37 レーブン
机の上に最後に出された紙には、シュラーシュとつながりがあるという遺族と商人たちが行った取引の帳簿とその記録であった。そして、シュラーシュ本人の名前こそなかったがそれに関わっていた者たちが書かれたリストがあった。
ギッシュは、シュラーシュの名前がないことで証拠にはならないとレーブンに言ったが、それに関わる証拠の品はすでに手に入れており、解析中であるとのことであった。
「ギッシュ。お前が信じたくないと言うのはわかるが、今解析している物がシュラーシュと関係あると確定すればシュラーシュはもう言い逃れはできなくなる。お前が何を信じるかは知らないが手出しはしないでもらいたい。事のすべてが終わるまで・・・・。」
ギッシュは、もう黙るしかなかった。ギッシュが、真面目であり悪事に対して絶対の正義を持っていると
考えたからこそレーブンはこの話をした。最悪、自分の読み違いだったとしてもこの部屋に閉じ込めておくことも考えて準備もしてある、後はギッシュの意思次第でレーブンの次にとる行動が変わる・・・。
「わかった。私は、これ以上下手に動かないこととする。しかし、どちらの側に着くことはしない。大隊長から命が下ればそれに従わせてもらう。しかし、ここでのことは他言しないことをここに強く誓おう。」
レーブンに言ったことはギッシュの出来る最大の譲歩であり、自分が取れる最も中立な立ち位置であり両者のことを考え迷った末に出した答えであった。
レーブンは、ギッシュの誓いを立てたこの言葉を信じ部屋に張っていた結界を解いた。
ギッシュの表情は、緊張しているような硬い物となってしまったがレーブンは仕方ないと考え何も言わなかった。いつも、明るく気さくなギッシュは兵士たちからの信頼が厚くきっとギッシュの変化に気づく者も居るだろう。しかし、そんなことを言ってはいられない。解析の結果が出次第、シュラーシュを捕縛しなければとレーブンは心の中でそう思うのであった。
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レシル達は、レーブンから怒鳴られた一日目から今日で二日経ち三日目に突入していた。
ジークのしごきにも兵士たちは慣れ始めていたが、やはり三日目と言うこともあり疲れの色が見えてていた。
今日に関しては、ジークによる訓練のほかにレシルによる魔法攻撃を想定しての訓練を予定していた。
昼食をはさみ、レシルの訓練が始まった。レシルは、タヒコと共に風魔法を使い剣を持つ兵士たちに向かって風の刃を飛ばし兵士たちは、剣ではじいたりして見えない刃を懸命にかわしていきます。
飛んでくる魔法の感覚に兵士たちが慣れはじめ、大体の兵士がかわすことに慣れてきた頃火力の高い魔法に切り替え放っていく。使う魔法は、火属性:火球であった。魔法としては一般的な火球は、威力、射程ともに優秀な魔法で攻撃魔法として有名だがその威力は術者の能力に付随する。レシルは、下手に撃てば兵士の命を奪ってしまうため手加減をして数を放ちだす。
兵士たちめがけ、空中に展開された魔方陣から何十発もの火球が放たれ、風の刃になれていた兵士たちも顔色を変えて逃げまどう。
先ほどまで、感覚の研ぎ澄まされていた兵士たちは魔法が形として目に見えるようになったため、視覚に頼ってしまい押し寄せる火球をよけることに専念してしまった。
レシルは、高みから魔法を放ちその魔法から逃げまどう兵士たちを見て高揚感を得ていた。
「レシル、凄まじいですね。私は、あんなとこで生き残れる自信が出ないです。」
「なに言ってんだ。レシルの本気はこんなもんじゃないんだぜ。俺は、あいつとガチでの戦いはやりたくねぇ。」
ジークの言葉に、バルロはこれ以上なのかと少々レシルの認識を変えるのであった。
レシルは、ジーク達が話し込んでいる今も火球を放ち続け、約10分後に撃つのをやめた。レシルの砲撃がやんだことにほっとした兵士たちであったが、レシルの魔法は続くのであった。
疲れ膝をつき呼吸を整える兵士たちの足元が、突然動き出し波を作り出した。波と言ってもさざ波程度であるため驚く程度であったが、波は火球で焼かれ、穿たれた運動場を瞬く間に元に戻した。驚く兵士たちを放っておき、レシルの訓練は終了した。
「お疲れ。レシル、ノリノリだったなぁ。」
「久しぶりに楽しかったよ。全力で打てなかったから、少し物足りないけどな。ははは」
ジークは、レシルがその実力を以前より伸ばしさらなる高見に向かっていることを再認識するのであった。
「コンコン」レーブンの部屋をノックする音がした後、扉を開けずにどこからか現れた黒い服で身を包んだ人物は封筒を手渡し一瞬のうちに消えていった。
封筒には、封印がほどこされておりそれを解きレーブンは中身を確認した。内容は、レーブンが待ち望んでいた解析結果であり、書かれていたのは望んでいた物だった。
レーブンはすぐさま、人を集めシュラーシュ総隊長の捕縛のため行動を開始した。詰所の出入り口をすべて封鎖し、人の通行を禁じ、総隊長室を包囲した後扉を勢い良く開け、中に押し入った。
「シュラーシュ総隊長、いえ、リーブ・シュラーシュ。あなたを、国家反逆罪及び横領並びに軍事物資の横流しなどを含めてあなたを捕縛します。」
「いきなり入ってきたと思えば、その言いぐさかね。そのようなことは、身に覚えが全くないんだが。何かの間違いではないのかな?」
「言い逃れをされても意味はありませんよ。あなたの犯してきたこれらのことの証拠は、すでに確保しています。 先ほど、横流しに関わっていたと思われる貴族、商人たちをすべてとらえたと連絡がありました。その証拠も屋敷からこれから見つかるでしょう。諦めなさい。」
シュラーシュは、座っていた席を立ちレーブンに向き合う。その顔はいたって普通の顔であり、自然な動きであったが、その手には隠すように剣が握られていた。
レーブンに近づいたシュラーシュは、勢いなどつけるそぶりを見せずに懐に入り剣を振るったが最大限の警戒をしていたレーブンはその初撃を交わすことに成功した。
周りでレーブンを囲んでいた兵士たちは、目の前で起こったことに動けずレーブンが剣をかわしたところで気が付き動き出す。シュラーシュは、剣をさらに動かし兵士たちを含めて切ろうと振り切るが、兵士から奪った剣でレーブンがその剣をはじき、つばぜり合いが始まる。
「私の初手を交わすとは、やはり只者ではなかったな。お前が何者なのか是非聞きたいものだ。」
「ふん、普段は名乗らないが仮にも私の上司ですから名乗りましょうか、私はザークス聖王国暗部所属人事担当レーブン。」
「なるほど、暗部の人間だったのか。私が後手に回るわけだ。しかし、まだまだ甘いな、私を捕えたければさっさと、殺せばよかったのに・・・・。」
レーブンの剣を、はじき距離を取ったシュラーシュは、持っていた剣を床に突き立てた。すると、部屋全体に強い光が放たれ光が収まるとシュラーシュは外のテラスからこちらを見ていた。
すかさず、兵士たちがシュラーシュを捕えようとテラスに向かうが見えない壁に阻まれ外に出ることができなかった。そう、シュラーシュが使ったこれは、レーブンがギッシュと会話するときに用いた遮断結界であった。
「爪が、甘いのですね、ザークス聖王国暗部所属人事担当レーブン。はははははは」
シュラーシュは、そのままテラスから逃走し逃げられてしまった。
部屋に施された結界は魔力が切れ自然に消滅したがすでにシュラーシュは逃げた後、結果として今回駐屯兵たちを巻き込んで行われていたもろもろの悪事はその一部関係者の捕縛と関わった兵士の処罰で幕を閉じた。
黒幕であったシュラーシュは、すぐさま国全体で指名手配されリーブ家は取り潰しとなり、詰所の総隊長はギッシュが引き継ぐこととなったが心身の不調から他の者がいったん引き継ぎ、詰所にたまっていた膿はすべて排除された。
レーブンは、この後の事故処理が終了し次第首都に帰ることが決まっており詰所の上官たちが抜けた穴を埋めることにしばらくの間騒がしい日々が続くのであった。
レシル達は、驚いていた。自分たちの訓練の総仕上げとして、兵士たちをしごいていると門が閉ざされ、詰所内が慌ただしくなり始めると、変な緊張感んに包まれた。かまわずジークは訓練を続ければ突然建物の一室、シュラーシュの部屋から強い光がもれだし、シュラーシュ本人をレシルが見つけるとあっという間にどこかに行ってしまった。
ジークは、シュラーシュの姿は見ていないため「何かあったのか」程度にしか気にせず、バルロは変わらず昼食の準備で忙しくしていたため気づいていなかったがレシルは、ただ事ではないと思っていた。
訓練最終日の今日は、早めに切り上げることにして依頼は達成された。
三人ギルドに向かおうと、詰所を後にしたがレシルは「忘れ物をした」と戻ってきていた。
レシルは、実のところ忘れ物などしておらず昼間のことが気になり戻ってきていたのだった。
「レーブンさん、シュラーシュさんに何かあったんですか?」
レシルの質問に、レーブンは「守秘義務があるため答えられない」と言い教えてはもらえなかった。しかし、諦めずに聞くと、耳打ちで「シュラーシュのことは忘れろ、そして、ここでのことは他言するな。」とだけ言われた・・・・。
レシル達が、詰所で起こった出来事の真相を知ることになるのはそれから、三日の後だった。
あくまでも、噂話として広がっているこの話は信憑性に欠ける物であったがレシル達三人にはそのうわさ話が指し示す真実が朧気ながら見えるのであった。
レシルは、最後にレーブンに言われたことを二人にも伝え今回の出来事はすべてその心の内にしまい込むことになったのであった・・・・・・。
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