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冒険者ギルド/看板に書かれた象形文字にしか見えない/なのに意味が頭に浮かぶ。
「これがシロさんがかけてくれた魔法か」
目に入った瞬間に翻訳/本を読むよりはワンテンポ遅いけれど、実用には十分だ。
少なくとも意思の疎通だけはどうにかなりそうだとわかる。
僕は扉を開け、ギルドに。
*
ギルドの中/コンビニくらいの広さ/煙った空気/アルコールの匂い/テーブルとカウンタにはまばらな人の姿/僕を見やるいくつもの目――すぐに僕への興味が失われる。
まっすぐカウンタへ向かう。
カウンタの中で頬杖をついた女性が目だけで僕を見る。
無言。だから僕から話を切り出す。
「ここに来れば仕事があるって聞きました」
「ギルドは初めて?」やっと女性は身体ごとこちらを向く。「冒険者の登録は?」
「ここで登録できますか?」
「文字は読める?」
「翻訳はできます」
「変な言い回し……、まぁいいか、これに目を通して」
女性が紙をテーブルに置く。わら半紙くらいの質感。この世界では紙の普及率はそれなりにあるのか。
目を通す。といっても書いてあるのは数行。
「要は、社会に迷惑をかけるなってことですか」
「社会ってなんだ?」
「ええと、悪いことはするなって意味ですよね」
「そうだね。なるほど、帝国語は得意じゃないみたいね」
翻訳、という言葉を、僕が外国人だからと受け止めたらしい。
「納得したら、ここに名前を書いて」
羽ペンを受け取る。紙の上で手を動かす。日本語を書いたつもりが、手は看板で見た象形文字みたいな文字を書きこんでゆく。
「七季? やっぱり帝国の名前じゃないね。生まれはどこ?」
「東のほうから来ました」
消防署のほうから来ました文法でごまかす。話を変えなければ。
「それで、仕事は」
「いろいろあるけど、あんたはなにが得意?」
「これから決めようと思うんですけど……、魔法を身につけるにはどうしたらいいですか?」
「魔法使いなの?」
「素質はあるみたいなんです」
「やったことがないのに素質がある、ねえ」女性はちょっと笑う。「一応、基礎の本ならあるけど」
「読ませてもらっていいですか?」
「好きにして」女性はカウンタの下から本を取り出す。「貸すのは無理だから、その辺で読んで」
「ありがとうございます」
空いている席に向かおうとする。そこを呼び止められる。
「なにか飲み物とか頼まないの?」
「出世払いにしてくれるのなら頼みます」
「最初の仕事でおっ死ぬ可能性があるやつにはツケはきかないよ」
「ですよね」
適当に返事をする。話をするどころではない。
僕は席に着くなり本を開く。
魔法/ファンタジーらしさの象徴。
ちょっとどきどきする。