35 詰所
詰所では、事務専門の職員たちが仕事をしていたがレシル達の前を通る者たちは一度目見てくるので、三人は少々以居心地が悪かった。
呼びに行っていた受付が戻ると、仕事の都合でもう少し掛かるということで奥の待合室に通された。
簡素な作りでテーブルとイス、観葉植物が置かれているのみの部屋で三人は待つこととなった。時間にして10分ほど待った後にギッシュは姿を現した。
「すまない、呼び出しておいて待たせる形になってしまって。」
ギッシュは、容姿はともかくとして礼儀をしっかりと分かっている紳士的な人間だとジークは思い特に意に返すことなく謝罪を受け入れ、今回呼ばれたことに関して話を求めた。
「すまないな、今日来てもらったのは昨日聞いた酒場での話をまとめ報告書を作成するためとレシル君に大隊長が興味を持ってしまってな。是非に会いたいとおっしゃられたのだ。昨日の時点では、報告書作成のみのつもりだったのだがどこで聞いたのか任されていた私のところに時間を作るように命が来てな・・・。重ね重ねになってしまうが、どうか時間をいただきたい。」
大のおっさんが頭を下げて、頼み込んでくればさすがに申し訳なさが込み上げてくる。レシルは、ギッシュが申し訳なさそうに頼み込む姿に持っている知識でいうところの中間管理職の悩みとして理解し、さっそく報告書作成から協力することにした。
報告書の作成と言っても、昨日話したことのまとめやさらに細かく書く際に聞いたりするだけのため時間にしては長くはかからなかった。
書類の作成も終わり、事務の人に提出した後ギッシュは大隊長に確認を入れ会うこととなった。
大隊長の部屋は、詰所の三階、中央階段の横の部屋でいつでも報告が素早く受けられるようになっていた。ギッシュによってノックされ中に入れば大きなテーブルに高そうなソファー、壁際には調度品が並びさながら校長室のようであった。
ギッシュが先にはなし、レシル達の紹介が始まる。ギッシュの体に隠れていた大隊長の顔は、銀に近い金髪の髪にはウェーブが掛かり、貴族のイメージが似合いそうな顔立ちだったがその目は力強く勇ましい物であった。
「初めまして、急な呼びだしを受けてくださって感謝する。私は、この街の駐屯兵をまとめている総隊長の「リーブ・シュラーシュ」と言う。これから、良き縁を結べたらと考えている。」
「俺たちは冒険者で、自分がジーク。こっちの小さいのがレシル。その隣が、バルロだ。今回のことについては、そんな気にしないでくれ。俺たちは好きで来たようなもんだからな。」
簡単な自己紹介が終わり、総隊長の目はジークからレシルに向かう。その目線は女性が普段レシルに向ける物とは違い品定めをしているような鋭い目線で、どうにも耐えられなくなったレシルは何とかしようと話をし出す。
「あの、ギッシュさんは先ほど大隊長に会いに行くと言ってましたけど、シュラーシュさんが大隊長でいいん、です・・か?」
「あ、ああ。またか、ギッシュ。いい加減気をつけてくれ、私は今は総隊長だぞ。」
「ははは、すいません。どうにも私には、総隊長よりも大隊長と言う印象が強いようで。はははは」
「はあ。まあ簡単に言うとだな。ギッシュと私は昔、大隊長と隊長として任についていたのだがその癖が抜けていないようでな。今でこそ、総隊長と言う地位に就いているのだがこいつは今でも間違えるのだ。全く、早く直して欲しいものだ。」
ため息交じりの話は終わり、レシルはシュラーシュの目から逃れることに成功する。そして、雰囲気も話しやすいものとなったところでバルロが今回シュラーシュに突然呼び出された理由を聞いた。
呼び出された目的を、簡単にいえばそれ程までに腕の立つ子供ならば早いうちにスカウトしておこうと言う事らしく、初めこそレシルのみをスカウトするつもりだったようだが一緒に来た二人も見て気が変わり、できれば三人とも兵士にならないかと誘われてしまった。
「バルロ、お前は冒険者辞めて兵士とか騎士になってもいいんじゃないのか~?カッコいいじゃないか、姫を救い出す騎~士~。」
「そんなこと言って!私は騎士ではなくおとぎ話に出てくるような、勇者のような冒険をしたいから家を出たんですよ。なんでわざわざ、そんなつまらなそうなことしなければならないのですか。」
「おい、それは言いすぎだぞ。さすがにその仕事を全力でやっている二人に失礼だと思うが・・・・。」
そう言われた、ギッシュの顔は少々引きつり気味でシュラーシュは、笑いをこらえクスクスとしている。
確かに、つまらない職だと笑いつつもシュラーシュは、誇りある仕事であり民を守る仕事であり、国をを守る仕事場と続け真顔に戻った。
こんな話をしたのがシュラーシュさんでよかったとレシルは内心思っていた。もしも、この仕事にプライドや誇りをもって準じている人だったら怒り出して一悶着起こっていたかもしれなかったとホッとした。
「やれやれ、勧誘は断られてしまったし諦めるしかないわね。」
「そうですな。今回はご縁に恵まれなかったようですがまた機会は訪れましょうぞ。」
2人がそんな会話をしているとドアをノックする音が聞こえ、中にギッシュと同じ服装をした細身の男が入ってきた。男は、目つきが鋭く前髪を上げ、ワックスできっちりと固めているような髪型であったがどこか冷たい物をレシルは感じていた。
「レーブンか。どうした。」
「こちらに報告にあった子供が来ているとのことでしたので、私も参加させていただこうかと思いましてこちらに来ました。私も同席させていただけませんか。」
「うむ。そうだな兵士の上官であるお前を刺し押して話を済ませようとしてしまっていたな。すまん許せ。」
「いえ、部下の責任を鑑みての対処。感謝いたします。で、今どのような結論に?」
突然入ってきて、シュラーシュと話を進めているこの男「レーブン」はレシルと揉めた兵士の隊の隊長で、ギッシュにレシルを探すように頼んだ張本人である。そして、今もレシルを下に見るように冷たい目線で見つめている人物だ。
「今回の件については、こちらの勘違いが引き金となっているため、特に何か処置をする必要は無しと判断した。そして、これらの件については周辺の聞き込みや、兵士自身の身辺調査も済ませすべてを総じて判断したので覆すつもりはない!以上だ。」
「・・・ぐっ。わかりました。 すまなかったな子供。私の部下が迷惑をかけた、以後このようなことはないように準ずるつもりだ。どうか謝罪を受け入れてほしい。」
「は、はい・・・。」
レーブンは、謝罪が終わると敬礼をしそそくさと部屋を出て行ってしまった。レシルは、冷たい目線で終始見つめられその雰囲気とは似つかわしくない行動にうまく反応できず、挙動不審のままだった。
「なんだったんだ、あいつ?」
「さあ、わかりません。きっと気難しい方なのでしょう。」
「すまないな。あいつは、仕事はできるし実力もある奴なんだが少々見栄っ張りと言うか、プライドが高くてな・・・。ははは・・・。」
シュラーシュは、乾いた笑いをして話を変えるとレシル達は解放され宿に帰っていった。
「いいのですか?レーブンのことは。」
「確かに、問題をもみ消そうとするやつのやり方には問題がないとは言えないが、仕事態度はいたって真面目で奴自身には黒い噂はあっても証拠がないからな・・・。どのように対処するとしても、根回しをしてからでなければ。」
「そうですな、とりあえず彼ら三人とレーブンにしばらく監視をつけようと思います。」
シュラーシュは、静かにうなずき同意する。ギッシュは、準備のため部屋を出ていきシュラーシュは一人部屋の中で思いにふける。
自分が預かる兵士たちの中にいる愚かな考えを持つ者たちのことをどうした良いのか、もし排除するとして逃がさないように手を回さなければと・・・。
レシル達を巻き込みめぐってきた、愚か者たちをあぶりだすチャンス・・・。この機会を逃せば次めぐってくるか分からぬ状況にシュラーシュは一人重く考えるのであった。
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「くそ!この後どうする。」
廊下を足早に進みながら爪を噛んでいるのは、先ほど部屋を出ていったレーブンであった。
レーブンは、今回の件で自分の部隊の兵士たちがしでかした些細ないざこざにをもみ消そうとはじめ考えていたが思いのほか大ごとになってしまい、挙句の果てにはやんわりと終わらせようとしていたが総隊長の知る所となってしまったため焦っていた。
完璧を重んじる彼は、些細なことでも見過ごせない。しかし起こってしまったのならもみ消せばいいと言う考え方をする人物であった。
「とりあえず、どうすることもできなくなってしまった以上下手に動くのは愚策。別の手立てを考えなければ。」
気持ちを切り替え、レーブンは何事もなったかのように歩き出す。次の策略を考えながら・・・・。
レシル達は、詰所を後にし宿に帰る前にギルドに向かっていた。今日はもう、冒険に出るつもりはないが明日に備えて依頼を探すことにしたのだ。
ギルドに着き、いつものように依頼ボードを眺めていると受付のラナから呼ばれた。
「ジークさんたちに、先ほど名指しの依頼が出されましたのでお呼びしました。依頼内容は、「兵士の訓練の手伝い」と書かれてますね、依頼主は、ギッシュと言う人みたいです。どうされ・・・。」
「「「ギッシュさん!?」」」
三人は驚き、思わず声を上げてしまった。先ほどまで、詰所で顔を合わせ話していたのにギルドに着くとその人から依頼が出されていたら誰でも驚くだろう。
レシルは、知り合って間もないこと、先ほど話していたのにこの話が出なかったことを考慮して推測を立てた。少なくとも、さっきまではこの依頼に関することは決まっていなかったと仮定するとレシル達と別れてからこの依頼は出されたことになる。だとすると・・・・。
レシルは、この依頼にきな臭さを感じつつも会って本人に聞こうと考えジークに受けるように言おうとしたが、すでに受注は終わっていた。
「どうした?レシル。」
「あ、いや。何でもない。(まあ、いいんだけどね。もともと、受けるように言うつもりだったし・・・。)」
そんな風に、いじけるレシルを密かに見て笑うバルロ。
この後、レシル達は宿に帰って明日に備えるのであった・・・・・。
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