32 亀裂
レシルは、仲間二人を部屋に置き去りにして昼下がりの町を歩いていた。
あてもなく歩き、広場の噴水に腰掛けタヒコをなでる。
「・・・・・・・・・。」
人通りも多い広場のしかも、目立つ噴水で落ち込む幼い子供がいれば否が応でも行きかう者たちの目に付き心配そうに様子をうかがう者さえいた。
「坊や。どうしたんだい?こんなところで。」
レシルに話かけてきたのは、広場で露店を開いていたおばさんであった。彼女は、レシルの様子を見ていた者たちの一人で人形のように噴水に座ってから手だけ動かす姿に声をかけたのだ。
話しかけられたレシルは、「大丈夫です」と返したがそんなやり取りをしている間に他に気になって見ていた者たちが「どうしたの」と野次馬のように集まりだし、レシルは五人ほどの主婦陣に囲まれてしまった。
「ほんと、大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます・・・。」
「「「もう、そうなこと言って。/ そうよ、大丈夫そうな顔じゃないよ。/ 何かあったんだろ?話してごらん。」」」
取り囲む主婦人たちに、事情を聞かれていると追いかけてきたジークがレシルを見つけ声を上げた。
主婦陣は、駆け寄るジークのため道を開け見守る。
「レシル!本当にごめん。お前のことを何も考えていなかった。心配して見舞いに来てくれたのに、不謹慎なことをしてお前の信頼に傷をつけたと思っている。」
「・・・・・・・。」
「どうか許してくれ。これからもお前とは仲間でいたいと思ってるんだ。あ、そうだ今度はお前も一緒に楽しもうぜ!」
「!!!!!!!」
「ざけんな!!!俺はお前に嫉妬したわけでも、羨ましかったわけじゃねえし、謝罪なんていらねえよ!お前がどこで何しようと知ったこっちゃねぇ!」
怒りのままに叫ぶレシルの声は、広場に満ちた賑わいの音の中でも響き皆一様に静間に返った。
レシルが叫び終わると、そのままジークの元を離れようと主婦陣を抜けて歩き出した。
「ちょっとあんた。ボケっとしてないで弟さん早く追いかけな! 早く!!!」
何を勘違いしたのか、主婦陣に喧嘩した兄弟と思われたようで追い立てられながらレシルを追いかけレシルの手を掴み足を止めさせる。
ゆっくりとこっちを向くレシルだったがその顔は酷く嫌そうなものであったが、手を離さないようにしっかりと握った。
「タヒコ。」
レシルの掛け声で、肩にいたタヒコはジークに顔に向かって飛び掛かり爪を立て引っ掻くが、ジークはそれでも痛みに耐え手を握ったままであった。
「いたたた。レシル、頼むから少し話し合うじ・・・・。」
「痛てえんだよ!さっさと放しやがれ。」
話し終わる前に、レシルによってジークの手は払われ次の瞬間には空を眺めていた。
レシルは、ジークの手を払った後そのまま足払いをしてひっくり返したのだ。
「いいか、ジーク。俺はとりあえず頭を冷やそうと思う。だからお前は、着いて来なくていいから、ほっといてくれ。」
寝転ぶジークを見下ろす形に怒りの満ちた淡々とした声で話し終わると、レシルは広場を抜けどっこかに行ってしまった。
あまりに取り付く島の無い対応に、ジークは固まり周りにいた者たちにも、緊張の色が見えた。
放置されたジークを余所に、広場は何事もなかったかのように賑わいだし先ほど集まっていた主婦たちもいつの間にか消え、取り残されたジークは渋々と宿に帰るのであった。そんなジークを広場の一部始終を見ていた者たちは遠くから見送る事しかできなかった。
レシルは、ジークと押し問答を繰り広げた後また、あてもなく街を歩いていた。
脇を見ればおしゃれなお店で買い物をする者や、観光で訪れたであろうテンションの高い者、建物の陰にはゴミが積まれ、孤児の姿が見えた。
人が行きかう賑やかな道の真ん中で、一人真上を見上げて頭と心の整理をする。目をつむり己が気の向くまま道を進み気分が少し晴れ始めると、道沿いに開けたカウンターでお酒が飲める酒場が目に入ってきた。
「店員さん、お酒ください。」
レシルは、普段飲むことのない酒を自ら頼んだが子供には出せんと言われ、ギルドプレートを出し年齢確認を済ませ酒を受け取った。
ギルドプレートには、髪の毛と血を混ぜ込み作られがるがプレート自体にもいつ冒険者に登録したのか、どので発行されたのか名前、歳など身分を証明する情報がしっかり書かれているためこのような場合では、有効な手段となる。
レシルは、酒を受け取りとりあえず一杯飲んだがあまり口に合わないのかうまいとは感じなかったので、他の酒を頼み直し飲みだした。
今度は口にあったのか、すでに五杯目に突入したところでちょっとした事件が起こった。
「なんだ小僧。子供のくせに酒なんて飲んでるのか?」
レシルに話しかけてきたのはガラの悪そうな兵士の恰好をした三人組の連中だった。
やっと今までの気分が何とか収まりだしたところで現れた連中に多少イラッとしたが構わず飲み続けようと酒に手をかけるが、話しかけてきたリーダーと思われる奴が酒を取り上げ飲み干した。
「子供には、こいつはもったいないな~。だから飲んでやら~な。ははははは」
レシルの収まりかけていた怒りはこの者たちの悪行によって掘り起こされ、レシルはすでに飲み終わり並べられていたジョッキを掴むと高笑いしている男に顔面から叩きつけた。
ジョッキは粉々に砕けてしまったが男の頭は割れなかった。それどころか、怒りの篭った笑みを浮かべながらレシルをつまみ上げ道に放り投げると「お仕置き」と称しながらいたぶろうと三人でレシルを囲み襲い掛かってきた。レシルは、投げられたがしっかりと着地し三人の行動にしっかりと対応した。
「炎水玉」
レシルは、自分の周りに炎水玉を筒状に作り出し三方向から飛び掛かってきた男たちを迎え撃った。当然のことながら、炎水玉に飛び込んだ三人は手や顔にやけどを負い苦しみだした。 辺りに火をまき散らさないように制御した辺りを考えるとレシルは炎水玉を自由自在に操れるようになったのだろう。やけどの程度まで手加減されている。火傷を負った兵士たちは、他の呼ばれた兵士たちによって連れていかれた。
「全く。この程度の相手じゃ、この怒りをぶつけられねえじゃねえか。」
「レシル!?」
そんな騒ぎの中現れたのは、バルロであった。
バルロは、ジークと二手に分かれてレシルを探していたのだが広場でのことを聞き、ジークと合流し後広場であったことやこれからの対応を話し合いレシルを今日のところは放っておくことにしたらしい。
今は、買い出しのために街を歩いている途中で騒ぎが起こっていたためたまたまここに来ただけであったが、レシルが即座に炎水玉で囲み現在酒場で捕まっている。
レシルは酒を飲みつつ愚痴をこぼしていた。主にジークのことが多く、ただ聞かされ相槌を打つだけのバルロは、ここでなぜあそこまで怒ったのか聞いてみることにした。
「 レシル。さっきは何でそんな怒ってたんですか?」
レシルは答えようと思ったがその感情を言葉にすることができなかった。正直に言葉にできない事を伝えあの時に感じた感覚を代わりに言葉にして伝え始める。あの時心の中に生まれた、もやもやとした感情。そして、あくまでも繁殖行為であり子孫繁栄のために必要なことであると理解していてもあの時あふれ出した嫌悪感は抑えられなかった。
今でこそ思い返せばすべて普通のことなのだ、自分が少し異常なほどに反応しているだけだと頭の中で考えはじめ何がそんなに嫌だったのかよく分からないでいた。
「お隣、座ってもよろしいかしら?」
突然話しかけられ振り向くと、白いローブを着た赤色の髪を左右に縛り不思議な雰囲気を纏った女性がそこにいた。彼女は、レシルが許すと隣の席に座り店員に果実水を頼んでいた。レシルは構わずバルロと話していたが、彼女はその後もこちらの様子をうかがっているようでチラチラと見てきていたためこちらからアプローチをかけてみることにした。
「あの、何か御用ですか?」
「ああ、ごめんなさい。君のような存在は珍しいからね、少し観察させてもらっていたの。気を害したのならごめんなさい。」
「レシルのような存在?」
バルロは、彼女の言葉に食いつき彼女に詳しい話を聞き始めてしまった。
彼女の名前は、「エルバ」見かけによらず年を取っているらしく神殿に昔使える身であったらしい。
エルバの話曰、レシルは神殿で感じていた神聖な雰囲気を纏っていて彼女の経験からして神やそれに近い存在と会ったことがある者か何らかの加護を受けた存在だと判断し気になり接触したようだ。
酒をかなり飲んでいたレシルであったが、彼女の話を聞くにつれて酔いはどんどんさめて行ってしまった。
彼女は、レシルの体を同意を貰ってから触りより深く調べていき彼女はなにかを感じ取ったようだったが、分かったことは話してくれなかった。
エルバは、その後は話を変えレシル達とたわいのない話から昔ばなしまで話し合いレシルの機嫌も、いつも通りに戻っていた。
「心も落ち着いたみたいね。それじゃあ、私は行くわね。」
彼女は、レシルが落ち着きを取り戻したと判断すると別れる前にバルロを連れて少し離れ二人だけで話し込んでいた。
「バルロ、レシルが不安定にならないように気を付けなさい。あの子に宿っている物はとんでもない物よ。もしも、いえ、私の感じた最悪が杞憂に終わればいいのだけど。とにかく、レシルにあまり負担をかけない事いいわね!」
「またね、レシルがこれからも健やかに歳を重ねますように。」
エルバはそう言うと、バルロの話を聞かずレシルに一度抱きしめた後去って行った。
エルバにバルロは聞きたいことがまだあったが、もう行ってしまったので仕方がなくエルバの言っていたことが気になるがここ最近のレシルの変化に不安を感じ、とりあえず助言に従い行動しようとバルロは思った・・・・。
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