40 檻
そんなに様子を木陰から見つめるシュシュは、少し驚いていた。自分より少し大きいだけのレシルが、父のように大きなジークに頭を下げさせている光景に、もしかしたら「レシルは、すごい人なのでは」と思わせる。花をくれたり、面白い魔法を使えるレシルのことが今まで以上に気になり、シュシュは勇気を振り絞りレシルに向かって歩いていく。
「ごめんって、許してくれよ。冗談だって。」
今も謝るジークにレシルは、黙って見つめておりジークがチラチラ顔色を窺っているその場にシュシュは少しずつ歩いていく。
レシルとジークも、近づいて来るシュシュに気づきジークを許しさっさとどっかに行かせる。
シュシュは、レシルの近くまで来るともじもじと何かを伝えたそうにしていたのでレシルは、スパテラ片手に言葉を待つ。
「あ・・・あの、、、お花、、、ありがとう・・・・。」
たった一言。シュシュが、勇気を振り絞り出した言葉はレシルにしっかりと聞こえていた。シュシュは、今顔を真っ赤にして元いた木陰から様子をうかがっている。レシル自身、シュシュから話しかけてくれたことにうれしく思ったし、もっと仲良くなれるように何をしようかと内心ウキウキ考えていた。
朝の時間はこのように終わり、レシル達は街に向かって歩き出す。
荷車での移動で、歩いていくよりもペースが上がったのか予定していたよりも早く着きそうであった。ジークとバルロは、相変わらず歩きだ。レシルは、荷台に乗っていて暇だったので瞑想をしていた。シュシュは、もともと父親の隣に座っていたが瞑想をし始め固まったレシルに気が付くと恐る恐るレシルのいる後ろの荷台に移った。
ジークとバルロは、二人で話し込んでおり父親は馬の手綱を握っているため前を向いている。シュシュは、誰も見ていないことを確認するとレシルの横に座り近くから様子をうかがう。そして、レシルに触れようとゆっくりと手を伸ばしました・・・。
「キキッ?」
レシルにもう少しで触れられるところでタヒコがシュシュの前に顔を出す。驚き手を引っ込め、漏れそうになった声を抑える。「気づいてないよね」と、レシルの方を見れば、レシルと目線があってしまった。
慌てて、距離を取ろうと立ち上がるシュシュであったがレシルはシュシュの手をしっかりとつかみ引き止めました。
「ごめんね、いきなり。でも、ちょっと待って。 はい、これ!」
シュシュを引き止め、レシルが渡したのはアジアン風に作った羽飾りであった。
白に黒の線が入った羽をもとに、甲虫の殻で作った枠にガラス球をつけた物でレシルが夜のうちに作った簡素ものだった。
シュシュは、それを受け取るといろんな角度から眺めガラスに反射する光を不思議そうに見た後、我に返ったのか「ありがとう」と今度は前よりもうまくお礼を言って父親の元に戻り自慢していた。
「ごめんね、レシル君。色々気を遣わせちゃって、ありがとう。」
シュシュは、貰った羽飾りを頭に付けでいたが無くてしてしまうかもしれないということで紐をつけ首から下げることにした。
レシル達は、何事もなく順調にノホウに向かって進んでいたが途中で、倒れた木で道が塞がれていた。
このままでは、通ることができないのでジークとバルロが木をどかそうとしますが丸々一本の木は微動だにせず何とかするため、ディグも加勢に向かいます。
シュシュに手綱を任せ木をどかそうと三人で力を合わせます。
「せぇの! ふんーーー!!!!」
少し動かすことができ、さらに力を込めて全力で押します。少しずつ転がし、荷車が通れるくらいまで動かすと三人で互いに感じた達成感に感謝の言葉や労いの言葉をかけつつ荷車に戻ると、シュシュとレシルの姿がありませんでした。
「あれ、どこに行ったんだ?」
「シュシュ、レシル君出発するから出てきなさーい。」
「おかしいですね。二人同時に居なくなるなんて。レシルのことですし、シュシュちゃん一人にさせるとは思えませんし、かと言って隠れる意味もありませんよね・・・・。」
三人は、残された荷車で話し合っています。ただ単にふざけているのではないか、ちょっとその場を離れているだけではないかなど、思いつくことを口に出しながら先に進まず帰ってくることを考えて待っていました。
しかし、昼を過ぎてもレシルとシュシュは戻って来ませんでした。さすがに、これだけ待ってシュシュだけでなくレシルでさえ戻ってこないことにただ事ではない状況に陥っていると考えた三人は、今さらながら辺りを探し出し大声で二人を呼びましたがその声は、広がる森の中に虚しく響くだけであった・・・・。
三人が探している頃、レシルとシュシュは檻の中に閉じ込められていました。
レシル達が入っている檻は、屋根付きの荷車に乗せられており外の様子は良く分かりません。中には、レシル達が入っている檻のほかにも荷物が乗せられており、その荷物に身を任せ寄りかかっている狼の獣人がおりました。狼は、レシル達のことを薄眼を開けて監視していて下手に騒げば怒鳴られたり、棒で叩くとおどしてきます。レシルは、初めこそ抵抗しましたがシュシュが人質に取られ下手に抵抗できませんでした。剣も取り上げられ、今は二人檻の中でおとなしく運ばれている状況でした。
そもそも何があったかと言うと、ジーク達が道にふさいでいた木をどかそうと離れた隙に即効性の眠り薬を気化させたもので、二人を眠らして攫い先に起きたレシルに対しシュシュを人質にし、二人を檻に閉じ込めたのであった。
2人は、この狼の指示に従いおとなしく檻の中でいましたがシュシュは気が付いた時から泣き続けていました。レシルは、そんなシュシュを自分のコートで包むように抱き落ち着かせようと頭を撫でてやります。
誰かと一緒にいるという感覚とレシルの掛ける言葉に、優しいその手がシュシュの悲しみと恐怖をやわらげ今ではレシルの手の中で眠っています。
「大丈夫、俺が何とかしてやるからな。」
「ははははは、ふう、お前ひとりで何ができる。」
狼は、つぶやいたレシルの言葉を嘲笑いレシル達に言葉を紡ぎ続けました。レシルは、それらを耳半分で聞きながらたまに言葉を返して、逃げ出す方法を考えます。
もし、レシルが魔法で檻を壊して逃げ出したら・・・?ダメだ、逃げ出せてもシュシュを連れたままであの狼から逃げられるとは思えない。
狼を倒してから、檻を壊して逃げたら・・・?狼を仲間を呼ばせないほど早く倒すことはできないし、狼に仲間がどれくらいいるか分からない。
シュシュを置いて、ジーク達を呼びに行ったら・・・?呼びに行っている間にシュシュを見失う可能性が高いし、追いつけたとしても人質にされる可能性が高く何より身の安全が確保されないから無理。
レシルは、色んなパターンで自問自答を繰り返し最も確実で安全な方法を考えます。そして、思いついたことが服の中に隠れているタヒコを連絡役として使う事でした。
幸い、荷車の屋根はビニールハウスのように皮を骨組みに貼った物で檻から手を出せば皮に触れることができ、穴をあければタヒコを外に出すことができます。レシルは、狼に背を向け気づかれないように穴をあけていきました。話している狼に、言葉を返しながら慎重に穴をあけタヒコを外に出し、ジーク達を連れてくるように送り出しました。心の中で願いながら・・・。
「(頼むぞ、タヒコ・・・。)」
レシルとタヒコは獣魔契約をしているため、互いにその位置が何となくわかるのでタヒコがジークの元にたどち着ければレシル達の元に案内することはそう大変なことではないでしょう。しかし、これで助かると気を抜くことはできません。
タヒコがジークの元にたどり着くまで、そして戻ってくるまでにどれほどの時間が掛かるか分からないがゆえ助けが来るまでの間は気を抜くわけにはいきません。いざとなれば、容赦なく魔法を使うつもりで構えるレシルであるが、あくまでも最終手段でありシュシュを助けることを一番に考えていた。
タヒコは、走ります。おのが主人のために、仲間の助けを得るために・・・・。
今まで共に過ごしてきた優しいレシルが自分に頼み、今置かれている主人の状況を打開するには自分がやるしかないことを理解して、ひたすらジーク達を探します。
気配を感じ取りながら、自分が持てるすべての力を使ってジーク達を探しました。小さな体で走り回っても効率が悪いと思ったタヒコは、危険を伴うやり方でしたが効率の良い方法を思いつきました。
近くにあった木の一番上まで登りタヒコは、魔法を使いました。風の魔法により、タヒコの体は空高く吹き飛ばされ目まぐるしく回転する視界の中、目を凝らしてジーク達を探しました。自由落下で堕ちてくるとき、レシル達を運ぶ荷車が見えタヒコから少しずつ離れていきます。タヒコは「もしも」と不安に駆られましたが、今なすべきことをしようと木の枝の中をかき分け落ちながら覚悟を決めました。
それから、場所を変えては何度も空に飛びあがり辺りを見渡していきます。何度も繰り返し、タヒコは体力も魔力もあまり残っていない中懸命に探し続け、ついに木によって塞がれていた道を見つけました。
すぐさま地上に降りると、その場所に向かって全速力で走り道に向かいましたがそこにはすでに誰も居ませんでした。
タヒコはもうフラフラな状態で、魔力も多くは残っていませんでした。疲れて倒れそうになりながら、タヒコは収納からレシルが作ったポーションを取り出し飲みました。このポーションはレシルがタヒコにと昔渡したもので、タヒコは大切に持っていた宝物の一つでした。主人から貰った初めての物であり大好きなレシルの思いがこもったポーション。
タヒコは、ポーションを飲みながら涙を流しました。ここまでして戻ってきても、今だジーク達を見つけられず、レシルとの距離は開き続けている。くじけそうになった時、タヒコは飲み干した瓶を見て諦めずに探そうと瓶をしまい匂いで探し始めました。微かに匂う、ジーク達のニオイをタヒコは辿り道をひたすら仲間を探して走るのでした・・・・・。
読んでいただいてありがとうございます。
よければ、また読んでください。




