38 アティカス
レシル達は、あれから詰所には近づいていない。事の顛末が気になってレシルは何度か出向いたりしたが詳しいことは分からなかった。すべてを知っているであろうレーブンはすでにガトークの街を去って行ったらしい。レシルは、結局シュラーシュが兵士を使って良くないことをしていたことしかわからず、三人で決めた通り、すべて心にしまい諦めることにした。
「レシル、準備はできたか?」
「レシル、三人で頑張りましょう。」
レシル達は今、冒険者ランクの昇格試験の準備をしていた。ジーク、レシル、バルロの三人は全員、橙色のプレートであったがその上のランクに昇格するための試験を受けられることとなった。
橙色は、中堅冒険者の色でありこの上の赤色から上位冒険者の扱いとなる。赤色ともなれば、緊急性の高い依頼や難易度の高い依頼の数が爆発的に増える。その分、危険度も報酬も高いがどう依頼を受けるかは冒険者によってまちまちであった。
討伐を中心に活躍するものがあれば、護衛などの守り、採取などのレア素材集めなどなど専門とする分野を持つ者も少なくなく、これは、下位の冒険者たち以上に色濃い物であった。
レシル達は、試験の準備を済ませるとギルドで説明を受けた。説明は、ガトークに来て間もない頃のようにケープがしてくれた。
「おめでとうございます。お三方。それではさっそく説明させていただきます。今回の昇格試験の内容は、アティカス神命連合王国、要するにお隣の国へ行き巫女のお告げの名のもとに告知されます。何か質問は?」
「「「おおあり、だ(です)!!!!!!」」」
三人は、大きな声を上げます。冒険の準備をしろと言うことで魔物の討伐を考えていた三人であったがここまで来て、依頼内容の説明どころかそのまますべて丸投げされたのだ。これは、黙ってなどいられるはずもなく、ケープに迫りより詳しい説明を求めた。
隣の国、「アティカス神命連合王国」は王と言う地位の者を作らずに、近くの小国が集まりできた連合国家であった。住人は主体となる人間のほかに、亜人種とされるエルフや獣人ドワーフのほかにも妖精族などがいるらしい。
レシルは、説明を聞きつつ初めて会うこととなる異種族との交流に興味をそそられていた。
この国は、海洋国家でありながら大地に恵まれ、その周辺に点在する大小の島々から魚が水揚げされ、交易や農業が盛んな非常に豊かな国であり、様々な種族が入り混じるこの国は神の名のもとに信仰心によって争いも少なく反映してきた国である。今回、レシル達が会うこととなった巫女とはこの国をまとめる最高位の神官であり、神の声を届け種族間を取り持つ役目を担っている巫女であった。
「その巫女は人間なのか?てか、信仰心って人以外の種族の連中でもあるのか?」
「はい、巫女の方は人間ですよ。そして、信仰心ですが皆さんもちろんありますよ。もともと、争いが絶えなかった小国同士や部族間の間に入りすべてを丸く収めたのが今最高位の神官となっている巫女なんだそうです。」
「へー、女なんだろ、そいつ?すげーな。」
「はい、国として形はとっていても争いの絶えなかった国内を治めたことに、住民たちはさぞかし感謝しているでしょうね。」
「全くですね。女性のしかも神官の方が争いを治め平和をもたらしたとは。何やら、神秘的なものを感じますね。まさに物語!!」
2人の驚きや、変なテンションは置いておくとして、レシルは考えていた。
それほどまでの力を持つ巫女は、どのような人物なのか?また、その力を自分も手に入れることはできないだろうか?レシルは、強くなることを望む、ひとえに安全で平和に暮らすために・・・。傷つくものを救うために・・・。
ケープは、テーブルに地図を広げ首都である「アティカス」までの道を簡単に説明していく。
首都アティカスに行くには、まず一番近い街の「ククト」か「ノホウ」に向かうのが一番良いとのことであった。
「ククト」は、「ガトーク」と同じ砦の街であり国境沿いに南下して五日ほどいけば行くことができるとのことであった。
「ノホウ」は、「ガトーク」から、六日ほど行ったところにある街で農業が盛んで野菜を含め多くの食材があるとのことだった。
どちらも、首都「アティカス」に行くまでにはもう一つ街を経由しなければいけないのでどちらの道を選んでも相当な時間が掛かることとなる。そのため、首都に行く最短ルートを選び「ノホウ」経由での道を行くこととした。
「ノホウってどんなとこだろうな?俺、楽しみになってきた。」
「そうですね。他国に行くことなんてあまりありませんからね、楽しみです。」
「確かに楽しみだが、思っていたよりも時間が掛かりそうだな。着くまでの金が心配だ。」
浮かれる二人に対して、案外頭を使っているジークはリーダーとしてしっかりと役目を担っていた。ジークは、さっそくどうすべきか考え始める。すると、ケープが案を出してきた。
「行くまでにお金を貯めるのもいいですが、道中で魔物の素材や魔石を集めるのもいいと思いますよ。あとは、足し程度ですがアティカスの常駐依頼を常に受注にすることもできますので、積極的に狩ってお金にすることもできます。まあ、その場合はノルマ数が五十から六十に上がり、規定数に達して一回分となるのであまり多くのお金は望めませんが。」
ジークにとっては、申し訳なさそうに話すケープの話はとてもありがたい物だった。出発したらその依頼を受注してくれるようにすぐに頼み、アティカスに着くまでの金に関しては簡単な依頼をぎりぎりまでこなし集め、道中では魔物を積極的に狩っていき素材と魔石の回収で工面することで決まった。
話も終わり早速、依頼を受けて金を求めて冒険に出発したレシル達であった。
「ジーク、お前もたまにはリーダーぽいことするんだな。見直したぜ。」
「ですね。いつもレシルが先に支持を出すことが多かったですし、ジークもレシルの意見によく従ってましたもんね。」
「うるせえな。俺だってやるときはやるんだよ。それにちゃんと考えてるからな、レシルが先に考えたことよりもいい案を出すから従ってるだけだ。これでも、少しはリーダーとして頑張ろうと思ってるんだからな。」
レシルは、ジークをあまり昔と変わっていないと思っていたがレシルが成長しているようにジークもしっかりと成長していたのだった。レシルの場合、体は一ミリも成長してないけど・・・。
今日の依頼は、夕方ごろには終わり報酬を受け取り旅に備える。明日、アティカスに向かって旅に出ることになる。念のためにとレシルはいつも少しずつ作っていたポーションをジークとバルロに渡す。
今までの依頼で、レシルがポーションの素材を集めなくてもタヒコが勝手に集めてくれていたため薬を毎日作っていたのだった。
三人の準備は万端。アティカス常駐依頼の確認もばっちり済ませ、レシル達は昇格試験のためにアティカス神命連合王国の首都を目指して出発した。
連合王国に行くために、東門に向かって通りを進んでいけばエルバが見送りに来ていてくれた。
「やあ、みんな久しぶり。元気そうで何よりだね。」
「エルバ、久しぶり。そっちも元気そうで何よりだ。でも、どうしたんだいきなり?」
「私はいつでもいきなり来るだろ。でも今日は、三人の見送りに来たんだよ。仲良くなった知人が、街を出て行ってしまうからね~、挨拶の一つくらいかけもするさ。」
「出ていくって・・・。俺たちは、昇格試験のためにアティカスまで行くだけだぞ。どうせ、用が済めば戻ってくる。」
「あら、せっかくの見送りをそんな態度でいいの? 全く、レシル、気をつけてね。あなたは強いから、どうにでもなると思うけど、無理だけはしないようにね。」
レシルを抱きしめ耳元で囁くようにエルバは言葉を贈り、「レシルをしっかり守るように」とエルバは二人に釘を刺して三人を見送った。
三人は、東門へ行き二重の壁を越えてガトークの外に出た。東門の外は森の中であった。
ここから、しばらく進むと「ザークス聖王国」の土地は終わり連合王国に入る。
これから、レシル達は「ノホウ」にまず六日で行き二日過ごした後、次の街「ピクス」まで七日で行き二日した後、「アティカス」に三日で着く予定であり、計20日の長い旅になる。
「ほらレシル、国境の柵が見えてきたぞ。」
友好国である、連合王国とは国境の境には国境を示すための簡素な柵が取り付けられているだけで、両国ともに国境から百メートルほどは不可侵の領域を作ることで安定化させ互いの信頼の証としていた。
そして、ちょうど柵の並ぶ国境でレシル達は一列に並んだ。
「行くぞ、二人とも。せぇーの!」
三人は、レシルの掛け声の元ジャンプし国境を超えた。
「連合王国に、入ったぞー!!!」
「そんなに喜ぶことか?」
「まあまあ、レシルが喜んでいるんだしいいじゃないですか。」
少し、訳の分かっていない二人を余所に喜ぶレシル。ジークは、バルロに言われるがまま「確かに」と思いそのまま歩き始め最初の目的地「ノホウ」に向かうのであった・・・・・。
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