
「不本意な制裁を受けましたが、レシルが何ともなくてよかったです。」
バルロは、本当に怒っていたのであろう今まで見たことなかった不機嫌な顔をこちらに向けながら話し、ジークはレシルの体を心配しつつ、どうしてこんなことになったのかレシルに質問してくる。が、レシルは「知らん」の一点張り。ジークがこうなってた時は大体ややこしいことになることが分かっているがゆえの回避だ。
「まあいい、とりあえず出発するぞ。宿の人にレシルの朝食用に軽食を用意してもらったから、歩きながら食べろよ。レシルのせいで出発が遅れたんだからな。」
「ああ、それに関しては悪かったけどさ。まだ痛いんだけど。」
レシルは、服を着替えながらジークに文句を言いつつも内心、助かったことを理解していた。あのままもし、意識がなくなってしまったら「目を覚ましただろうか」と考えつつ着替えを終わらせ、タヒコを肩に軽食片手に宿を出る。
「レシル、大丈夫か?なんか変だったら言うんだぞ。」
ジークは、レシルを心配して声をかけますが、レシルは口いっぱいに朝食のサンドイッチをほうばり声を出せなかったので、親指を立てた。ジークは、頬に着いたパン屑をはらうと少し笑って前を向いて歩く。
レシルは、口の中身を飲み込んだ後自分で作った水玉をぱくりと食べて飲み込んだ。
口の中もきれいになって、お腹もいっぱい。タヒコも、満足げにしている。
のんびりと整備された歩きやすい道を進んでいけば、旅の者や商人の馬車がちらほらと見えだす。村から、ピクスへの街道に戻ってきたのだ。人気はまばら、天気は快晴。これならばとレシルは昨日の失敗に気をつけて「精神」を広範囲に広げて発動しようとする。昨日のように、危うくなることがないように自分の周りから少しずつ少しずつ広げていく。
{精神}は、対象となった者の心が読める力であるがその力を広げ多くの者を対象とすることができる。しかし、それはその分情報や感情が頭に流れる事であり、見定めを謝ると昨日のレシルのようになる。そして、感情の混沌に触れることにより自我を失い精神を脅かすことにつながる危険な力であった。
レシルは分からないことも多かったが危険性だけは、昨日や今朝のことを体験したことにより理解していた。
そのため、慎重に行いその対象も人間とだけ条件ずけ発動していた。村から歩いてそれなりの距離を進んできたレシルは自分の使っている「精神」に変な感情が流れ込んできたことに気付いた。急ぐような、怒るような、焦るような、苦しいような・・・・・。
レシルは気になり、気配探知を使うと「精神」の力と相まって今まで以上に広い範囲の気配を感じ取れるようになった。そのおかげで「精神」の有効範囲まではっきりと知ることができたので一石二鳥だった。
「精神」の有効範囲は約10キロほどあることが分かり、その感情の持ち主はすごい速さでこちらに向かってきていることが分かった。
「(この速さだと、馬を使ってる乗り物か。大きさ的に馬車かな?)」
気配や速度から、馬車だと推測したレシルは暴走している可能性を考慮してジークとバルロにこのことを伝えました。レシルが気配でいろんなものを探知できることは知っていた二人はレシルの言葉をもとに、道の端を歩くようにし、馬車が近づいたら道を外れることにした。
だんだんと近づいてきた気配は馬車だとわかり、ジークやバルロにも気配がわかる範囲まで近づいてきていた。
「そろそろ、道を外れるか。」
「そうだな、この分だと暴れはしていないみたいだけど途中で止まる気配はないもんな。」
「早く二人とも、もう来ますよ。」
緩やかな曲がりとなっている上に、起伏がある道なので馬車の姿は見えないが確実に近くまで来ていることはわかっているし速さもほとんど変わらない速度を保っている。バルロが急かし、道を外れて近場の木の傍に行き馬車を待てば、「カタカタカタ」と音が聞こえだし、目の前を馬車がすごい勢いで通り去って行った。
速度にも驚いたが、レシル達は驚きのあまり口を開けて「はぁ!?」と声を出してしまった。
「「「な、なんだ今の!!!???」」」
三人そろって驚き、口をそろえてつぶやきました。
そしてジークもバルロもレシルも、ただただ馬車の通りすぎた道を見つめるだけでした・・・・・・。
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