01
お前なんて、生きてても死んでても同じだ。
要約するとそんなことを言われた僕――藤代七季は「そっかー」とうなずく。
その三日後、入学したばかりの高校をドロップアウトした。
言われた/そう認識された人間が、人間たちにされること――イジメが始まる寸前で逃げ出したのだ。
辛いことから逃げたい欲求と包丁を持ったかわいいヤンデレには全面降伏する主義だ。今のところ前者にしか降伏したことがない。
半年後、ニートと書いて僕と読む人間ができあがった。
せめて古来からのニートたる高等遊民を名乗りたかったけれど、それにふさわしい知性と教養が足りない。
なので、少しでもマシになろうと図書館通いをしていた。時間はある意味で無限にある。時間しかない。
通学・通勤時間を少しすぎた午前九時。
今日も家族に見つからないよう家を抜け出す。
そして、道幅いっぱいを使って走るトラックが僕めがけて突っこんでくる。
意識が張りつめる。尋常ではない集中力が生じる。状況が把握される。
運転席――顔の見えない誰かが居眠りしている。
僕――借りていた本を抱きしめる。
現在進行中――巨大な質量が迫ってくる。
なにか言うべきか。考える。思いついた。
「ざんねん、にげられそうにない」
衝撃。
本が宙にばらまかれる。身体が時速百キロで真後ろにすっ飛ぶ。
そして身体よりさらに後方に僕の意識がすっ飛んでいた。
僕の身体がトラックの衝撃で真っ赤な血肉のかたまりに変形してゆくコマ送りの光景を、僕の意識がながめる。
なんだか不思議、奇妙に冷静。
ああ、これが幽体離脱か。
なるほど、とうなずこうとした。身体がないからできなかった。
急に視界が真っ暗になってゆく。
展開が早すぎる。
こういうのって今までの人生を走馬燈(どんなものかよく知らないけれど)で見て、後悔とか悲しさとかがこみあげてくるものではないのか。
待って、つまりこの状況って僕が今から死ぬってことじゃ――
ぷつり、と意識が飛んだ。
それから声がした。
「ようこそ、アイドル」