村娘と白い竜
朝になった。
私、リュキ・エルメールは首飾りを取りに行く決心をした。
まず、ドラゴンがいたという事があやふやだし。みんなに否定され続けたら不安になってきたし。白昼夢ではないと思うんだけど。
昼になってから、私はあの洞窟へと歩き始めた。
エレリア村の裏手にある森の奥、徒歩1時間ぐらいだろうか?そこの山肌に洞窟はあった。
私は恐る恐る洞窟へと足を踏み入れた。
洞窟の奥を覗いて見ても、何もいない。
「なんだ……やっぱり見間違いだったのかな?」
巣など痕跡もない。ただ、石の床が広がっているだけだった。
私は、首飾りを探すことにした。幸い、たいした時間もかからずに見つかった。
やはり、ここで落としていたのだ。
「良かった……よし、帰ろうかな」
独り言を呟きながら洞窟の入り口を向いた。
その時、洞窟の外からバサバサという羽ばたきの音が聞こえた。私は咄嗟に、後ろにあった大きな岩に隠れた。
ドラゴンだ……やっぱりいたんだ。
息を殺し、入り口を伺う。
そこには白いドラゴンが着陸する姿があった。ドラゴンは羽を閉じ、洞窟の奥へと歩いていく。
私はバレないようにと、必死で隠れていた。
ドラゴンは何もない石の床に寝転がり、顔を埋めた。
私はドラゴンが起きないようにゆっくりと洞窟の外へ這い出した。
幸いドラゴンは起きなかったようで、私は安堵の息を漏らした。
洞窟から離れ、森の中に入っていった。ドラゴンのいる洞窟から離れ、私は腰を下ろした。
「はぁ……怖かった……」
ドラゴンはやっぱりいる。見間違いでもなく、夢や幻なんかじゃなかったんだ。だけど、村の人は私の言う事を聞いてはくれない。どうするべきか、ドラゴンが村に来たら大変だ。
「そう言えば家に魔物図鑑があったような……探してみよう」
敵と戦うには敵を知ることが大事だもんね。私は村へ帰る事にした。
◇
「ドラゴン……ドラゴン……これかな?」
家の書庫にあった魔物図鑑を見る。これは、お爺ちゃんの遺品で冒険者だった時に重宝したそうだ。普通に購入したら金貨1枚にはなるという高価な書物だ。その分、私は信頼をしている。なんたって高いんだから、間違ってないはずだよね。
「……あった、ドラゴン」
ドラゴン。大地を這い、空を舞う巨大な竜。硬い鱗で覆われ、真紅の火炎を吐く。高地に住み、人里を襲う。国の管理する特定危険生物である。
「……うわぁ」
思わず引いてしまう。こんなに怖いのか。……まだ続きがある。
ドラゴンには多種多様な種類があり、様々な物が存在する。特に危険視されているのが、サラマンダー、ヒュドラ、ドレイクである。また体色が白色の物はとても危険であり、ドラゴンの中でもっとも厄介な種類である。
「白い……ドラゴン……」
白いドラゴンは一種類しか存在せず、判別は簡単である。過去に確認されているだけで二度出現している。
通称、ハクリュウと呼ばれる。
「ハクリュウ?」
夢幻竜は食べた物に擬態する事ができる。とても厄介な能力で、飛翔する大鷲や魔獣、鉄壁を持つ大亀、挙げ句の果てには人間にすら化ける事ができる。そのため見つける事が困難であり、その存在が与える影響力が凄まじい物である。
「……こんなのが村の裏に」
王国に人間として隠れ、夜な夜な人を貪り食らうハクリュウの伝説は有名であり、人食い竜とも呼ばれている。恐らく人間が好物であるとされる。
「…………」
私はそっと本を閉じた。
本当に本当なのだろうか?考え過ぎではないのだろうか。
でもドラゴンがいることは事実だし、怖い事は怖い。本当に夢幻竜であるとしたら、私は一体どうすれば良いのだろうか。
「みんなは私を信じてくれないし……一体全体どうすれば……」
私はお世辞にも頭がいいとは言えない。私は頭を抱えたまま、時間だけが過ぎて行った。
そのまま夜になってしまった。
先日までと同じ環境で同じ布団なのに、今日はなんだか頼りなく感じる。この温かみでさえも怪しく感じてしまう。
危険が近くにある知ってしまうと気になって冷静では居られなくなるのだ。私は神経質だし、仕方ない。
私は恐怖に怯えながら眠った。