第一章第一節 『Debriefing, R&R(作戦後会合及び休息と回復)』
例年より早く梅雨が明け、綺麗に晴れた6月の中旬。
フライングして現れた入道雲が白く光るのを全開にした部室の窓の向こうに見ながら、矢狭間高校軍事研究同好会の部長である俺、汐崎由弥はパイプ椅子の上で脱力していた。
(なんてザマだ……)
北校舎特別棟4階の最奥部に位置する部室は、広さ十畳余りの元実験準備室で今も理科系の実験に使うであろう多種多様な実験器具が雑多におかれている。
学期末テストを前に活気付いた部活の歓声を遠く聴きつつ、部員である他4名も、部室中央に広げられた会議用テーブル二脚を囲みパイプ椅子に腰掛けている。
俺たち5人の手にはそれぞれ「Mission Failed――K.I.A.」すなわち“Killed in Action”と表示されたポータブルゲーム機が握られている。
つい今しがたまでプレイしていたそのゲームは、リアルな戦場を再現したガンシューティングゲームで、多彩な協力•対戦プレイを売りの一つとするものだ。最近発売されたばかりのこのゲームを軍事研全員で示し合わせて買い、今日早速持ち寄って話題の協力プレイを体験してみたのはいいものの、その難しさに五人とも蹴散らされ、今のような事態となっている。
俺個人としては、敗因は常に五人のチームワークの無さにあったと思うのだが、軍事研の軍事系女子四人組は一向に悟る様子はない。
「ったく、即死しやがって。由弥のおかげでミッション失敗だぜ」
それどころか、自分のことを棚に上げて俺に責任の全てを押し付ける始末だ。
「お前な………だったら邪魔するようなことすんなよ」
足元に転がっていたさっき投げられた空き缶を拾いながら文句を言い返す。ほら、少し床にこぼれてんじゃねえか。これを一体誰が掃除すると思ってやがる。
「それにお前だって被弾して瀕死だっただろうが」
服や側頭部に雫がかかってないか微妙に心配しながら、俺は自己弁護もかねてエレノアの失態を思い出させてやる。
「っせーな。何なら表出るか?」
完全に喧嘩腰の物騒な返事を返しつつ指をぽきぽき鳴らして見せるのは、さっき俺と一緒にガソリンスタンドに陣取っていた同じ2年C組のエレノア・H・レーマンだ。
エレノアはゲーム内で使っていた女性キャラと同じ、適当な長さで切りっぱなしにした綺麗な銀髪と碧い瞳、透き通るような白い絹肌という華々しい外見の持ち主だ。一般的な日本人女子の平均身長からすれば長身な割に、それを感じさせないメリハリあるプロポーションというモデル並の体型も相まって、1週間に2,3度は告白されそうな次元の容姿を持っている彼女であるが、学内での人気はそこそこの度合いを保っている。男子陣と比べても遜色のない身長と体力もさながら、その理由はもっぱら短気の入った男勝りな性格とその奔放すぎる口調によるものが大きい。要は異性としてあまり強く意識されていないのだ。
その抜き身の性格は周囲との軋轢やトラブルを生じてしまう事もままあるが、まっすぐで裏のない性格のおかげでトラブルメーカーと言うよりクラスのマスコット的な存在に納まっている。
もちろんそのキツい性格が災いすることもあり、特に初対面では何かと勘違いされることが多いが、二年も中盤に差し掛かったこの時期となっては、それもまたエレノアのキャラとして全校はおろか他校にまで浸透してしまっている。おかげさまで一年生の頃みたいに上級生に絡まれたり、制服警官の皆様のお世話になることもめっきりなくなった。俺としてはありがたい限りなのだが………。
「最近は骨のある奴もいなくてさ。まあ言っちまえば体鈍ってるんだ。ほら来いよ?」
「行くかよ」
「何だつまんね」
本人はそう思っていないらしい。
まあそれはそれとしてとりあえず適当に置いとくとして―――俺個人はそれらの理由とは別にエレノアに好意的な印象を持っていると言っておこう。何せコイツ、たまに見ていて面白いのだ。
その主たる要因は、ひとえにその変わったパーソナリティにあると言える。エレノアは生まれこそ英国であるが、物心つく前から現在に至るまでずっと日本の専業農家である祖父母の元で育てられたらしい。そのために、当人の異国ナイズした外観にも関わらず、いちいち仕草が日本人っぽいのだ。
そのギャップがSd.Kfz.182や局地制圧用攻撃機のように、常識はずれなマッチ感があって萌え――いや、少なくとも可愛くはないのか。
「痛って!」
突然、脛に感じた激痛に思わず叫び声をあげてしまった。つま先で強かに蹴られたと分かったのはその直後だ。犯人は目の前のギャップ娘で間違いない。
「何すんだよ!?」
「何となく失礼な気配がしたから」
お前は気配だけで動くのかっ。
そんな反論はとりあえず飲み込んで、耐え難く痛む脛をさする。この通り、エレノア・H・レーマンと言うこの女の子は思考がすぐさま行動に直結する性格だ。その反射の速さは野生の獣を髣髴とさせる。
「エレノアさん。短気はあなたの大事な性質なのは分かるけれど、物騒な事は部長限定言動だけにしてくれるかしら?」
「イヤイヤイヤイヤっ!? フォローになってない上に、行動込みなのかよ!?」
お前らの口が物騒なのは、いまさらだからもういいけどさ!? お前らの物騒な行動にまで付き合ってたら、俺死ぬよ? 100%確実に。
傍らで何気にツッコミどころを用意してくれた一見して非常に温和そうなその美人は、わが部の副部長十三里美咲である。
彼女もエレノアや俺と同じクラスなのだが、教室での彼女は信頼も篤く学業優秀な大和撫子という猫を被っている。
正に日本美人の象徴の一つとなる艶のある長い黒髪と外面の慎み深さに加えて、勉学教養運動となんでもござれの才色兼備ぶりに学内全体で定評のある超絶美人だ。間違いなく校内で一番の高嶺の花である彼女であるが、一部内情を知る者たちの間では鉄面皮ならぬ"抗弾バイザー"や"似非なでしこ"の称号で以て呼ばれることがままある。その由来はもちろん、策士的な思考傾向と目的のために手段を選ばない姿勢、厚顔無恥で猫かぶりな性格からである。
「汐崎くん………貴方は一人の人間である前にわが部の部長なのよ? エレノアさんのお守りと躾は貴方の役目でしょう?」
「いや普通逆だろ!? 俺は部長である前に一人の人間だぞ!? それに部長職だって実際はお前がやってるし」
もういいからお前部長やれよ。俺は隠遁するからさ。
「いやだわ、汐崎くんの後釜なんて。私の器じゃないと思うの」
帰ってきたのは謙虚さの欠片もない返事だった。もうホント何なんだよお前?
頭痛を覚えかけた俺の目の前、机をシャツの袖に収まりきってない小さな手のひらが叩いた。すぐに俺が呼ばれたのだと気づき、正面に座る背丈のちっこい女の子に視線を向ける。
肩口辺りで切りそろえたボブカットにくりっとした目がチャームポイントのその女の子は、一見すると中学生かと思うほど身長が低い。そんな少女がホケ―ッとした無表情でこちらを見上げてくるのだから、余計に幼く見えてしまう。
「手榴弾……特に破片手榴弾を投げ返そうとしてはいけない……敵がピンを抜いてからどれだけ経ったか分からず、いつ爆発するか予測できないから」
失敗の表示が映し出され、操作待機状態のゲーム画面に目を落とし、的確に―――しかし(恐らく)無自覚に人の心の傷を抉るこの子は、名を金浦友愛という。外見年齢とは裏腹に、俺や先に紹介した二人と同じ高校二年生なのだから驚きだ。
あまり表情に富まず、良くも悪くもやることなすこと迅速的確である、と言うことから部内で付けられたあだ名は無人航空機。つまりはロボット少女と言う類のものだ。実際、無表情ながら一部の隙もなく立ち回る姿を見ていると、個人的にはピッタリなあだ名だと思えてくるから始末に悪い。
「目標捕捉……」
的確すぎるタイミングでこの一言だ。まるで俺の思考がダダ漏れになっているかのような的確さ。上目遣いが超怖い。俺はいったい何の標的にされたんだよ。
「うふ」
うん、その顔全く笑ってないからな?
いつもは寡黙キャラで通してるのに今日に限って饒舌なんだな、君は。
………俺の言語崩壊は置いといて。
「う~………先ぱぁい………」
すぐ背後でした間延びした声に俺は無意識にため息を漏らしてしまう。
背もたれ越しに振り返った先にいたのは、小さなポニーテールを揺らしてうなだれる、またも女の子だ。
「今度は何なんだ鮎川?」
「ニ階級特進なんてイイですね。いっつもボクを置いてくんだから、追っかける身にもなってくださいよ」
鮎川 樹と言う名のその後輩女子は、ゲームを手にしたままそう言うと、口を軽く膨らませた可愛げな仕草で拗ねてみせる。
健康的な脚線美と、やたらと雰囲気に合っている短めポニーテール,少し日焼け気味の肌やなんかを見ていると、本来陸上部辺りで自己研鑽に励んでいる方が絵になるんじゃないかと思える一年生だ。
中学三年の春に当時二年生だった樹に会うまでは、所謂ボクっ娘が実在するなどとは夢にも思わなかった。どこまで本気か分からないような言動をとることも多く、関わる気が失せる程度にはコイツもなぞ多き人間だ。
「お前、今さらっとスゴい………というかヤバいこと言ってたの、自分でもわかってるんだろうな?」
二階級特進。それは軍隊および警察関係者を中心として、殉死を意味する言葉だと言うことはそれなりに有名なことだろう。それを追うということは自らも死を選ぶと言うことに他ならない。
冗談で口にしていい内容ではないのだ。
「ハイ。たとえ地の果て、地獄の釜のそこまでもお供しますよ?」
「いやお前―――」
さすがにちょっと言ってやろうと口を開きかけた矢先、十三里が机を軽く叩いた音に出鼻をくじかれた。
「樹ちゃん―――私もあまりその手の冗談は好きではないの。そこまでにしてくれるかしら?」
「は~い」
「分かってもらえてよかったわ。汐崎くんもここまでにしましょ? それともまだ何か言いたいことがあるのかしら?」
間をとりなして、十三里は優雅にそう尋ねてきた。
「―――いやその………なんだ。折角もらった大切な命だし、冗談でも自分から捨てたいってのは不謹慎だなと思っただけだよ」
「それはつまり―――」
十三里はそこで、なぜか少し感心したように言葉を止めた。そのまま前髪を指先で撫で付けるようにいじると、十三里は再び口を開く。
「つまり、『俺は大切な人に俺と同じ険しい道を歩んで欲しくはない。それに俺はお前に追われるのに値するような立派な男ではないんだ』というわけね? さすが我が部の部長。人が言えない事をてらいもなく言って見せるのね」
「脈絡を全く汲んでない上になんだその俺のイタい子設定は………」
余りの暴言――もとい妄言に思わず絶句してしまった俺に、鮎川樹は目を一杯に煌かせると、鼻息荒くもたれかかってきた。そのまま俺の顔を覗き込むようにして顔を近づけてくる。
つか、男である俺にそうやって簡単に距離を詰めるんじゃない。体を寄せ合ってスキンシップなんて、基本的には女子の文化だろ? 男の俺に免疫はないんだよ!
「あー先輩顔赤い。実は先輩って不器用なクーデレさんだったんですねっ!? それもちょっと感性イタ目のっ」
「おい止めろっ! とんでもないデマを真に受けるな!」
あまりにもひどい言われ様にまた、しかももうこれ以上ないくらいに強く反発してしまった。まさに拒絶反応絶賛促進中だ。うわぁ、我ながら酷い日本語………。
そもそも、100%自覚済みのボクっ娘プレイヤーに痛いとか絶対言われたくない。
「ハァー………先輩は一体いつになったらボクにデレてくれるんですかね………ポッ」
早々に俺から離れた鮎川は乙女チックな素振りで頬に手を当てて呟く。その口元がニヤニヤと緩んでるのが鬱陶しい。何だそのキャラ。ポッとか口に出してんじゃねえ。ホント………一体全体どこまでが本気なんだ? こいつの場合その判断が難しすぎる。
兎にも角にもそろそろ話を締めておかないと、話が際限なくだらけてしまいそうだし、この辺りでいったん区切りとしよう。
若干以上に異常であるが、これら軍事系女子4人組と俺、それにこの場にいない3年の先輩1人を合わせた合計6名が市立矢狭間高校軍事研究同好会の部員全員である。
「それにしても、またやり直しかぁ!」
エレノアがゲーム機を机上に放り投げる様に置くと、パイプ椅子の背に体重を任せる。まあそこは俺も同感だ。どうにもこのミッションはクリアできないし、出来る気がしない。
「あ~、やっぱり銃は自分の手で持たなきゃダメだな」
そんなヤクザみたいなことを言って、エレノアが腰の後ろからおもむろに取り出したのは―――シルバーの金属光沢が煌く、重厚な一丁の自動拳銃だった。
周りから頭一つ飛び出しているとは言え、まだ女子高生であるエレノアの手にはどうしたって大きすぎる印象のその軍用拳銃は、通常は回転式拳銃に使われるような強力なマグナム弾を使用する有名な自動拳銃―――デザートイーグルだ。
本来ならば自動拳銃に使用されるはずのなかった50Action Express 弾による反動は半端なものではなく、十代半ばの女子に扱えるものではないはずの代物だ。どうしたって女子高生の手の中では違和感しか無い。
それに何より、ここは銃禁止社会の日本国内だ。エレノアの手にするデザートイーグルは、もちろん精巧に作られたモデルガンだけどな。
「~~♪」
何か鼻歌を歌いながら、エレノアはそれを掌でさすり、銃身上部のスライドを半分だけ手前に引いて、銃身内部を覗いた。薬室内に弾が装填されているかを確認するための所作なのだが―――驚いたことに、DE内部に黄銅色の銃弾が入っているのがかいま見えた。
随分と凝った作りをしているモデルガンのようだ。それこそ何も知らなければ本物と見間違いそうなくらいに。
「随分と精巧なオモチャね。まるで本物みたい。どこの作品かしら?」
十三里さんが何やら操作していたゲームから目を離し、エレノアにそう言った。途端エレノアはにやけた顔を改め、不機嫌そうに眉を吊り上げてみせる。
「うっさいわね。どこだっていいでしょ? ………皮肉屋」
「あら? 私は素直に感心してるだけよ? そんな精巧なモデルガン、どこにだって売ってないもの。是非とも発売元を教えて欲しいわ」
やはりそういうことか。アレはエレノアが自分で改造を施した代物なのだろう。俺もあまりよくは知らないが、モデルガンというものは精巧に作り過ぎればそれは本物の拳銃と同等に、銃刀法の規制対象になるはずだ。何せ、例え発射機構が付いていなかったとしても、実際に発砲してみない事には本物と見分けがつかないのだから。
「教えねーよ、バーカ」
最後に子供のように舌を出して顔を背けると、エレノアはスカートを穿いているのも構わず、パイプ椅子の上であぐらをかく。ギャップ娘の真骨頂の一つだ。
その様子に、十三里はわざとらしいほど冷めた表情を作る。
「あら、はしたない」
「あ゛?」
「落ち着けよお前ら」
今この瞬間にも喧嘩に突入しそうな2人を、見るに耐えなくなって止めに入る。たかが女子高生の喧嘩と思って嘗めるなかれ。こいつらの喧嘩は、軍事研ならではの知識をフル動員して、近接戦闘張りの激しさに発展しかねない。もしそんな事になったら部室なんて一溜まりもないだろう。
「分ぁってるよ。ったく……」
エレノアはエレノアで、自分の喧嘩っ早い性格に思うところがあるらしい。憤懣やる方なしといった様子ながらも身を引いたエレノアに、俺が関心半分で胸をなでおろしたのも束の間―――
「大体、デザートイーグルなんて、どこがいいのかしら?」
「オイ」
この似非なでしこさんはどうしても、日英間代理戦争を勃発させたいと見える。挑発とも捨て台詞とも思える台詞を吐いて足を組んだ。
「デザートイーグルの何が悪いってんだよ?」
エレノアももう完全に喧嘩腰だし。笑顔でこのまま避難しちゃっていいかな? 俺も手は尽くしたことだし。
さっきから俺の奮闘を尻目に空気と化している友愛と樹よろしく、背景と同化することを決意した俺は、話の行く先を黙って見守ることにする。
当然、ゲーム画面を凝視しましたよ? そりゃ勿論。だって、この二人の間に入るとか、最低でも陸軍機甲部隊一個中隊が必要だ。
「大体、拳銃にそこまでの威力がいるのかしら? クマと戦う訳でもあるまいし、対人戦なら通常弾でも十分じゃない」
足組み腕組み、上から目線――女王様然とした傲岸不遜さで十三里が言った。
「9mmじゃアーマー装備者に対して効力がないだろ」
負けずに言い返すエレノア。ボディアーマーはもともと拳銃弾を止めるよう発達してきたもので、今では9mmだけでなく、アサルトライフル弾をも止めるよう作られたものまである。
「考えなしに撃つからよ。殺傷目的なら頭か首、行動抑止なら足か腕を撃てばいいじゃない。マグナム弾なんかで手足撃ったら、もげるわよ?」
は、花も恥らう女子高生があんまりグロいこと言っちゃいけませんっ。今ちょっと想像して俺ですら気分悪くなったぞ。
「でも重装兵相手では歯が立たないじゃねえか」
それも確かだ。装甲兵相手に、9mm弾の付け入る隙なんかない。ただ、それには一つ、徹底的に封殺できる反論がある。
「そもそも拳銃で重装兵を相手にすること自体間違いよ」
うわー身も蓋もねー。さすが抗弾バイザー。容赦ねー。
まあでも、理が十三里にあるのは明らかだ。わざわざ拳銃で戦うより、徹甲弾撃てるライフルや爆発物を使うのが、妥当な判断だろう。
「それは身も蓋もっ……!」
「銃に浪漫をもとめるのは筋違いよね? 何せ兵器は実用性にこそ真価を問われるのだから」
猛攻だ。エレノアにこの論理武装を切り抜ける手腕はない。
「~~っ! ユウヤも黙ってないでなんか言えよ!」
分かってたけどね? 事前に予想できたけどね? 折れるの早くないすか? そしてこいつ、案の定俺に話を振ってきやがった。
十三里は十三里で「何でも来なさい」とばかりに、こっちを優美ながら鋭い流し目で見てるし。
「はぁ……」
観念して話に混ざろうか。十三里を論破できるか正直わからないけど、劣勢のエレノアに微力ながら加担してやるのも悪くない、と俺が口を開きかけた時だった。
ヴ―――。
5つの短いバイブ音が静まり返っていた部室に響いた。
この部室は北校舎4階の一番奥まった場所にある。校舎の構造上、この教室に来るためにしか使われない通り道がある。今のバイブ音はその通り道に鮎川が仕掛けた来訪者感知用警報である。
全員の行動は実に迅速だった。
エレノアは手にしたモデルガンを腰に戻すとともに、ゲーム機を全員分受け取り、自身のカバンに滑り込ませた。
金浦は机上の火器系雑誌を棚に入れ、どうやったのか、その戸をきしむ音一つ立てず閉める。
鮎川は机の中央にさも始めからそうであったかのようにお菓子を広げ、ほぼ同時に机の天板下からノートと書類を取り出して並べてみせる。
俺はというと、傍らに立ち上げてあったNPCを目の前に持ってきて、その画面に視線を移す。
最後に十三里が椅子を立ってホワイトボード前に移動し、来訪者の接近に対する即時対応が完了した。
それら統率の取れた隠蔽工作が完了した直後――――
バンッ!
頑丈な教室の扉を壊しかねない勢いで開け――
「全員動くなっ!」
鬼気迫る叫び声と共に、その人物は飛び込んできたのだった。
第一話投稿ですっ!
しばらくは学園もの的に進めて行きますので、主人公たちの少し変わった"のほほん"とした日常をお楽しみいただけたら幸いです/
誤字脱字・矛盾点の指摘等を含むコメント・感想大歓迎です。よろしくお願いします!