6話 優しく懐かしい想い。
ガラーンと大きな音をたてたドア。
『いらっしゃいませ』
ユカさんは太陽よりも眩しい笑顔であの男に挨拶をする。
『こんにちは、ユカさん』
互いに少し見つめあってから2人は、私のほうへと足を運ぶ。
『ケイスケさん、お金貯まったんですか?』
『あ~はい。今月の給料が入れば飼えそうです』
あの事件以来、2人はお互いを名前を呼び合う仲になっていた。
少し前までは、嫉妬に狂っていたが今はなぜか落ち着く。
日常の中の一部になってしまった。
『お金の面はクリアできても…』
『以前、女性と来られた時に怒られてましたね。あの人って…』
『そうなんですよ!絶対に許可してくれないと思います』
あの男が物寂しそうな顔を見せた後に、私に笑顔を見せた。
『こいつを手に乗せてもいいですか?』
『えっ、あっ、はい。大丈夫ですよ』
そういうとユカさんはかごの蓋を開けて両手で私を持ち、かごから出した。
緊張する。
あれだけ私に対して好感を寄せていたあの男が、いざ私に触れると私を拒絶するのではないか?
誰だって拒絶されることは傷付く。
しかし、私がここでどう足掻いても相手の感情をコントロールすることはできない。
彼女はゆっくりとあの男の、広げた両手に私をのせる。
あの男の体温が私の体に染み渡る。
『やっぱりこいつは、大きいな』
あの男の目は、キラキラと輝いている様な気がした。
『日本じゃこれは味わえないよ!』
『そうですね、この子はそこら辺じゃ味わえません!』
心の奥が熱くなっていくのがわかる。
『こいつは何か可愛いな!』
あの男はそういうと、私を撫で始めた。
この優しく懐かしい感覚から生まれる想いは何なんだろうか。
これまで店を訪れた人は、私を珍しがり私の前まで足を運ぶ人は少なくはなかった。
そんな中で「あの男」は私の中で強い存在感を放っている。
あの男とユカさんは、優しい目で私を見つめて時々、顔を見合わせて笑う。
体から湧き上がる熱い想いは、私に安心感や幸福感を与えてくれる。
ユカさんと私とあの男の、3人で一緒に毎日を過ごすのも悪くはないのだろう。
しかし、ここで忘れてはいけない事がある。
この前あの男と一緒に店にやって来た女性の存在。
想いが募るほど相手の細かい所が気になり始める。
それが自分にとって不幸をもたらすものだったとしても私達はそれを知ろうとするだろう。
いや、「現実を否定する」為に知ろうとするのだ。
ただ今だけはこの幸福感に包まれ、2人の笑顔を私は眺めていたい。
【登場人物】
私 →他国からやって来た。硬い体を持っている。
ユカさん→22歳の店員、着痩せするタイプ。
あの男 →ケイスケ。大学生
同行者の女性→ケイスケの彼女?