7話 誤解。
認めよう。
ユカさんとあの男と一緒に過ごした時間はとても心地のよいものだった。
あの2人の傍こそが「私が私でいられる場所」だ。
ユカさんもあの男と一緒になりたいと思っている。
そして私もそんな2人の傍にいたいと思っている。
だがここで問題が残っている。
「同行者の女性」だ。
あの親しげな様子が頭に浮かぶとモヤモヤする。
少し前の私ならきっと何も感じなかっただろう。
夕日の鮮やかなオレンジの光が店内に入り込んでいる。
『今日はお客さん少ないね。もう今日は閉めちゃおうか?』
私の前でユカさんは呟きながら腕を組んでいる。
コツコツという音が店のドアに近づいて来ていることがわかった。
『お客さんかも!』
そう言って駆け足で彼女はドアに向かい出迎える体勢をとる。
『いらっしゃいませ。…あなたはこの前の…』
『こんにちは。この前はどうも』
同行者の女性が1人で店にやって来た。
赤いヒールでコツコツと音をたてて私の前までやって来た。
緊張する。
『今日、ケイスケは来てないの?』
『今日は来ていませんが…』
重い空気が店内を包む。
『帰りが遅いからここだと思ったんだけど』
『…あの、ケイスケさんと一緒に住んでいるんですか?』
ユカさんは身を縮めて疑問を投げ掛けた。
『なに店員が客の個人情報を聞き出そうとしてるの』
その一言は、重く冷たい声でユカさんに放たれた。
蛇に睨まれた蛙の様な条件。
この現状を打破することは不可能だと諦めたかけた時、同行者の女性はまたも重く冷たい声でユカさんに問いかけた。
『ケイスケのこと好きなの?』
ストレートな問いかけ。
『好きです。私はケイスケさんのことを想っています』
ユカさんの顔は険しく目は尖っていたが、どこか慈愛の心を感じる。
『…ふっ、はっはは』
同行者の女性の大きな笑い声は、重い空気を一気に吹き飛ばした。
驚くユカさんと驚く私。
状況が飲み込めない。現状の打破に成功したのか?
『いや、ごめんなさい!あなたいくつ?』
『22歳ですけど…』
『やっぱり年下だ。ケイスケと似た感じがするから何となくそうじゃないかなと思ってた』
同行者の女性はお腹を抱えてそう言った。
『年上なんですか?』
『私は25歳。あなたはケイスケと一緒で可愛いわよ』
『どっ、どういうことですか?』
『あの子も、意地悪されたらさっきのあなた見たいな可愛い顔をするのよ』
もしかしてこの女性は良い人なのか?
気さくな感じが伝わってくる。
『もしかして私のこと恋人か何かだと思っているでしょ?』
『…違うんですか?』
『やっぱり!この前に来た時も後ろから凄い視線を感じるから怖かったわ』
『ごごごめんなさい!』
『安心して。私はケイスケの彼女じゃない。姉よ』
まさかの正体。
ユカさんと私は目が点になった。
『ケイスケの大学が私の家から近いから一緒に住んでいるだけよ。ちなみにあの子も22歳よ』
『…良かった。てっきり彼女さんかと』
『ごめんね。意地悪して。でもあなた可愛いから。改めてケイスケの姉のマキです』
『よろしくお願いします。マキさん』
『別に固くならなくてもいいわよ』
『はい!お姉さん!』
『あら?気が早いわね』
『///』
急展開についていけていないのは、私だけだろうか。
しかし、話して見ればとても「頼りになる女性」という印象が私の中に植え付けられる。
『ねぇ…ユカちゃん。今日、ケイスケに告白してみようか』
『えっ///』
口を開け顔を赤くして固まるユカさん。
あの男を想い、ドキドキするユカさんを置いて行くように夕日が隠れていく。
『どうする?ユカちゃん』
私達が思っている以上に、恋は発展を向かえていく。
ユカさんは告白するのだろうか。
ユカさんは右手を自分の胸に当てると開けたままの口を動かし始めた…
【登場人物】
私 →他国からやって来た。硬い体を持っている。
ユカさん→22歳の店員、着痩せするタイプ。
あの男 →ケイスケ、22歳大学生
同行者の女性→マキ、ケイスケの姉。